第28話


夜、お風呂上がりに音楽をかけようと思って見たスマホの画面に腰が抜けそうになった。



矢代からライン。


それも2時間前だった。



一時停止中だぞ、と自分に何回か言い聞かせてそれを見る。


そうしないとどうにかなりそうだったから、しつこく念入りに自分に言い聞かせる。



『昨日』



その最初のメッセージに心が動いて、一時停止どころかそんなボタンなんて私のどこにもないんじゃないかって疑う。



今日は話したかったけどできなかったなぁ、なんて後悔しても仕切れない。



あの背中の向こうで、矢代がどんな顔をしていたのかと思うと身体中がキシキシした。



『調子悪かったならそう言えよ』


(どうしよう、一時停止やっぱむり)


『ムカついてるとか言っちゃったじゃん』


(ごめん、好き)



はあ、とため息すら生暖かくなりそうな勢いだった。



そのメッセージを眺めて、じっと眺めて、ずっとじっと眺めて、私はそのまま眠ってしまったらしい。



生理中の女子の睡眠欲求の凄まじさ。



気がついた時は朝の4時で、こんな時間に返信したところで迷惑にしかならないということを悟る。



私は結局、翌日のホームルームが始まってから矢代にメッセージを送った。



「ごめん。一時停止中だぞって自分に言い聞かせてから返信しようとしたら、そのまま寝ちゃった」



私のメッセージが矢代のスマホを揺らして、矢代はそれをズボンのポケットから取り出した。



その背中がぎゅっと丸まって、耳が赤くなった。



どうしよう、心臓が苦しい。



矢代がどんな顔をしてるか見たい。






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