負けヒロインと俺が付き合っていると周りから勘違いされ、幼馴染みと修羅場になった

ネコクロ

第一章【三角関係】

第1話「金髪美少女は黒髪美少女に負けたようだ」

「でさ、この前行った喫茶店がよくて――」


「なぁ、この後ゲーセン行こうぜ」


「やべぇ、早く部活行かねぇと!」


 放課後になった途端一気に活気立つクラスメイトたちを眺めながら、教室の隅っこの席に座る葉桜はざくらようはつまらなさそうに溜息を吐く。


(馬鹿みたいだなぁ……)


 陽にとって学校生活ほどつまらないものはなく、親に強制されていなければとっくに学校なんてやめていることだろう。

 彼にとって学校に通うことは時間を奪われてしまうというデメリットであり、メリットなんて何一つなかった。


 うるさくはしゃぐクラスメイトたちと話すことは億劫だし、授業で習う内容も陽には必要がないものばかり。

 だから陽は毎日どうやって親を説得して学校をやめようか、そればかりを考えていた。


 社交性もなく、ましてや話しかけても冷たい態度を取る陽に対してクラス内に近寄ってくる変わり者はいない。

 テストはいつも赤点ギリギリで、運動も大して得意ではない陽のことをクラスメイトたちは陰キャ、もしくは落ちこぼれだと思っている。

 両者ともに歩みよることをしないため、必然的に陽はクラスで孤立してしまっていた。


(――さて、人もいなくなったし帰るか)


 クラスメイトたちが誰一人としていなくなったところで、陽はゆっくりと椅子から立ち上がる。


 誰もいなくなった静かな教室。

 その雰囲気は何か不思議な物を感じるため、学校嫌いの陽でもこの空間は好きだった。

 しかし、いつまでもここにいれば鍵を閉めに来た先生と話すことになるので、陽は名残り惜しくも立ち去ることにする。


(――ん? あの三人は……)


 陽は下駄箱を目指して歩いていると、ここ最近学校内で話題となっている三人組が廊下で話しこんでいる姿を見つけてしまった。


 一人は、綺麗な黒髪を長く伸ばす清楚で可憐な美少女。

 誰もが憧れる彼女はどこか気の強さを感じさせる凛とした顔立ちをしている。


 もう一人は、ふわふわとした綺麗な金髪が特徴の優しくてかわいらしい童顔の美少女。

 小柄な彼女は思わず守ってあげたくなるような小動物的存在に思える。


 そして最後の一人は、パッと見どこにでもいそうな平凡な男。

 特に特徴的な顔つきをしているわけでもなく、勉強やスポーツが得意というわけでもない男だ。

 しかしこの平凡そうに見える男、なぜかこの学校の二大美少女と呼ばれる二人に好意を寄せられていた。


 その二大美少女とは言わずもがな、陽の目線の先にいる清楚で可憐な美少女と、かわいらしい童顔の美少女だ。

 正直陽は、どうしてあの男がこの美少女二人に好かれているのかを理解できていない。

 だけど他人に興味がない陽にとってはそんなことはどうでもよかった。

 だから三人が話しこんでいる姿は見なかったことにして、この場を立ち去ろうとする。


 しかし――踵を返した瞬間に聞こえてきた声で、思わず足を止めてしまった。


「――私じゃなくて、根本さんとお付き合いなさる、ですか……?」


 聞こえてきたのは、強張りを持ったかわいらしい声。

 三人の声を知っている陽は誰がその声を発したのか理解してしまった。


(修羅場、か……?)


 思わず振り返る先では、泣きそうな金髪美少女――秋実あきみ真凛まりんに男が手を差し伸べようとしていた。

 だけど、彼女はその男から逃げるように身を引き、目頭に涙を浮かべながら笑顔で口を開く。


「そうですか、わかりました。お二人とも、お幸せになってください。では、私はこれで――」

「あっ! 待ってよ、真凛まりんちゃん!」


 男が出した制止の言葉も聞かず、真凛はタタタッと陽がいるほうに駆けってきた。

 そのことに気が付いた陽は振られる現場を見てしまったことで気まずくなり、慌てて壁に身を隠してしまう。

 すると、真凛は曲がり角を曲がってきて、陽の存在に気が付かずに目の前を走り抜けてしまった。

 そしてそのまま階段を上っていく。


 すれ違う際に彼女の横顔を見た陽は、なんとも言えない気持ちになった。


 男はどうするのだろう、そう疑問に思った陽はソーッと壁から顔を覗かせて男たちがいたところを見てみる。

 すると、真凛に逃げられた男――木下きのした晴喜はるきは、黒髪美少女と話をしているだけで後を追う様子はなさそうだった。


(まぁ、あっちを選んだのならここは追わないのが正解か……)


 真凛を振り黒髪美少女――根本ねもと佳純かすみと付き合うことを選んだのなら、ここで真凛を追うことは悪手でしかない。

 彼女になったであろう佳純には嫌な思いをさせたり不安にさせてしまうし、真凛には未練を残させてしまう。

 こればかりは、自然に彼女が立ち直ることを祈る以外振った男にできることはないのだ。


 ここにいても仕方がない、そう思った陽は家に帰ろうと一歩足を踏み出す。

 しかし――先程の真凛の横顔が脳裏に焼き付いてしまっており、このまま帰ると今日一日変な考えごとをしてしまいそうだった。


「…………」


 陽は踏み出した足以降前に進むのはやめ、その場で思考を巡らせる。

 そして、何を思ったのか階段に向けて足を踏み出した。

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