-3- 「コクリ」
うちの町内では、誰かが亡くなってお通夜をした晩は、式場を閉め切って何があっても決して戸を開けない仕来たりだ。
隣のお爺さんが亡くなった時は、家族全員でお通夜に出た後、お母さん以外式場に泊まり込む事になった。
扉も窓も厳重に閉め切り、若い男の人達が交代で玄関と裏口の番をする中、僕達子どもは早めに寝た。
夜中にふと目が覚めると、玄関の方が騒がしかった。
玄関の厳重な金属扉の向こうに誰かが来ているらしく、番の人達がインターホン越しに話をしている。
「だから何度も言ってるだろう。明日はどうしても外せない仕事で、朝早くから出発なんだ。今晩しか時間がないから、お焼香させて欲しいだけなんだ」
インターホンから、知らない男の人の必死な声が聞こえて来る。
どうやら、お通夜に間に合わずお葬式にも出られない人が、隣のお爺さんに最後の挨拶に来たらしい。
夜は絶対に扉を開けられない決まりだから、としばらく推し問答をしていると、奥で寝ていたおじいちゃんが起きて来た。
お前は誰じゃ、とおじいちゃんがインターホン越しに問いかけると、相手は近所に住んでる男の人の名前を名乗った。
何度か会った事があるけれど、声が少し違うような気がした。
「ふん、嘘をつくな。さっきそいつに電話したら、今は出張で北海道におるそうじゃ。貴様、コクリじゃろ」
おじいちゃんの言葉に、ちくしょう、と相手は舌打ちした。
「ふん、やはりか。貴様が出た以上、今晩は何があっても扉を開けんぞ。去ね!」
おじいちゃんが一喝すると、インターホンは静かになった。
「カマをかけたら簡単に引っ掛かる。チョロいのう、畜生は貴様じゃ」
おじいちゃんはニヤリと笑った。
「真実、あれはコクリと言って、通夜の夜に故人を狙ってやって来るバケモンじゃ。わしが死んだら、お前がアイツから守っておくれよ」
その晩は、寝ている大人達を全員叩き起こし、コクリが出たと朝まで大騒ぎだった。
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