第30話



「矢代! 柏原!」



そんな声に顔を上げたら、黒板の前で担任が口をへの字に曲げている。



ホームルーム中なのすっかり忘れてた。



「なんだよー、おまえら。仲良くお揃いでスマホ眺めて楽しそうに笑ちゃって、俺が一生懸命に大切なお話してるのに全く聞いてないじゃんか! 先生ちょっと拗ねちゃうぞ!」



わははとみんなが笑う。



いやもう、怒るなら怒ってよ。



こんなノリで、バカみたいだけど親しみやすいって生徒には一番人気な担任。


だけど、今こんなところでそんな人気を発揮しなくていい。


ガチンと怒られた方が何事もなかったかのように終わるんだから、そうやって終わりにしてほしかった。



子供みたいに口を尖らせたまま、担任が言う。



「放課後までに何かしらなの仕事作っといてやるから、おまえら絶対に予定入れんなよー」



私の手からスマホが滑って、机の上に音を立てて落ちた。



「はるみの衝撃度わかりやすすぎ!」



貫地谷くんが爆笑して、それにつられてまたみんなが笑った。



振り返った矢代は、また「ばーか」って言うのかと思ったら、ペロッと舌を出して苦笑いするから、ほら、やっとできた一時停止がまた解除されちゃったじゃないの。




顔が赤くなっちゃったの、きっと矢代は気がついたと思う。






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