謎の人の協力が
婚約破棄が行われてから暫く後は、平和な日常を過ごす事が出来ました。
元々から無理のあった婚約でしたので、婚約破棄されてからはライムズ兄様にも領民の皆様にも無理をさせる必要は無くなりました。
私の為だけに皆さんを働かせてしまった事には後悔の気持ちもありますが、貴女も立派な婚約者になる為に頑張ってきたから気落ちするなと言われたりしてくれて、本当に有難かったです。
それに、婚約が無くなってからは今まで通りの生活が出来る様になれましたし、私は心から婚約破棄されてよかったと思ってます。
そして今日も、何時もの様に書類仕事を頑張って、普段通りの日常を過ごしていました。
……まぁ、今日は彼が手伝ってくれてるので、普段通りの日常とはちょっと違いますが。
「……うへぇ、相変わらず山の様に書類があるね。こんなに文字を読んだりして、目が痛くなったりしないの?」
慣れない書類仕事を頑張って手伝っているのは、私の幼馴染であるクローデル様です。
私の家が詐欺の被害に遭った時は彼の両親が支援を約束したり、私の家で取れる作物の卸先を探してくれたり、心の底から尊敬できる素晴らしい人です。
彼が私達に協力してくれてるのは、私が持つ人望と人の良さに惹かれたと言いますが……田舎の貧乏男爵である私に、そこまでの良さがあるのでしょうか?
「慣れてくれば大丈夫だけど、私も最初の頃は大変でしたわ。クローデル様もあまり無理はなさらないで大丈夫ですのよ」
「ご親切にどうも。出来る限りの範囲で頑張ってみるよ。……そういえば結局、婚約破棄されたんだよね。全く、酷い話だよ。アウスエルの野郎、こんなに素晴らしい人との婚約を破棄するなんて」
「こんなに素晴らしいは褒め過ぎですわ。それに、わざわざこちらまでお越しになられなくても手紙で大丈夫でしたのに」
「手紙だと詳しい事情が分からないからね。婚約破棄された本当の理由を早く知りたいと思ってさ」
「理由なら先程も話した通り、アウスエル様に新たな婚約相手が見つかったからですわ。本当にそれだけですの」
「あの悪い噂で名高いアウスエルが、それだけの理由で婚約破棄するとは思えないけど……まぁいいか。今は書類を片付けないとな」
アウスエル様に婚約破棄されてから数日後、クローデル様は随分と慌てた様子で、馬を駆けらせこちらまでお越し下さいました。
何時もなら馬車に乗って来る筈ですが、その日に限っては早く真相を確かめたいと馬に直接、慌てた様子で乗って来られました。
彼から聞く所によると、どうやらアウスエル様は私との婚約破棄をさも、私に原因がある様に吹聴していた様です。
折角、この私が貧乏な男爵家と婚約してやったのに、との事ですが……つくづく、私はあの人との婚約を破棄して良かったと思ってます。
クローデル様はそんな私の為に噂を打ち消す様にしてくれたそうで、本当に彼には感謝しかありません。
そんな彼の協力もあって、今日は何時もより早く朝の分の書類仕事が終わり、少し早めの昼休憩となりました。
「……いやぁ、慣れない仕事は疲れるね。久し振りに書類を眺めたせいで、目が変な感じになってるよ」
「無理をし過ぎるからそうなるのですよ、クローデル様。そろそろお昼も近いですから温かい紅茶でも淹れてきますので、ちゃんと休んだ方がよろしいですわよ」
「分かった、そうするよ。……悪いね、助けに来たつもりが助けられちゃったな」
「お気になさらず。今日は天気がよろしいですから、外の木々で目を休めながら飲むのはどうですか?」
「おっ、いいね。そうしようか」
今日の天気は雲一つない快晴で、自然を楽しむには十分すぎる天気です。
クローデル様を外で待たせ、私は紅茶を淹れてお菓子を準備しようとして……何故かクローデル様が慌てた様子で家の中に入っていきました。
「ケイメラ嬢、外にアウスエルの馬車が見えたぞ! 何があったんだ!?」
「何ですって!? ……いえ、私は何も知らないですわ」
アウスエル様の突然の来訪に、私の頭は混乱するばかりです。
新たな婚約相手が出来たから婚約破棄をして、他の所では私が悪いと吹聴し、それなのに私の所へ来る理由なんて一つも覚えがありません。
「そうか、じゃあ……えぇと、兎に角、僕はここにいると知られては不味いんだ。少しの間、奥の部屋に隠れさせて貰えないかな?」
「分かったわ。では、こちらに」
私はクローデル様を奥の部屋に連れて行き、必死になって迎える準備をしています。
相手は無茶苦茶な理由を婚約破棄をして、挙句にその理由を私に押し付けようとした人です。
ちょっとでも粗相があれば、どんな難癖を付けられるか分かったものじゃありません。
そうして私が客間で準備をしている途中、屋敷の扉が開きアウスエル様が家に入って来ました。
「おやおや、婚約破棄をされてから来ると連絡を取ってないというのに、随分と準備がいいじゃないか。ケイメラよ」
「窓の外から貴方様の馬車が見えましたので、大急ぎで準備をさせて頂きましたの。ごめんなさいね、少し待ってて貰えるかしら?」
「いや、構わんよ。今日は長話をしに来たのではないしな。……婚約破棄の事、すまなかった」
「えっ? えぇと、気にしないで下さいまし。そちらにも事情があるのでしょうし、仕方のない事ですわ」
王都では私の悪口を言いふらしながら、目の前に来ては私に謝罪をしてくる。
何を考えてるのか分からず不気味に思いながら、私はアウスエル様の話を聞き続けます。
「そう思ってくれるとは、本当に有難いよ。今日は婚約破棄のお詫びにいい話を持って来たんだ」
「いい話ですか……と言うと、新たな婚約の話ですか?」
「少し違うな、婚約を目的とした舞踏会だよ。婚活、と言った方が分かりやすいかね。その招待状を贈りに来たんだよ」
アウスエル様はそう言って、上質な黒字の紙に金細工で文字が書かれてある豪華な舞踏会の招待状を渡してきました。
「丁度、私の所有する会場で舞踏会の予定があってな。いい機会だからと内容を婚活に変更したんだ」
「えっと、それは……有難いですね」
「そうだろう? 色々と反発はあったが、まぁ、私には金もあるし色々な所に顔が利くからな。という訳で、是非とも君の参加を待っているよ。では、私はこれで」
自慢のネックレスを触りながらそう話した後、アウスエル様は私の返事を待つ事なく去って行きました。
後には途中で止まった迎えの準備と、手元にある舞踏会の招待状だけです。
どんな舞踏会なのか気になって恐る恐る招待状を開き、そして……私は椅子に倒れ込みました。
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