「『常盤色のオリサ』と黒龍」part11

 朝六時半。息が白い。学校に行くわけでもないし、こんなに早くから行動せんでもと思ってはいるのだが、何分なにぶん、三人とも起きるのが早い。そもそも、夜ふかしする習慣がないので仕方がないのだが。

 彼女たちの世界では夜起きていれば起きているだけロウソクを消費してしまうから、日が沈んだらさっさと寝ていたのだとか。それは三人とも共通の生活習慣だった。だからってこんなに寒い中を歩き回らなくても……いや、オリサは寒くないのか。今もノースリーブへそ出しホットパンツだし。すげぇな。


「なあ、オリサ」


 少し前を歩く農業大臣を見ていたら一つの疑問が蘇ってきた。


「なにー?」

「一番最初、みんなが自己紹介したときに、オリサだけあだ名みたいなの名乗ってたよな?」

「あだ名?あぁ『常盤ときわいろの』ってやつ?」

「そう。あだ名と言うか二つ名というか。それって目が緑色だからそう呼ばれてるの?」

「んー、びみょーに違うかなー。あれはあだ名じゃなくて名前の一部なんだよ」

「あれ?じゃあこれからは『常盤ときわ色のオリサ』って呼んだほうがいい感じ?」

「んー、それじゃ長くなっちゃうし今まで通り『オリサ』でいーよ。あたしの世界では、まず生まれたときに親から名前を与えられるんだけど、これはたぶんトールの世界も同じだよね?」

「ああ」

「そんで、あたしたち魔法使いは魔法を使えるようになったらそれに合わせて神様からもう一つ名前を与えられるんだ」

「え!オリサの世界っていつでも神様に会えるのか?」

「さすがにそんなことないよ。こっちでは、アレ何ていうんだっけ。えーっと『ジンジャ』って場所ある?」

「ああ、あるよ。神様をまつってるところだな」

「そう!あたしたちの世界もそれと同じような感じの場所があるの。たぶん神様に会ったことがある人なんていないと思うんだけど……、あれ?あたしたちみんな会ってるね」


 実際会ってみたら、微塵も有り難みのない老人だったけど。


「そんで、『ジンジャ』にいる人は神様と話せる人なんだよね。本当に話せるのかはわからないんだけど、神様が話したことをあたしたちに伝えてくれる人。神様が、魔法を使えるようになったあたしたちを見てそれぞれに名前を与えるの。魔法使いは神様にもらった名前と親にもらった名前を名乗るのが普通で、神様にもらう名前はたいてい色を使ったものなんだ。ちなみに、あたしがもらったのは『常盤ときわ色』『色』『瑠璃るり色』『櫨染はじぞめ色』の、なんと四つ!」

「四つ」


 多いのか少ないのかわからん。


「うん。普通はね、魔法使いが習得できる魔法の属性って一つだけなんだ。炎の魔法を習得したら普通は他のいろーんな魔法、例えば水とか風とか土とか光とかの魔法は習得できないの。でも、あたしはできた」


 あれ、オリサって実はスーパーエリートなのか?単に野菜に詳しい元気娘だと思ってた。詳しく聞いてみたかったが、彼女の様子がいつもと違うことに気づきその疑問を口に出すことはできなかった。『えへへ』と笑いどこか遠くを見つめるその目には心なしかいつもの覇気が感じられず、どこか影を感じた。

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