第56話


「た、助けてくれてありがとうございますっ」


「あ、あなたは命の恩人ですっ!!」


しばらくして我に帰った二人が、俺に頭を俺に頭を上げてお礼を言ってくる。


「いいよこのぐらい。それよりも、その怪我は大丈夫なのか?」


俺は血が流れている探索者の足を指差して聞いた。


「だ、大丈夫だ…少し肉が切れた程度だと思う…骨は折れてない」


「魔法ですぐにちりょ…うぅん、うぅん!そ、そうか…傷が深くないようで何よりだ」


「「…?」」


危ねぇ。


普通に魔法で治療を施すところだった。


命に別状がない怪我なら、魔法で治す必要もない。


悪いが彼らには地上で治療を受けてもらうことにしよう。


「あ、あんた…強いんだな…ひょっとして中級探索者か?」


一人が聞いてくる。


俺は頷いた。


「そうだが?あんたらは?」


「お、俺たちは下級探索者だ…」


「あぁ…実はそうなんだ…」


「下級探索者…?ここは適正階層じゃないだろう?」


探索者センターの定める下級探索者の適正階層は、一階層から五階層までだ。


それ以降に下級が踏み入るとぐんと死亡率が上がる。


ここは現在六階層で彼らの適正階層ではないだろう。


なぜこんな場所に踏み入ったのだろうか。


「ちょ、調子に乗ってたんだ…最近上手く言ってたから…」


「もしかしたらいけるんじゃないかって思って…その結果がこのざまだ…」


「そうか…」


項垂れながらそういった二人の様子を見るに、今回の件で十分自分の実力を思い知ったはずだ。


もう適正階層以降に踏み入ることはないだろう。


わざわざ俺が一言加える必要はないな。


「それじゃあ、俺は行くから」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


「あんたに頼みがあるんだっ!!」


立ち去ろうとした俺を、二人が引き止める。


「お、俺たちの仲間を助けてくれないか…?」


「仲間…?」


「ああ…俺たちは三人のクランなんだが、一人が囮を買って出て、逃げ遅れたんだ…!この先にいると思う!!」


「しぶといやつだから、まだ生きてると思うんだ…!頼む、お礼はするから助けてくれ!!」


「何!?逃げ遅れた奴がいるのか!?」


「そ、そうだ!そいつを助けてくれよ!!」


「じゃねーと…そいつが死んだなんてことになったら、俺たち、財閥に抹殺されちまうよ…」


「ざ、財閥…?よくわからんが、ともかくこの先に逃げ遅れたあんたらの仲間がいるんだな?」


「そ、そうだ」


「う、うん」


「それを早く言え!!」


「「っ!?」」


俺は二人を一喝し、奥へ奥へと走り出す。


ったく。


逃げ遅れた奴がいると知っていたら、あんなにダラダラと会話なんてしていなかった。


俺は囮となった彼らの仲間がまだ生きていることを願いつつ、奥へと向かって疾走するのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る