第90話


「ああ、くそ…酷い目にあった…」


昼休み。


教室の自分の席で、購買部でかったパンを食べながら俺はぼやく。


1時間目の体育の時間からつい先ほどまで、俺は自らの魅了スキルを食らった内田に付き纏われ、大変な目にあった。


周りの生徒からは奇異の視線で見られるし、一部の女子からは尊敬するような眼差しで観察されるし…


何度も突き放しても内田は俺に近づいてきて正直どうしようもなかったが、ついさっきスキルの効果時間が切れたのか、内田が急に我に帰った。


そして瞬時に顔を赤くして頭を抱え、


「うわあああああ!!!僕は一体何をおおおおおおおおお!?!?」


と絶叫し走って教室を出て行ってしまった。


そして現在、いまだに俺は教室内のクラスメイトたちから奇異の視線で見られ続けていた。


「…厄日だ」


なるべく生徒たちの視線を無視しながら、俺はそうぼやいた。


「元気を出してください、安藤さん。私も確かにあれには驚きましたが、けれど、今はそういうのが認められやすい時代です。私も安藤さんの個性を受け入れますから」


「ちょ、四ツ井!?違うからな!?」


隣の席の四ツ井が同情するような優しげな視線を俺に向けてくる。


どうやら内田が散々俺に抱きついてきたせいで、俺までそっち側だと勘違いされてしまったようだ。


いや、内田も正確に言えばノーマルなのだが。

「四ツ井!!あれは内田が一方的にしたことで、俺は望んでないからな!?俺はそっちじゃなくて、ノーマルだからな!?」 


俺は全力で誤解を解きにかかる。


「安心してください、安藤さん。私は安藤さんが、そっちだとしても安藤さんのことが好きですから」


「だから、違うって言ってんだろ!!ちょっと真面目に話をしようか!」


流石にこのまま誤解を放置しておくためにも行かないため、俺が真剣に四ツ井を説得しようとしたまさにその時だ。


教室の入り口付近がざわざわと騒がしくなり始めた。


俺も四ツ井もそちらの方向を見る。


「う…」


その男が目に入った時、俺は思わず顔を顰めてしまった。


「ん?あれは誰でしょう?」


この学校に来てまだまもない四ツ井は首を傾げている。


突然俺たちのクラスにやってきたその男は……俺と目があうと目的を見つけたと言わんばかりに「ニヤッ」と笑って此方へズカズカ歩いてきた。


自然、クラスメイトたちがその男に道を譲る。


男は、俺の元まで歩いてくる、真上から見下ろし、威圧するような声で言った。


「お前が安藤だな?ちょっと面かせや」


「鮫島先輩…」


その男は学校一の問題児と名高く、ヤクザの息子という噂もあるため誰も近寄ろうとしない危険人物、鮫島敏夫だった。



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