-11- 「鏡坊や その2」

 ある日、おばあちゃんが縁側で、何かぶつぶつと言っていた。


 おばあちゃんのそばの掃き出し窓に目をやると、ガラスにおばあちゃんと喋っている小さな男の子が映っていた。


 以前にも見た坊やだけど、僕にはあの子の姿を鏡を通してしか見えなかったし、声は全く聞こえなかった。


 けれど、おばあちゃんにはあの子の姿が直接見えていて、会話も出来ている様だ。


 僕は、おばあちゃんの肩を叩いて声をかけた。


「おや、真実ちゃんかい。今、この子とお話ししていたんだよ。真実ちゃんも一緒にどうだい」


 おばあちゃんの周りには、もちろん僕しかいない。


 けれど窓ガラスには、やはりにこにこと笑っている小さな男の子が、おばあちゃんの隣に映っている。


「僕とおばあちゃんしかいないよ」


 おばあちゃんは周りを見回して、そして不思議そうに首を捻った。


「あらやだ、本当ね。今まで誰かとお喋りしてたと思ったのに。夢でも見ていたのかしら」


 不思議がっているおばあちゃんを尻目に窓ガラスを見ると、一生懸命おばあちゃんに話しかける小さな男の子が映っていた。


 けれど、その言葉はおばあちゃんには届かず、やがてしょんぼりとどこかへ行ってしまった。


 あの子自体は悪いモノには見えなかったし、申し訳なかったとは思う。


 けれどもしかしたら、おばあちゃんの魂が体から抜けかけて、鏡の中へ行っていたんじゃないか、そう思うと怖くなった。

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