第66話
「ま、魔法…?なんだそれ…?」
アンノウンのボスは何が起きているのかわからないと言った表情で尋ねる。
「スキルの力じゃ…ないのか…?」
「違う。この世にはスキル以外も様々な力が存在する。そして…そのような力の前で、お前のスキルにしか通用しないスキル・キャンセラーは無用の長物となる」
「そんな…」
ボスの表情が絶望のそれになる。
「な、なんだよそれ…聞いてない…反則だ…」
「いや…そう言われても…」
「や、やめろ…来るなっ!!」
ボスが震え声で叫ぶ。
「来ないでくれっ!!嫌だっ!!死にたくないっ!!」
先ほどの自信に満ちた態度はどこへやら。
そこには情けなく喚き散らすだけの哀れな悪者たちの頭目の姿があった。
「安心しろ。殺さない」
俺はにっこりと笑いかける。
「ほ、本当か…?」
ボスの瞳に希望が灯る。
俺はそんなボスを、地獄に叩き落とす。
「奴隷にするだけだ」
「やめ」
ボスの言葉は最後まで続かない。
俺が額に手を当てて瞬時に奴隷の紋章を刻んだからだ。
「…」
ボスの目から光が失われる。
また、俺の命令を待つだけの従順な奴隷が一人、出来上がった。
「お前は今から俺の下僕だ。どんな命令にでも盲従する使い魔だ。わかったか?」
「はい」
「じゃあ、建物を占拠しているテロリストたちを全員屋上に集合させろ。その際に、絶対に客には手を出さないように指示を出せ」
「はい」
ボスが車に戻り、カタカタとパソコンを操作する。
数分たって、俺の元へ戻ってきた。
「出来ました」
「よし。じゃあお前は車に乗って待機だ」
「はい」
ボスが車に乗り込み、言われた通りに待機する。
俺は少し離れたところに身を隠して、アンノウンのメンバーたちが集まってくるのを待つ。
やがて、エレベーターや階段を使ってアンノウンのメンバーたちが続々と屋上に集い始めた。
「おいおい、どう言うことだ?作戦が違うぞ…?」
「客を傷つけずに屋上に集合って…まじかよ…?」
「これじゃあ、せっかくの人質が逃げちまうぞ?」
「ボスは何を考えているんだ?」
各フロアを占拠していたと思われるアンノウンのメンバーたちが、ボスの車の周辺に集まった。
「おい、ボス…!一体どうなってる!?」
「人質が逃げちまうぞ!!」
「おいボス!!聞いてるのか!?」
運転席に座ったまま微動だにしないボスの姿に、アンノウンのメンバーたちが車をガンガンと叩く。
俺は十分メンバーたちを車の周辺に引きつけてから、魔法を放った。
「ファイア・ボール!」
ドガァアアアアアン!!!
ガソリンタンクを狙ってファイア・ボールを放った。
車が爆発し、轟音が空気を震わせる。
周囲に固まっていたアンノウンのメンバーたちが衝撃によって吹き飛ばされ、宙を舞う。
ピー、ピー、ピー、ピー。
ビー、ビー、ビー、ビー。
周りの防犯ブザーが一斉になる中、俺はメラメラと炎上する車へと近づいていく。
「いてて…」
「んだよ…」
「ぐぉ…い、いでぇよぉ…」
悲鳴を上げながら立ち上がろうとするアンノウンのメンバーたちに俺は次々に魔法を放っていく。
「パラライズ」
「ぐ…」
「スリープ」
「…すぅ」
「ポイズン」
「ぐぁああああああ」
一人一人、無力化していき、ものの1分で全員を制圧した。
「ふぅ…こんなもんかな」
俺は屋上を見渡す。
そこらじゅうに転がるアンノウンのメンバーたち。
ある者は麻痺で動けず、ある者は眠りにおち、またある者は致死量ギリギリの毒に悶え苦しんでいる。
誰一人として動けるものは存在しない。
俺はパンパンと手を払った。
「さて俺も仲間だと思われたくないし、さっさと逃げよう」
アンノウンたちの監視がなくなったため、客は今ごろ逃げ出しているはずだ。
あまり長居すると俺までアンノウンのメンバーだと思われかねない。
俺は事後処理を警察に任せることにして、さっさと屋上から退避したのだった。
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