ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第8話
ウリリンの鋭い顔つきを見て、ルージュは一人うなずきました。その視線には気づかず、ウリリンはフィールドをさらによく観察していきます。
――今回のフィールドは、バランスはそんなに取れていない。とくにおれから見て手前側は、山と平地がたくさんある。そして、森がぽつんとはじっこにある。……この森が、今回のキーになるな。そしてそれ以外には、平地と森がバランスよく配置されていて、ところどころにときどき山があるって感じか。ワオンは、それに気づいているかな――
ちらりとワオンを盗み見ると、ワオンはショートケーキを食べるのに夢中になっていて、フィールドを見ていませんでした。ウリリンはにやっと笑って、それから今度はブーリンとプリンを見ました。
――プリン兄ちゃんはうまく説得できると思うけど、ブーリン兄ちゃんは、どうせおれの話を聞いてなんてくれないだろうからな。でも、下手に動かれてワオンを罠にはめられなかったら、あとがやっかいだな。それじゃあ――
フーッと小さく息をはいて、それからウリリンは顔をあげました。ブーリンが意地悪そうに笑ってウリリンを茶化します。
「おぉ、やっとでどうするか決めたか。まったく、お前もわしみたいにパッパと決断して、さっさと仕事をしなくちゃ、世界一の大工にはなれないぜ」
「うるさいなぁ、ブーリン兄ちゃんはいつも一言多いんだよ。それよりさ、おれが家を建てる邪魔をしないでくれよ」
ウリリンのぶっきらぼうないいかたに、ブーリンはブーッと思わず怒ったように鳴きました。まん丸い目をギラギラさせてウリリンをにらみつけます。
「なんだと! わしは邪魔なんてしてないじゃないか!」
「いいや、邪魔だよ! おれだって真ん中から攻めていこうと思ってたのに、建てられちゃったからさ。……それならこうしようよ、みんな自分の手前側、つまり自分に近いところを陣地としてさ、そこにしか建物を建てちゃダメってことにするんだ。これならケンカしなくていいだろう?」
ウリリンの提案に、ブーリンはすぐに反論します。顔を真っ赤にして、鼻息荒くどなりかえしたのです。
「なんだと、なんでお前が指図するんだよ! くそっ、気分悪いな、せっかく盛りあがってたってのに、台無しだぜ!」
プリプリ怒るブーリンは無視して、ウリリンは手前側にある山に、青色のレンガの家トークンを置きました。
「ワオン、おれにも時間トークンを2つくれよ」
ウリリンに声をかけられて、ワオンはあわててスプーンを置いて、それから時間トークンを2つ渡しました。その間にも、ブーリンはカンカンになって、ぎりぎりと歯ぎしりしていましたが、やがてにたぁっと意地悪そうに笑いだしたのです。
「そうかそうか、レンガの家ってことは、お前はしばらくのあいだお休みってことだな?」
ブーリンに聞かれて、ウリリンは努めて冷静に聞き返します。
「そうだけど、それがどうしたんだよ?」
「いやいや、お前さっき、自分に近いところを陣地としようとかなんとかいってただろ。でも、お前の近く、たくさん平地があるっていうのに、そこを自分の陣地にするのはずるいだろ」
にやにやしながら、ブーリンはわらの家トークンをつまみました。そしてそれを、あろうことかウリリンの手前側、つまりウリリンの陣地にある平地にドンッと置いたのです。ウリリンが「あっ!」と声をあげます。
「へへっ、誰がお前のいう通りになんかするもんか! こうなったら徹底的に、お前の陣地にわらの家を建てまくってやるぜ!」
「ブーリン兄ちゃん、やめろよ! だいたいわらの家ばっかり建てても、オオカミトークンが出てきたら壊されちゃうんだぜ。そうなったら、こっちの建物は減って、ワオンは3点プラスされるんだ。だからレンガの家を建てて、壊されないようにしなくちゃダメだろ」
文句をいうウリリンですが、ブーリンはどこ吹く風といった様子で首をふりました。
「だからお前はダメなんだよ。いいか、オオカミプレイヤーは、うまくすれば最低21点が保証されているんだぜ。だったらわしらも、ちんたらレンガの家を建てていたって、勝てないだろう? どんどんわらの家を建てて、建物の数を稼ぐしかないじゃないか」
ブーリンの得意げな顔を見て、ウリリンは苦々しげな顔をして見せましたが、心の中では別のことを考えていました。
――やった、かかったぞ。これでブーリン兄ちゃんは、意地でもおれの陣地、つまり手前側にわらの家を作っていくだろう。しかもさっきブーリン兄ちゃんは、うまくすれば最低21点っていった。つまり、うまくいかないように邪魔する方法も考えているってことだ。あとは――
険悪な雰囲気になっている二人を見て、プリンはおろおろしていましたが、ひとまず時間トークンを1つ取り除きました。ウリリンも同じように時間トークンを1つ取り除きます。そして……。
ワオンが目覚めを告げる時計の針を、最後の10のところへ動かしました。ここまでの途中経過は、ブーリンがわらの家を9軒、プリンが木の家を5軒(1軒は時間トークンが1つ置かれています)、そしてウリリンがレンガの家を3軒建てています。そして最後の10ターン目、ブーリンはもちろんわらの家トークンをつまみました。
「へへっ、残念だったな、ウリリン。お前の陣地にある平地には、わしが全部わらの家を建ててやったぜ。そして最後のターンも、もちろんわしはわらの家を建てるぜ!」
ウリリンの陣地は、すでにわらの家で埋まっていましたので、ブーリンは自分の陣地にわらの家を建てました。そして、にやりと笑ってワオンを見ます。
「さぁ、これでわしは10軒家を建てたぞ。ごほうびに猟師トークンをもらおうか」
ブーリンにいわれて、ワオンは目を丸くしながらも、猟師トークンを渡します。へへっと得意げに笑うブーリンでしたが、プリンは不安そうにフィールドを見ています。
「でも、そのおかげで森も山も全然うまってないよ。ブーリン兄ちゃん、このままじゃどこにだってオオカミは出ちゃうんじゃないの?」
そういいながらも、プリンは残っている時間トークンを取り除くしかできません。そして、とうとう最後にウリリンの番になりました。
「さぁ、お前はどうするんだ? お前はレンガの家3軒、対してわしはわらの家10軒だ。レンガの家はわらの家の得点の2倍だとしても、このままじゃわしの勝利は確定だぜ」
ブーッと喜ぶように鳴くブーリンでしたが、ウリリンは黙って、真ん中らへんにある山にレンガの家トークンを置きました。もちろん時間トークン2つもいっしょに置きます。
「おいおい、この期に及んでまだレンガの家を作るのか? そろそろわらの家を作っていかないと、ホントに点数が足りなくなるぜ」
「ブーリン兄ちゃん、おれはおれのやりかたでやるから、ほっといてくれよ。……それより、これで10ターンが経過した。ここからはオオカミプレイヤーも動き出すよ」
ブーリンの言葉を聞いて、ワオンは紅茶のカップを受け皿に置き、それからふーむとフィールドをよく観察していきました。
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