88.
翌朝は快晴であった。
空気は冷え、外套を着ていても染み入るような寒さが入り込んで来る。
昨晩の内に転移装置の設置を完了しており、集合してすぐ魔獣のいる森林公園へと飛んだ。
ルイビスタスの西門から馬車で一時間ほどの場所にある森林公園は整備されてはいたが、物寂しい雰囲気が漂う。
公園までの道は草原とまばらな林、なだらかな丘陵地が続く。
侯爵領の森林公園は辺境伯領と領地を接しており、大森林とも一部繋がっているとはいえ、魔獣が発生する瘴気はなかった。
今回のことが異例であり、本来ここには魔獣はいない。
にも関わらず、ここへ至る道中は開拓されておらず、ただ整備された道だけが公園へ向かって伸びていた。
あまり力を入れて来なかったのだろうことは見ればわかる。
公園すらも、整備されているとは言っても、石畳の敷かれた道の周囲のみであった。
少し道を逸れれば雑草は生い茂り、雑木林が生い茂る。
馬車留めの当たりから魔獣が徘徊している為、拠点は公園の手前、草原地帯に設置することになった。
見晴らしは良いので、魔獣の動向の監視はしやすい。
「公園内に入ったら、道を逸れてはならぬ。見通しが悪く、枝も雑草も伸び放題だ。戦闘場所には注意せねばならぬ」
「御意」
「森林内にも魔獣はいる。無理な突出はせず、連携を取ること」
「はい」
「Sランク冒険者が先導してくれる。作戦通り行うが、随時連絡は怠るな」
王太子の言葉を皮切りに、名誉騎士一行が走っていく。
Aランク冒険者達も後に続き、Aランク級やSランク級の魔獣を引っ張って来るのを盾役が引き受けた。
戦闘の開始であった。
連携については各都市で戦闘していた際に、経験済みであるので戸惑いはない。
一パーティーで処理出来る敵については報告をしながら、敵を融通しあう。
同ランクといえども実力には差があった。
総合的な実力で見れば、サラ達のパーティーが頭一つ抜けていた。
五人組となったパーティーの三人組だけならばサラ達よりも経験豊富であったが、Aランクに上がったばかりの夫婦を連れている為無理はできない。
他のパーティーも、七十階を超えているところはいなかった。
必然的に強い敵はサラ達のパーティーが引き受ける形となり、他のパーティーは都度手助けにやって来る、という形に収まった。
Sランク冒険者は十名だった。
名誉騎士、東国の将軍、精霊王国の魔法省長官、西国の魔術省長官と魔法剣士が本来のパーティーであり、残りの五名はエルフ族の中衛と後衛の二人パーティー、ドワーフ族の前衛と獣人族の前衛、そして人族の後衛の三人パーティーだった。
エルフ族は閉鎖的な種族として知られ、東国イストファガスと同盟を結ぶまではどの種族とも交流を持っていなかったという。
冒険者として表に出て来るようになったのも最近の話であり、百五十年前の東国のスタンピードの際にはエルフ族の長が自ら出陣し、後衛として力を奮ったという話であった。
目立つことを好まず、他種族と関わることを望まない風潮は今でも変わらない為、冒険者としてダンジョン攻略をしていたとしても見かけることすら稀である。
Sランク冒険者として参加している二人組は、東国のスタンピード、北国のスタンピードにも参加したという猛者であった。
彼らは積極的に交流を持とうとするわけではないが、非協力的というわけでもない。
必要に応じて手を貸してくれる者達であった。
北国の冒険者はAランク以上にはいない。
北国ノスタトルは竜騎士が最強とされており、皆竜騎士を目指すのだという。
ある程度のランクまでは冒険者として活動し、後は国に帰って竜騎士となるのだった。
竜騎士は国所属の兵器である為、国境を越えることはできない。
これは神が定めた人の世界への制限の一つであり、覆すことはできないのだ。
人同士で戦争しては、神が魔族と話をつけた意味がなくなる。
戦争が出来ないよう、国に所属する武力は国境を越えられない、という制限があるのだった。
国の所属を外れれば可能である、という抜け道は存在する。
神と魔族との盟約後、初めて東国でスタンピードが起きたのは九百年前のことである。他国の騎士団が国境を超えようとしたが、見えない壁に阻まれ助けに行きたくても行くことができず、東国は滅亡の危機に瀕したことがあった。その教訓を生かし、大陸は「国に属さない冒険者ギルド」を作ったのだった。
冒険者は今やこの大陸に欠かせない存在であり、ダンジョン攻略が進んだ今、我が国の価値も飛躍的に高まっている。
定期的に起こるスタンピードに対処する為にも、冒険者という存在は不可欠となっているのだった。
Sランク冒険者達は今回十人でパーティーを作り、すでに連携も取れている。
一人一人の実力も素晴らしく、頼もしい。
鮮やかな手際をゆっくり見たいと思いつつも、サラ達は目の前の敵に集中した。
高ランクの魔獣は階層ボスクラスの強さを持つものから、雑魚層にいるようなものまで様々である。
大きさも大小あり、従者を連れてリンクする魔獣もいれば単体で向かって来る魔獣もいた。
森林公園は広大であり、魔獣の密度もバラバラである。
通路が片付いたと思っても、森林から敵が現れる。
森林が片づいたと思った時には、移動してきた魔獣が目の前に鎮座している。
そんなことを繰り返しながら少しずつ数を減らしていき、日暮れを迎えて撤収した。
魔獣に感知されると追いかけられる為、戦闘するにも安全な場所で、魔獣から距離を取って慎重に行う。
撤収の際にも細心の注意を払いながら森林公園を後にした。
夕食を摂りながらの会議では、本日の出来と進捗についての話をした後、新たに奥へと進んだ映像を流され、対応パーティーの分担等を話し合う。
「魔獣の配置から見て、湖畔から森林にかけてボスがいると思われます。湖畔周辺にはSランク級が数十体確認できました」
潜行パーティーに同行していた獣人族のSランク前衛が述べると、Aランク冒険者からはため息が漏れた。
「我々でも対処できるだろうか」
王太子が問い、獣人前衛は名誉騎士を見た。
名誉騎士は難しい顔をしながらも、「不可能ではありません」と呟く。
「湖畔まで進軍出来るようになればAランク級はもういない。Aランクパーティーで対応出来る敵はそちらにお任せし、そうでない敵については我々で対応します」
「わかった。手間をかけるが、よろしく頼む」
「御意」
「明日中には湖畔に到達できそうだな」
「想定していたよりもAランク冒険者の方々が強かった。ありがたいことです」
Sランク冒険者の面々が頷いている。
ただでさえAランクパーティーが戦える強さの敵の選定から、引っ張るまでの作業を任せているのだ。親鳥が雛に餌を運ぶが如くであったが、彼らにしてみれば任せられる敵がいるというだけでも負担は軽くなっているらしい。
「まだボスの姿は見えないか?」
王太子が問い、獣人族の前衛が頭を振った。
この前衛の男は熊族で、この場にいる誰よりも背が高く筋肉は分厚い。
黒髪に丸い耳、褐色の瞳は一見愛嬌があるように見えるが、巨躯のせいで威圧感がすごかった。
嗅覚に優れ魔獣の感知能力に秀でている。
見かけによらず俊敏であり、今回の潜行調査においても味方を安全に行動させ、映像撮影に貢献したのだった。
「そうか。動かないのならば好都合だ。周辺の魔獣を全て駆除してから討伐に集中できる」
「戦闘の準備もしっかりできます」
「明日も皆、よろしくお願いする。終わりは見えつつあるが、油断はせぬように」
「はい!」
解散し、早々に部屋へと戻る。
「ゆっくり休んで欲しい。明日も頑張ろう」と廊下で王太子に声をかけられ、サラは頷いた。
明らかにレベルより上位の魔獣と戦っており、Aランク冒険者は全員が疲労していた。
ディランとステラの夫婦もまた疲れたような表情をしていたが、サラを見ると笑顔になった。
「サラさん、ゆっくりお話もできなくて残念だわ」
ステラに声をかけられ、サラも笑顔で頷く。
「私もです。これが終わったら、ゆっくりお話したいですね」
「本当に。サラさん達はいつの間にかずっと先に行っていてびっくりしたわ。私達も頑張らなきゃ」
「生きて帰りましょうね」
「ええ!」
夫婦は寄り添うようにして、部屋へと戻って行く。
三人組もやってきて、サラ達に声をかけた。
「おっさんの感想を言えば、よく頑張ってるな、お嬢ちゃん。…いや、もうお嬢ちゃんって呼ぶのも失礼かもしれないが。おまえさん達のパーティーが頼りだ。俺らも全力で頑張るからよ、協力しあおうな」
「はい!」
「ちょっと前までBランクだったとは思えないわね」
「子供の成長はものすごく早い」
サラは笑った。
そうか、彼らにとってサラは子供なのだった。
それが今、一人の冒険者として認められたのだ。
嬉しかった。
父はSランクパーティーと共にいた。
スタンピードが始まってから、ほとんど話せていない。
以前父は、子供達が共に戦うのを見るのは嫌だと言っていた。
怪我をしようものなら冷静ではいられなくなるからと。
兄妹はあえて近づかないようにしていたし、父も近づいては来なかった。
全てが終わったら、また家族団欒ができるのだ。
それまでは互いに集中できる環境が必要だった。
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