第92話


「使役、ですか…」


「ああ、そうだ。すごいだろ?」


自らのスキルを明かした鮫島が、自信満々の笑みを浮かべる。


「生物ならどんなやつだって下僕にできる。犬だろうが猫だろうが鳥だろうが…人間だろうがな」


「へぇ…」


「その気になれば、俺はこの国の首相だって言いなりに出来るんだぜ?ただ近づいてスキルを使うだけでな」


「はぁ」


「この力は俺自身でも怖くなるほどにやべぇんだ。だから、周囲には動物を操れる能力としか公表してねぇ…だがな、俺の使役スキルは間違いなく全スキルの中で最強だ…!俺はこのスキルでいずれは世界をも手に入れてやる…!全員が俺の下僕になるんだ…!」


スキルの力に酔いしれている鮫島が大風呂敷広げ始める。


「すげーっすよ鮫島さん!」


「一生ついて行きます…!」


「手始めにその生意気な安藤を下僕にしてやってくださいよ!!」


三人が調子の乗る鮫島をさらに囃し立てる。


鮫島が当然だというように頷いた。


「もちろん、いくらでも下僕にできるわけではないんだがな…制限人数は三人まで。が、それでもこのスキルが最強であることに変わりはない。強いスキル持ちを三人、俺の手下にすればいいだけの話だからな」


そう言って鮫島が俺に向かって手を翳した。


「安藤!おまえは中級探索者になるぐらいだからそこそこ強力なスキルを持ってるんだろ!?お前を第一の下僕としてやる!!ありがたく思え…!お前は一生俺の手下となり、俺のためにダンジョンに潜って金を稼ぐだけの従僕になるんだ…!」


「…」


「くらえ…!スキル、使役っ!!」


とうとう鮫島がスキルを使った。


もちろん使役されるつもりなんてない俺は即座にスキルカウンターを使う。


「スキルカウンター」


「なっ…!?」


スキルを使った鮫島の目が大きく見開かれる。


「ヒャッホウ!!これで安藤は鮫島さんの奴隷だ!!」


「ザマーミロ安藤…!おい、なんか言ってみろよ!!」


「お前は一生、鮫島さんの下僕として生きるんだ…!乞食野郎には負け組人生がお似合いだぜ!!」


俺がスキルを喰らったと勘違いしている三人が騒ぎ立てる。


が、その次の瞬間。


「安藤さん。ご命令を」


「「「は…?」」」


三人は異変に気づく。


俺を下僕にしたはずの鮫島が、徐に俺の前で地面に膝をついて首を垂れたのだ。


まるで自らの主に使える下僕のように。


「さ、鮫島さん…?」


「何してるんすか…?」


「冗談っすよね…?」


三人が恐る恐る鮫島に声をかける。


だが、鮫島は反応しない。


顔を上げて、敬愛するような視線を俺に向けてくる。


「ご命令を。我が主、安藤様」


「「「…!?」」」


三人が大きく目を見開いた。


「ななな、何が起きやがった!?」


「あ、安藤…てめー、鮫島さんに何を…!?」


「鮫島さん、何やってるんですか!?早くそいつを下僕にしちゃってくださいよ…!」


三人が悲鳴のような声をあげるが、自らのスキルによって俺の下僕となってしまった鮫島は一切反応を示さなかった。


ただ、じっと跪いて、俺の命令を待っている。


俺はそんな鮫島に言った。


「鮫島、お前に命令を与える」


「はい…!」


鮫島の顔が歓喜に輝く。


そんな鮫島に、俺はいった。


「後ろの三人を死なない程度に痛みつけろ」


「「「…っ!?」」」


三人がびくりと体を震わせた。


「仰せのままに」


恭しく頷いた鮫島はすくっと立ち上がり、そして背後の三人を見た。


「ーーーーッ!」


それから不意に駆け出し、三人にもう接近する。


「「「ひぃいいいいい!?」」」


途端に悲鳴をあげて逃げ出す三人。


「嫌だぁあああああ!!!」


「来るなぁあああああ!!」


「ちきしょおおおおおおおおお!!!」


脱兎の如く走り出す三人を、鮫島が全力で追い立てて、四人はすぐに見えなくなった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る