空間転移ドアが発明されたのですが
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通学風景
「じゃあお母さん、また行ってくるねー。」
「はいはーい。いってらっしゃーい。」
窓ごしに行われる家族間のやりとり。いくら技術が進歩してもここは変わらない。人間の進歩は科学よりもずっと遅く、問題に気づくのも手を打つのもいつだって人間。
忘れ物をするのは人間。それを取りに帰るのは、いまだに人間。
いくら技術が進歩しても人間は怠惰だ。しかし、勤勉な人間と言うのもまたいつの時代にもいる。例えば忘れ物をして取りに帰ったとしても、学校には遅刻をせずに済むように行動する様な、いわゆる心がけ。見えない拘り、責任感、独自の常識。
制服姿の女子はドアノブに手をかけ回し、6秒ほど待つ。ぴこーんと明るい音と共にドアの一部が半透明になり、向こう側に人が居ない事を二度確認して開いた。
「おっめでとーっ!・・・ってあれ!?ごめんなさい!」
ドアマドの陰に隠れていた女子生徒たちが一斉にクラッカーを鳴らし、すぐさま別人であると気づき、丁寧に平謝る。すると彼女たちの後ろからお目当ての生徒がやってきて、声をかける。
「あんたらさー!またこんな事やってんの!?」
「だっていつも同じドアから通学してきてるじゃんか!」
「そうよ、なんで今日に限って違うドアなの!」
周囲を見渡すと、先ほど鳴らしたにしては量の多い使用済みクラッカーが落ちている。おそらく、私の前にも間違えられた生徒がいるのだろう。
「ほら、今日は誕生日だからお化粧に力入れてたのー!誕生日にアット君と合うんだから。ほら!ねえ!」
「もーそういうんなら最初に言ってよー!もう全然知らない人にクラッカーならしちゃったじゃんかー!」
「ほんとごめんなさいね、お怪我はなかった?」
少しのやり取りがあった後、彼女たちは自分たちの教室に向かっていった。
自分が出てきたドアと周囲が光り、開くのを知らせると同時に場所を開けるよう促される。通学路から校門まで、並木道の木の間に並ぶドアが次々と光る。通学ラッシュの時間になったようだ。
混んだ道を歩くのは避けたいので、まっすぐ教室に向かうことにした。
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