ゲームその3 『お菓子の家を作ろう』第4話
ワオンがレモンティーを飲むのを見ていたグレーテも、自分のはちみつ入りホットミルクを口に運びます。
「わっ、おいしい!」
グレーテは青い目をまん丸くして、思わずワオンを見あげました。ワオンはあははと笑います。
「よかった、気に入ってもらえて。グレーテちゃんのホットミルクは、はちみつだけじゃなくて、リンゴのジャムを入れてあるんだ。だから普通のはちみつ入りホットミルクと比べて、甘酸っぱくて優しい味になってるでしょ?」
グレーテはこくこくして、さらにホットミルクを飲んで、それからバームクーヘンを手に取りました。はむっと食べるグレーテを、みんなにこやかな顔で見守っています。
「さ、それじゃあルールの説明はこのくらいにして、そろそろ実際にやってみようか。あ、ちなみにおいらは最初は進行役ってことで、プレイしないから、みんなで好きなお菓子の家を建ててみてね」
「えっ、ワオンさんはプレイしないの?」
驚くブランに、ワオンはうなずいてカードの束を手に取りました。
「うん。おいら今日は、みんなにカードを配る役をするよ。おいらが持ってたら、グレーテちゃんも楽しめるだろう?」
ハンスが、グレーテには見えないものを見る力があるといっていたことを思い出して、みんな納得したようにワオンを見ました。当のグレーテは、バームクーヘンをもぐもぐしながら、はちみつ入りホットミルクに夢中になっています。
「んぐっ、もぐ……。ごちそうさま、ワオンさん、ありがとう」
「グレーテってば、ゲームをする前に食べちゃったら、ゲームしてるときにお腹空いても知らないぞ」
一気にバームクーヘンを食べてしまったグレーテを、ハンスは笑いながらからかいます。グレーテはぷくっとりんご色のほおをふくらませて、ハンスをじろりとにらみます。
「もう、お兄ちゃんのいじわる。……そんなことにはならないわ。ちゃんとおいしく食べられるもの」
「えっ? ちゃんとおいしく食べられるって、どういうことだい?」
目をぱちくりさせるハンスでしたが、グレーテはもう聞いていない様子で、せかすようにワオンにいいます。
「ワオンさん、早くゲームしよう! あたしもやってみたいわ!」
「わっ、グレーテ、すごい気合入ってるな。よし、それじゃあ兄ちゃんもがんばってお菓子の家を建てるぞ!」
さぁ、それではいよいよゲームの開始です!
「それじゃあまずはおれからいくぞ」
じゃんけんの結果、ハンス、グレーテ、ブラン、ルージュの順番でゲームがスタートすることになりました。ワオンが最初のカードを1枚引いて、ハンスに渡します。
「おっ、まずは、ビスケットが2枚か。とりあえずは壁を作らないとどうしようもないし、お菓子の家なら、壁は絶対ビスケットだもんな」
最初にハンスに配られたのは、『ビスケット・2枚』と書かれたカードでした。ハンスはパズルのピースの山から、ビスケットが描かれた、大きめのピースを2つ取りました。
「とりあえずは、パズルもそうだけど、角から作っていくといいから、こことここにはめこもう」
チョコレートの土台の角に、ビスケットのパズルピースを2枚はめこみます。
「さ、それじゃあ次はグレーテちゃんの番だよ」
ワオンが今度は、グレーテにカードを1枚渡しました。
「あっ、やったぁ、マカロンが4枚だよ!」
グレーテに配られたのは、『マカロン・4枚』と書かれたカードでした。ふんわりした色とりどりの生地に、生クリームとジャムがはさまった絵が描かれていて、見ているだけでなんともおいしそうです。ハンスが「うわぁ」と頭をかかえました。
「いいなぁ、4枚もピースをはめこめるなんて、グレーテは運もいいんだよなぁ」
「えへへ。ねぇ、ワオンさん、パズルの絵、いっぱい見てもいい?」
グレーテに聞かれて、ワオンは優しく首をたてに振ります。
「もちろんだよ。じっくり選んでね」
その言葉にニコニコ顔になって、グレーテは小さめのピースを一つ一つ見ていきます。マカロンの絵が描かれたピースを見つけると、それを集めてじっとにらめっこ。その様子をながめていたルージュが、思わずくすりとします。
「グレーテちゃん、おいしそうなマカロン見つかった?」
「うん! あたしね、生クリームのマカロンも好きだけど、ジャムが入ったマカロンのほうが好きなの! これとこれと、あと、これとこれにするわ」
いくつか集めたピースの中から、ジャム入りのマカロンを選んだグレーテは、小さな指でそれを一生懸命チョコレートの土台へ差しこんでいきます。
「グレーテちゃん、大丈夫かい? ピンセットも使っていいからね」
「うん、ありがとう。でも、ほら、できたよ! ほら、マカロンのいす!」
得意そうにいうグレーテに、みんなも目を丸くしてしまいました。チョコレートの土台には、ピースがいすの形にはめこまれています。
「おっ、さっそくいすができたね! さっきちょっと説明したけど、このゲームは、家具は必ず2つ以上作らないといけないルールがあるから、グレーテちゃんはあと1つ作れば、あとはまわりの壁と屋根だけになるよ」
ワオンの言葉に、グレーテはえっへんと胸をはりました。
「すごいなぁ、グレーテちゃんは。よーし、ぼくもいいカードが……って、チーズケーキが1つじゃんか」
はりきってワオンからカードを受けとったブランは、がっくりと肩を落としてしまいました。ルージュがくすくすと笑います。
「あら、ブランったら、よかったじゃないの。チーズケーキ好きでしょ?」
「そりゃあ好きだけど、1つじゃなぁ……」
はぁっとため息をついて、ブランはチーズケーキのパズルピースを、チョコレートの土台に差しこみます。次はルージュの番です。
「さ、わたしはなにかしら? あっ、『キャラメル・5枚』ですって」
「えぇっ! ずるいなぁ、ぼくは1枚でルージュが5枚だなんて、不公平だよ」
ぶつぶつ文句をいうブランを、ルージュはおかしそうに見ながら、キャラメルの描かれた大きめのピースを取っていきます。そしてそれを、なぜかバラバラに離した位置に差しこんでいったのです。
「ん? ルージュ、なんかおかしな配置にしてるね。なんでそんなバラバラに差しこんでいるんだい?」
ブランに聞かれても、ルージュはうふふっと笑って答えません。目をぱちくりさせるブランをはげますように、ワオンが肩をたたきました。
「さ、まだまだ序盤だから、いくらでも逆転できるさ。それじゃあどんどん行こう」
今度はハンスにワオンがカードを渡します。そうして、みんな着々とお菓子の家を作っていきます。ハンスは家の壁を角から作り、グレーテはどうやら家具を先に作る作戦のようです。ブランはハンスと同じく壁を、そしてルージュは……。
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