-55- 「ストローおじさん」

 学校で、変な噂を聞いた。


 最近出没する、ストローを人の耳に突っ込んで脳味噌を吸う、ストローおじさんと言う変質者の話だ。


 この話を聞いた時、嫌な予感がしたけれど、やっぱり学校からの帰りに出会ってしまった。 


 下校途中で変な男の人が立ち塞がったと思ったら、その人は手にストローを持っていて、「吸わせて〜」と言って追いかけて来た。


 全力で逃げたけれどすぐに追いつかれ、ストローを突っ込まれない様に両耳を手で塞いでガードした。


「吸わせろ〜」


 ストローおじさんは、ガードする手の上から、尖ったストローでチクチクと突いて来る。


 キキィッ、と車の急ブレーキの音がした。


「何をやっとるかっ!」


 大声と共に、一人のお巡りさんがパトカーから降りて来る。


 森崎君のお父さん、この町を守る駐在さんだ。


「やめなさい、嫌がってるじゃないか」


 そう言って、駐在さんはストローおじさんの、ストローを持った腕を捻りあげる。


 すると、ストローを取り落とし、側溝の蓋と蓋の間に落ちて、流れて行ってしまう。


「あ、ああ、あああああ〜」


 悲しげな悲鳴をあげ、ストローおじさんはがっくりと肩を落として大人しくなった。


 駐在さんは無線で何処かへ連絡し、しばらくするとパトカーが更に二台来て、お巡りさん達が降りて来る。


 色々事情は聞かれたけれど、手の甲をストローで突つかれただけで怪我はない。


 ストローおじさんは泣いているばかりで、お巡りさんが何を聞いても要領を得なかった。


「こりゃ、入院かな」


 お巡りさん達はそう言って、ストローおじさんをパトカーで連れて行った。


 それ以来、ストローおじさんの話は聞かない。

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