第12話「いきなり素手喧嘩!!」
「……かつあげなんてダサい。もうこんなことはやめるべき」
三人のゴロツキを前に、少女は強気の姿勢で言い放つ。
凛とした姿でゴロツキを睨みつけるその様は、いかにも正義の味方って感じである。
「お説教かよ」
「お嬢ちゃん、状況わかってる?」
「あ~あ、お前のせいで逃げられちまったなぁ。今日の稼ぎが台無しだぁ」
「こりゃあ、責任取って体で支払ってもらうしかねぇなぁ」
「げっへっへ」
ものの見事なテンプレ通りに少女を取り囲むチンピラ三人衆。
一人はスキンヘッドの大男。でっぷりとふくよかな体にトゲトゲのポイントアーマーを身に着けている。
どうみてもアレだ。古の名作で見たことがある。いわゆる北斗な世界のいでたちである。
もう一人はモヒカンの小柄な男。やっぱりトゲトゲの着いた鎧を肩とか膝とか肘、胸当て程度に着けている。
わりと露出度高めな防具なんだけど、これ、意味あんの?
最後の一人は長い髪を箒のように逆立てた筋肉質の男。やっぱりトゲトゲの奴を着けている。流行ってんのかな?
三人は少女を取り囲むように壁へと追い詰める。
人目につかない路地裏だ。叫んでも普通なら誰も助けには来ないだろう。
少女は杖を握って身構える。が、体格差がありすぎる。普通なら勝ち目は無い。
「しょうがない」
少女は呪文を詠唱し始めた。
よほど自信があったのだろう。
あのいでたちだ。魔法使いなのは間違いない。
強力な魔法が一閃してゴロツキ達は死ぬ。
本人もきっとそう思っていたんだろう。
だが、現実は甘くない。
「おらぁっ!」
「あ……」
ゴロツキの蹴りで杖が弾き落とされて転がる。
詠唱が止まり、集まっていた魔力も霧散していく。
「さて、何して遊んでくれるのかな? お嬢ちゃん」
両手を掴まれ、少女は壁に押し付けられるように組しだかれる。
「へっへっへ……さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」
「げっひゃっひゃっひゃ」
もう一人の男が少女の下腹部へと手を伸ばし、その秘部を覆う布を剥ぎ取らんと迫る。
「……た、助け――」
「助けなんて来ねぇよ」
耳元で囁かれた言葉に少女の顔が青ざめる。
「実力を見誤ったなぁ」
「正義の味方気取りの女の子は……女の子にされてしまいましたぁ」
「よかったなぁ。女に生まれた喜び、じっくり味あわせてやるぜぇ」
「げっひゃっひゃっひゃぁ!」
そのままお楽しみの所を覗いて楽しむってのも前世ならありだったんだけどね。
そろそろ、助けてあげましょうか。
「やめろ」
俺は三人の馬鹿に声をかける。
「あぁ?」
「その手をどけろ」
簡潔に、要求をのべる。
「なんだぁ? てめぇ」
ゴロツキが少女を解放して、今度は俺を取り囲むようにして対峙する。
「今日は多いなぁ。流行ってんのか?」
「いい年こいて正義の味方ごっこかよ」
「ガキならガキらしく、さっさと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってなぁ!」
「がっはっはっはっは」
俺は一番近くにいる弱そうなチビに向かって無言で拳を振りぬいた。
「ぶべらっ!?」
とりあえず斬鋼剣は使わないでおいた。
殴った顔面が破裂でもしたら大変だからな。
「て、てめぇ」
鼻血をボタボタ垂らしながらこちらを睨むチビ。
お、さすがにジャブだけじゃ倒せないか。ちょっと手加減しすぎちゃったかな。
なんせ筋力Sランク。本気を出して殺しちゃうのもかわいそうだし?
「やろう!!」
ぶっ殺してやーる、って感じで殴りかかってきたデブの腹にワンパンぶちこむ。
「ぶげぇ」
もちろん手加減して。
拳がものの見事にふくよかな男のでっぷりとした腹にめり込んだ。
「こ、このやろ――」
顔にも軽くポンと拳をぶち込んでみる。
「ぶべら!?」
わりと力を抜いた攻撃だったんだけど勢いよく吹き飛び、隅に積んであった木箱を踏み潰して破壊するわがままボディ君。
弁償代は君が払ってね?
「てめぇ!」
体格の良いゴロツキCが襲い掛かってくる。箒頭の奴だ。
「遅い」
俺は相手が踏み込んだ瞬間に拳を放った。
「ぶぼっ!?」
相手とは距離が離れたままだったが、相手の顔面が吹き飛ぶように弾かれる。
「!? っ!?」
困惑している様子。無理も無い。
剣閃砲の要領で拳に魔力を集めて、ワイバーンを倒した時みたいに少量だけ放ってみたのだ。
虚空に向けて軽~くジャブ、って感じでね。
「もう一発」
「おごぉっ!?」
ちょっと力を込めてストレートを虚空に放つ。
魔力塊を顔面にぶち当てられて吹き飛んで転がるゴロツキC。
「な、なんなんだ、こいつは……」
上体だけ起き上がらせ、驚愕の声をあげる箒頭。
「い、一体、何しやがった……今の、無詠唱魔法か?」
チビも驚愕しながら後ずさる。
いいえ、ただの剣閃砲です。しかも弱体化版の。
「つ、強ぇ……」
デブも上体を起こしてこちらを見つつ、歴然とした力の差に驚愕する。
「まだやるか?」
「ひ、ひぃ……」
「お助けぇぇ……っ!!」
逃げ出す箒頭とチビ。
「忘れ物だぞ」
倒れたままのふくよかボディをひょいっと掴んで投げつける。
「ぐぇぇ!?」
チビが下敷きになった。
「ひぇぇ、ば、化け物ぉっ……!」
こうして三人のゴロツキはあわれ敗走するのだった。
「大丈夫?」
少女に声をかける。
ずっと立ちすくんでいたのだろう。緊張が解けたようでストンとその場に崩れるようにへたり込む。
その衝撃でフードがぱさりと落ち、その顔があらわになる。
まだあどけなさを残す顔立ちの少女だ。年は俺と同年代って感じ。向こうの世界では高校生くらいの年頃に見える。
背丈はやや小柄。チビってほどではないがモデル系の高身長ではない。
背中まで伸ばした黒い髪。燃えるような真紅の瞳。整った目鼻立ち。推定魅力はAランクってとこかな?
だが、彼女の真の魅力はそこではない。そう、プルンプルンでポヨンポヨンの、弾けるようなお胸様だ。
フードとローブ、ゆったりとした服装で体のラインはよく見えないが、それでもその存在を主張しているでしゃばりさんなおバスト様が見目麗しい。
そりゃあゴロツキもたまらんわなぁ。
「間に合ってよかった」
微笑みかけて敵意はないことをアピール。
「怪我はない?」
少女は呆然と俺の事を見つめ続けている。
「魔法使いなの?」
落ちていた杖を拾い、手渡そうと近づく。
ついでに、しゃがみ込んで目線の高さを合わせてみる。
小さい子供とか、高い位置から見下ろして喋ると怖いって言うからね。
安心させるためにやった行為なのだが、結果、顔の位置が近づきすぎてしまった。
ボッと、頬を赤らめて少女が目をそらす。
沈黙が辺りを支配する。
怖がらせちゃったかな?
別にお礼が欲しくてやったわけでもないし、と立ち去ろうとしたその瞬間。
きゅっと手をつかまれた。
「勇者様」
トロンと、潤んだ瞳でこちらを見つめながら、待ってくださいとばかりに小さな声をかけてくる少女。
「はい?」
謎の言葉を口にされた気がするぞ?
勇者様? 俺が?
おいおいおい、それは無いだろう。
だって俺、魔族よ?
ついでにいうと、今、奴隷な?
そんな俺が勇者様だなんて。
「一目見て、恋に落ちた。強いし、優しいし。貴方は、私の勇者様……」
うっとりと、うわ言のように呟く少女。
掴まれた手が強く引っ張られ、呆然とした俺はつい体勢を崩してしまう。
そんな俺の唇に。
柔らかなものが触れた。
それは少女の唇だった。
俺に熱い視線を向けながら、少女はその言葉を口にする。
「宿まで来てほしい。ぜひ、お礼がしたい」
お礼?
お礼っていったら何かなぁ?
お金かなぁ?
などとすっとぼけようにも、答えは明らかである。
目の前の美少女と、宿に残したフィルナ。
どちらを取るのか。もしかして、どちらとも取っていいのか!?
心惑わす選択に俺は迷い、そして悩むのだった。
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