浮いた存在

 俺達が食事の会場に着いてからもう数時間ほど経っていると思うのだが、その賑やかさは留まることを知らない。ほとんどおっさん達によって埋め尽くされた会場は、未だに話し声で溢れている。


「なあ、ソウタ……。」


 (俺の)水の入ったグラスを片手に、壁に寄りかかったアキラが、俺に尋ねた。着いたときの威勢は何処かへ行ったのか、その声は弱々しい。理由は大体予想できるが、ここは彼の言葉を求めるとしよう。


「何だ? 飯を食い過ぎて腹が一杯になったのか? それなら背中さすってやるぞ。」


「いや違ぇよ……何で俺達は護衛なのにさ、対象に護衛を断られた挙げ句こうやって隅でチマチマ水を飲んでるんだろうな……。」


 そうこぼしたアキラは、グラスを呷った。トイレ行きたくなっても知らないぞ……我慢して膀胱が破裂したら笑えないぞ……。


「やっぱりその事か。まあ仕方ないさ。何せ側近の人達だけでなく、王様も文武両道なんだから。『俺達要らないんじゃないか』と思うような編成だよホント。まあ、その分俺達は隅でマッタリしてられるんだから良いじゃないか。」


「いやそうなんだよ? 分かってるんだよ? あの人達の護衛をするとなると、両脇で真剣な表情して常に周りに気を配らないといけない事も、お偉いさんとの会話もしないといけない事も……。」


「そこまでわかってるなら大丈夫だ。」


「ははは……俺さ、こういう各国の代表……というかドンの集う所ってさ、王子様や王女様とかも来てさ、顔と名前を覚えてもらえる貴重な場所になると思ってたんだ。」


「まあ、王族御一行が外出とかは流石に無いと俺は思うぞ。国内の貴族の集まりとかなら彼らの息子や娘も参加するかもしれないが、今回は国を跨ぐからな……。」


 というかコイツ、王族と関わりを持ちたいんだな。まあそこは個人の自由か。


「ですよねぇ~。」


「まあ俺達の他にも異世界人はいるんだし、彼らも同じ状況下にいるかもしれないから、探してきたらどうだ?」


「多分その必要はねぇよ。俺達みたいに浮いた存在は、水を入れたグラスの内側に付く、小さな泡のように勝手にくっつき合うからな。ほら、あっちから来た。」


 そう言って彼が指差した方向を見ると、上品な格好をした、風呂で会った男子二人組がこちらへ歩いてきていた。


「ケイタ、ショウヘイ、久しぶり。その格好結構似合ってるな。」


「ありがとう。この服はこっちの国の王様が貸してくれたんだ。汚さないように気を付けないとね。」


「風呂ぶりやな。漏れでたモン同士、交流を深めときましょや。」


「そうしようぜ。で、何するんだ?」


 すると、ショウヘイは目を一文字にした。何か企んでいる……?


「ほな、情報交換からいきましょか。まずは自分等がどこに転移したか……でええか?」

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