第15話 不穏な依頼(2)
「な、何を言う!!!」
紬の言葉を聞いた依頼主の男が、怒ったように声を荒げる。冬至は目を細めて男を見据えたまま、紬に問いかけた。
「何故有毒植物だと思うんだい?」
「……先日上倉先生のところへ配達に伺った際に、同じ花の絵を見たんです。先生は私に薬品や薬草の配達を依頼することが多いので、その扱い方を誤らないようにと色々教えて下さるのです」
紬は一息吐き、緊張した面持ちのまま言葉を続ける。
「先日も最近仕入れたという薬草図鑑を見せて下さいました。そこに、その資料に描かれているものと同じ“
夾竹桃とは、葉が竹に似ていることと、花が桃に似ていることからその名が付けられた常緑低木で、葉と樹皮を煎じれば打撲の薬となる植物である。
しかし、葉、茎、根、花など全てが有毒であるため、決して口に入れてはならないこと。また、枝を燃やした際に発生する煙でさえも毒性があり、心臓麻痺などを引き起こす可能性があるため、部屋の中で燃やしてはいけないといった危険性も併せて記載されていた。
図鑑には他にもいろいろな薬草となる植物が紹介されていたが、絢爛な見た目や可愛らしい名前に反して強力な毒性を持っている夾竹桃が強く印象に残っていたのだ。
燃やした際に出る煙にすら毒性のある危険な植物を、睡眠導入の香木として売り出されては大変なことになる……紬がそう主張すると、男を見据える冬至と紫苑の表情が一気に険しくなった。
「で、出鱈目を言うな! これが毒な訳が無いだろう! 貴方達はこんなガキの言うことを信じるのか??!!」
疑いの目を向けられ、逆上した男がドンッと強い力で机を叩く。「こんな礼儀を欠いた対応をされたのは初めてだ!」と鬼のような形相で睨まれ、紬の肩がビクリと跳ねる。
「彼女は信頼のおける所員です。懸念点が出てきた以上、今回の依頼は
なに、調査自体は一日も掛からないでしょう。やましいことが無いなら、お調べしても問題ないですね?」
冬至が紬を庇いながら、冷ややかに言い放つ。紫苑は相変わらず無表情のまま男を見据えているが、その身体からはぞくりとするような殺気が漂っている。
「くっ……畜生……!!!」
男は顔を歪めて悪態を吐くと、誤魔化せないことを悟ったのか、懐から刃先の鋭い短刀を取り出し、体格に見合わない俊敏な動きで扉に向かって駆け出した。
あ、まずい……!!!!
今日は豊穣祭関係で多くの人が紹介所を訪れている。あの短刀を振り回されて人質を取られたり、怪我人が出たりしたら大変だ。
止めないと! という焦燥感に駆られて反射的に動いた紬の身体を大きな手の平が阻む。同時に黒い何かが物凄い速さで視界の端を横切っていった。
ゴトッ−−。
鈍い音がして、男の手を離れた短刀が床の上でクルクルと回転する。紬が瞬きをする一瞬のうちに、冬至の隣にいた筈の紫苑が逃走しようとする男を捕らえ、その喉元に自身の愛刀を突きつけていた。
数秒の沈黙が流れた後、男は悔しそうに呻いて観念したようにガックリと頭を垂れる。
「いやぁ、流石だね。」
冬至が紬の身体を解放し、紫苑を労いながらゆっくりと席を立つ。
「さて、貴方を近衛兵に引き渡す前に少し話を聞かせてもらいましょう」
そう言って腹黒い笑みを浮かべると、明らかに戦意を喪失している男を無理矢理引き摺って、幹部にしか入室が許されていない奥の部屋へと消えていった。
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