第13話褒めと酔いの夜

 大阪駅から電車で数駅でいった駅にあるとある提灯街。そのある一角の居酒屋が今回私がお呼ばれするジャパンリビングで働き始めた歓迎会の場所だった。

 部署内内での歓迎会。若干8名だったけど、私のために集まってくれてたことにとても感慨深かった。


 見崎部長が少し遅れてきたものの私の歓迎会は乾杯の音頭で始まった。開口一番、山江係長が、部下でもある富沢さんをいじろうと「この子はねえ、」などと始まったら、山江さんの素のボケと富沢さんの上司いじりのツッコミが軽快で、楽しく飲んでいる席でのことだった。


 朝井主任が、私に向かい笑顔になりながら口伝えした。


「伊月さん、あなたすごいわよねえ。感心したわ。1日目は力が入るもので、あんなに上手に私の言葉を噛み砕いてデザインに表現くださるんだもの。すごいと思ったわ」


 唐突に話しかのように、酔いも回ってきた頃、色目づかいの少し雰囲気のある目つきで私を見つめ、褒め称える。まるでその褒め方は、男性が女性を口説くかのような物言いで、私の酔いを少し覚まさせた。


 と、その様子を見ていると、見崎部長と山江係長が、朝井さんを見て、私に口添えし出した。


「危ない。あぶない。気をつけなよ〜。伊月さん。この朝井、そっちの気もあるみたいだから……クシシッシ……」


「えっ……」


 びっくりした顔をしていると、もう酔いが回ってきたのか、朝井さんが反論する。


「な〜に〜。人が真剣に褒めてんのに、その気になったらどうするのよお〜!?」


「こらこら、朝井。それぐらいにしときなさい」と見崎部長。

「そうそう、あんまり新人いじめは初日だけにしとかないと、バチ当たるよ」と山江さんが冗談っぽく言い放った。


「でも朝井の言うように、伊月さん、あなたのやり方すごくいいと思うの。今日だけじゃなくて、これからもずっとその調子でお願いね?」


 そう言うのは、見崎部長は何やら訳ありかのように答える。その言葉の後から、富沢さんと山江さんの掛け合い漫才のように以前働いていた人の愚痴大会が始まった。


「そう、以前の人とは大違いなのよね。伊月さんってこんなに素晴らしい人が来てくれて、とても嬉しいの」


 と答えた富沢さんの後に山江さんが口を出す。


「そうやなあ。あれは伊月さんが入る少し前やっけ? 僕ここには不要みたいなんで、仕事しません。なあ〜んて、突然言い出す新人いたもんなあ!? クッシシシ……」


「えっ、そうなんですか?」


 返す私に色々以前の人の事件報告の如く、あがる奇行の数々を聞かされた。


 入社初日から「今日からですか?」と電話を始業前にかけてくる変な新人だったと皆んなで大笑いしていた。

 私とは違い、結構勇気いることをする新人さんだなあと話に聞き入っていると、あっという間に2時間の歓迎会は終わりを迎えた。


 見崎部長から最後に締めの一言があり、最後に改めての挨拶と歓迎のお礼を言うと歓迎会はお開きになった。


 私たちは提灯街を抜けみんな駅へと帰る。私はこの提灯街の隣駅が最寄駅だ。駅も一駅なのでゆっくりと歩いて帰ろうと皆さんと駅で別れ、私は一人ほろ酔い気分で家路をゆっくりと帰る。


 少し飲み足りない気分でもあったため、姉マンション近くのコンビニに寄り、ほろ酔いと焼酎数本を購入し、誰もいない姉のマンションに帰る。

 今夜は和姉も出張でいなく、子供の和馬くんも幼稚園のお泊まり会だ。


 そして旦那さんも朝まで飲み会と言うことで、大阪に移住するために越してきた二日目にして、一人のマンション暮らしのような気楽で姉マンションに帰ってきた。


 鍵を開けて、千鳥足気分で、ヨタヨタと自室の以前は和馬くんの寝室を間借りする形で昨日からお世話になっている部屋へと帰ってきた。


 カバンを適当に置きテーブルにコンビニの袋をガサッとガサツに置いて、女らしくない胡座をかき、ほろ酔いと焼酎でグビッと喉を鳴らす。

 ひとりになればこんなものだと、歓迎会でかしこまっていたところもあり、ひとりの大阪にて、開放気分を存分に味わう夜の23時も回る頃、マンション近くから犬の遠吠えが聞こえた。


 ほろ酔い気分で、そろそろ眠りにつこうかと思った。酔っているのもあり、お風呂はシャワーにしようか、それとも酔っていることもあり、朝にシャワーでも浴びようかと着の身着のまま、ウトウトしていた。


 ガチャ……。という扉が開いたような音がした。


 誰が帰ってくるのだろうか。この深夜の時間帯、今日は誰も帰るはずのないこの姉マンションに女ひとりの私。姉はもちろん、和馬くんのはずもないと思い、さっき鍵はかけたはずの扉が開いたと言うことは、ここの住人以外の誰でもないはず。


 もしかして旦那の由雄よしおさんなのかと少し不安になり、寝たふりをしてやり過ごそうとした。


 足音がこの和室に近づく。引き戸をゆっくり引いて廊下の明かりが部屋に入ってきた。机に顔を埋めながらも、腕から半目を覗かせてみると、影になりながらもそこに立っていたのは、和姉の旦那さんの由雄だった。



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