80.

 王宮の謁見の間には、騎士団総長と各騎士団長、魔術師団顧問と魔術師団長、そしてダンジョン攻略を中止して駆けつけた名誉騎士とそのパーティーメンバーと、最後尾には召集をかけ、いち早く駆けつけたAランク冒険者達が並ぶ。

 広間の両脇には、貴族家の当主がずらりと爵位順に並んでいた。

 兄妹とカイル達はAランク冒険者の列に並んだ。

 王は中央玉座に、隣には王妃と第一王女が、逆隣に王太子と第二王子が腰掛けている。

 王は玉座から立ち上がり、広間を見渡した。

「緊急召集にも関わらず、よく集まってくれた。すでに周知のことと思うが、我が国でスタンピードの発生が確認された。速やかに討伐せねばならぬ。皆の力を貸して欲しい」

 王が腰掛け、王太子が立ち上がった。

「発生場所はフォスター辺境伯領の大森林と思われる。そこから大量の魔獣が発生し、隣のグレゴリー侯爵領の森林を抜けて侯爵領を蹂躙しようとしている。現在騎士団と侯爵の私兵団が街の防壁門を閉ざし、住民は転移装置を使用して王都へ逃がしている。被害は最小限に止めているが、突破されるのは時間の問題である」

「規模は」

 名誉騎士の発言に王太子は騎士団総長を見下ろした。

 騎士団総長は一歩前に出て、頭を下げる。

「数十万はくだらないかと。ただランクにはばらつきがあり、低ランクの魔獣も多く含まれております」

「発言の許可を」

 魔術師団顧問が挙手をし、許されて頭を下げる。

「先行しているAランク冒険者からの報告によりますと、見たことのない魔獣も多数存在するとのこと。Aランク以上の魔獣は強力です。ノスタトルでのスタンピード並の勢力と考えますと、一晩保たずに近隣都市が落ちるのは必至。高ランク魔獣の正確な数とどこへ向かっているか、Sランク冒険者をどのように振り分けるかの判断は急務かと」

「うむ。Sランクだけではないな。Aランク冒険者にも、Aランクの魔獣に対処してもらわねばならぬ。拠点の設置と戦場の設定についてはどうか」

 王太子の言に、顧問は後ろを振り返って魔術師団長に合図をした。

 魔術師団長は頭を下げ、手を叩く。

 謁見の間の入口が開き、魔水晶とおぼしき巨大な板を台車に乗せて複数人で押して来る魔術師団員に続き、球形の魔水晶を持った者、板を抱えた者達がぞろぞろと入室してきた。

 その中には魔法書の受け渡しをしてくれた副師団長もおり、彼は魔水晶の板を持って先頭を歩いていた。

「失礼致します」

 魔術師団長と副師団長が玉座のある階段上へと上がり、大きな板や台を持った魔術師団員がそれに続く。

 台の上に大きな透明の板を立てて設置し、素早く団員達は階段を下りて行った。

 他に器具を抱えた団員は階段下に待機し、顧問はその隣に並ぶ。

 団員達が魔力を込め始め、顧問は魔術師団長に向かって頷いた。

 魔術師団長は頷き返し、王太子に向かって頭を下げた。

「これから実際に魔獣の映像をご覧頂き、名誉騎士殿を始めSランク冒険者の皆様のご意見を伺った上で、戦場の設定をしていきたいと愚考致します」

「映像?」

 王太子の言葉に、魔術師団長は頷いた。

「今現在、侯爵領で起こっているスタンピードの様子を、この魔水晶でご覧頂けます。それを映像、と我々は表現しております」

「そうか。魔術師団の技術の結晶なのだろう、詳細は今は良い。まずは見せてくれ」

「御意」

 そして大きな板に映った映像のリアルさに、皆が驚いた。

「これはどこから?」

「顧問がおっしゃった冒険者が、今現在見ている物です。場所は侯爵領の森林公園そばにある都市、ルイビスタスの防壁の上からということです」

 時刻はすでに夜だった。

 空は闇に覆われており、地平線にわずかに残る茜色が沈みかけた陽光を伸ばし、魔獣を浮かび上がらせていたが、大小さまざまの影で埋め尽くされており、異様の一言であった。

 防壁の周囲はすでに黒い影に囲まれていた。

 たいまつが煌々と灯り、光球もあちこちに浮かんで周囲は明るい。騎士団や私兵団が上から弓を射かけ、魔法を撃ち攻撃をしているが、焼け石に水であった。

「この都市の周辺はどのように?」

 名誉騎士の問いに、魔術師団長は板に地図を映して見せた。

「南北と東に街道があり、小さな町がそれぞれあります。その先にはさらに都市がありますが、こちらはそれぞれ馬車で一日程の距離です。南の都市は辺境伯領になります」

「…映像を送っている冒険者に、南北と東の街道の様子を」

「はい」

 即映された映像は、北の街道であるという話であったが、すでに魔獣は道なりに北上していた。

 次に映った映像は南の街道であったが、同じように南下しているとのことだった。

 東の街道についてはまだそこまで魔獣の数は多くないようだった。

「見たことのない魔獣は、どこに?」

「高みの見物を決め込んでいるのか、まだ森林から出てそれほど移動しておりません。Aランクの魔獣は南北東に別れ、それぞれ町と都市を目指しているものと思われますが…全ての魔獣を判別できたわけではございません。Aランク共の中にSランク級が混じっているやもしれません」

「町の住民の避難状況は」

 王太子が発言し、騎士団総長が応える。

「南北、東の町ともに防壁がない為、近い都市への避難を開始しておりますが…時間がかかっております。騎士団員を向かわせておりますが、Aランク級が来るとなりますと、いつまで保つか」

「各貴族に呼びかけ、領地にいるCランク以上の冒険者を至急融通して欲しいと言うことと、各国、冒険者ギルドにも全面的に協力してもらう旨、約束を取り付けてある。ギルドマスター、いるか」

 王太子の呼びかけに、ギルドマスターが返事をして前に出た。

「は、御前に」

「Cランク以上の参加者リストを出して欲しい。私と名誉騎士殿、騎士団総長、各騎士団長、魔術師団顧問と魔術師団長が差配するが、あなたも参加して欲しい。回復要員も大量に必要だ。貴族家から参加してくれる者の差配は宰相に任せる」

「御意」

「拠点についてはグレゴリー領のルイビスタスに大本営を置き、Sランク冒険者を中心に据える。南北、東の都市にはAランク冒険者を。Bランク以下の冒険者については分散させる」

「はっ」

「低ランクの魔獣はBランク以下の冒険者に掃討させる。高位の魔獣は、高ランクの冒険者でなければ対処できぬ」

「御意」

「名誉騎士殿、それにパーティーメンバーとして参加して下さった方々、ダンジョン攻略をしている最中に呼び戻す事態になって申し訳ない。だが我が国にとっては最大の幸運であった。至急ルイビスタスに飛び、魔獣の判定をして頂けないだろうか」

「御意」

 名誉騎士が代表して頷き、メンバーを振り返った。

「頼む。私もすぐに行く」

「任せとけ。てことは分散して確認して回った方がいいな。Aランク冒険者の数はそんなに多くねぇ。無駄なく分けねぇと」

 東国の将軍ロジャーが、豪快に笑った。

 金狼の長は大陸最強の盾と名高い。

「そうと決まれば時間を無駄にはできない。早く行こう」

 精霊王国の魔法省長官ルイスは、上位精霊と契約しているという。

 名誉騎士と同年代と思しき容貌であるが、繊細で美しい造作をしていた。

「では我々は一足お先に失礼を」

 軽く頭を下げたのは、西国の魔術省長官ニコルと魔法剣士であった。魔法剣士は仲間以外に名を呼ばれることを好まず、冒険者名も公表はしていなかった。

 魔術省長官もまた同年代に見え、こちらは前衛と言っても差し支えないほどに立派な体躯の持ち主であった。

 魔法剣士は若かった。年齢的には同年代であるはずなのだが、二十代半ばにしか見えず、黒髪金瞳は誰もが目を惹く、恐ろしい程に美しい顔をしていた。

 だが女性らしく見えないのは、長身と剣士にふさわしく鍛えられた体躯のなせる業であった。

 無言で去っていく剣士の後ろ姿に、女性の団員や冒険者達が熱い視線を送っているが一顧だにくれない。

 素早く立ち去っていった名誉騎士以外のSランク冒険者達の無駄のない動きに、誰もが彼らの退出を見送るのだった。

「では冒険者については我々が、貴族家の参加者については宰相に一任する。議事堂を使用する。魔術師団は連絡手段を用意せよ」

「御意」

「陛下」

 王太子が王を見れば、厳しい表情ながらも王太子に優しい瞳を向けていた。

「かつてない国難である。見事采配を振るってみせよ」

「御意」

「その他貴族家も、油断はできぬ。冒険者が崩れれば、魔獣は皆の領地へ向かうことになろう。国を挙げ、全力で冒険者を支えねばならぬ」

 王の言葉に、貴族達が息を呑む。

「グレゴリー侯爵」

 王からの呼びかけに、被害者となった侯爵は頭を上げた。

「は」

「災難であったな。だが、最強の冒険者達が揃っておる。希望を捨ててはならぬぞ」

「ありがたき幸せ」

「皆も領地の見回りの強化や瘴気の確認を怠らぬよう。物資の援助、人材の援助は宰相が受ける。皆の善戦に期待するものである」

「御意」

 貴族達が一斉に頭を下げた。

 王と王族が立ち上がり、その場にいた全員が頭を下げる。

 王族が退出した後には貴族達が退出して行き、騎士団長や魔術師団長達も外に出て、冒険者達も後に続く。

 Aランク冒険者はどこかで待機しておいた方がいいのだろうかとサラが兄を見れば、兄は両親を見ていた。

 両親はこちらに気づき歩いて来る。

 名誉騎士と顧問の存在に気づいた他の冒険者も立ち止まり、行方を見守る。

 兄妹の前で止まった両親は、二人の肩に手を置いた。

「ここに来ているAランク冒険者は全員、議事堂へ来てちょうだい。ギルドにも申し出が来ているみたいなの。振り分けが済むまでは待機しておいてくれるかしら」

 母の言葉に皆は頷く。

 父は兄と妹、それぞれの肩に手を置いて、ため息をついた。

「…お父様?」

「気をつけるんだよ。そして無理はするな。敵の数は多く、長期戦になるだろう。休むべき時には下がって休むこと。自分達だけが無理をして頑張った所で、戦況に及ぼす影響など微々たるものだ、ということを弁えておきなさい」

「はい」

「どうしても無理な強敵が現れた時には助けを求めなさい。必ず駆けつける。死んではいけないよ」

「はい」

 国の英雄たる名誉騎士の言葉としては不適当だったかもしれない。

 だが父親としては当然の言葉であったし、兄妹も素直に頷いた。

 両親が先頭を歩き議事堂へと向かう。

 議事堂は数百人が入れる規模の部屋であり、学園の講堂のようにすり鉢状になっていた。

 王族が座る為のスペースは正面壇上に設置されており、その前の最も低い空間には楕円形の卓が置かれ、議長と大臣が座れるようになっている。それらを囲むように椀型になった階段状のイスには補佐官や見学者などが座れるようになっていた。

 中央の円卓にはすでに魔術師団が魔道具を持ち込み、隣にテーブルとイスを持ち込んで補助ができるように準備されている。

 名誉騎士と顧問は円卓へと降りていき、魔術師団員となにやら話し込み始めたので、兄妹とAランク冒険者達は階段状に用意されているイスに、パーティーごとに集まって腰掛けた。

 王太子と宰相、騎士団長達が入室してきて円卓に腰掛ける。

 議長席に王太子は座り、ギルドマスターから渡されるリストを確認しながら話を始めた。

 ギルドマスターは、冒険者ギルドの受付と通信をつないでいるようで、逐一リストを更新しているようだった。

 Aランク冒険者達は待つしかない。

 カイルとリディアも今回ばかりは大人しく座っており、Aランク冒険者の席は静かであった。

 サラはリアムを見る。

 彼は落ち着いた様子で会議を見ていた。

「リアムさんは、北国のスタンピードのことはご存じですか?」

 問えばリアムは顔を向け、少し考える仕草をした。

「直接参加したことはないので詳細はわかりませんが、パーティーリーダーが参加していたようで、話を聞いたことがあります」

「そうなんですか」

「リーダーは我が国の魔法省長官と知り合いで、当時リーダーは冒険者として登録はしていなかったのですが、後方支援として参加していたらしいのです」

「へぇ…リーダーさんって、父と同じくらいの年齢ですか?」

「父、というと、この国の名誉騎士殿ですよね。リーダーは今年で…五十五くらいだったと思います。お孫さんもいるんですよ」

「てことは、うちの親父殿と同じくらいか」

 カイルが会話に加わって、リアムはああ、と頷く。

「東国の将軍閣下ですね。リーダーとは知り合いだと思います。リーダーは当時、我が国の辺境伯でいらっしゃいました。今は息子殿に爵位を譲り、冒険者として活動しています」

「親父殿世代が元気なのはいいことだ。つか、冒険者ならそのリーダーは参加するのか?」

「わかりません…としか今は言えませんが」

「もし参加されるのなら、リアムさんはそちらのパーティーで?」

 兄が聞けば、リアムは首を傾げた。

「いえそれが…私以外のメンバーは西国におりまして、私はこちらのパーティーで参加させて頂こうかと」

「いいんですか?」

 サラの問いに、リアムは頷く。

「リーダーは今重要な任務についているので、そちら次第になりますから」

 重要な任務が何かについては、誰も聞かない。それが冒険者としての礼儀であった。

「リアムさんが一緒だと心強いです」

 サラが言えば、皆が頷く。

「やっぱり仲間が揃ってるかどうかって、大事よね」

 リディアが言い、リアムは驚いて目を見開く。

「私を仲間と言って下さるんですね」

「当然でしょ。他に所属パーティーがあることは知ってるけど、これだけ一緒に活動してきたら、もう仲間じゃない」

 兄妹とカイルも同意した。

 リアムの誠実な人柄を知っている。

 ずっとこのパーティーでいられるわけではないということを知っているから、いつも一歩引いて遠慮していることも。

 だが共に行動している間は、仲間として精一杯尽くそうと思ってくれていることも。

「ありがとうございます」

「礼なんて水くさいわ。それよりもスタンピードなんでしょ?いつものダンジョン攻略の準備しかしてないけど大丈夫なのかしら。拠点を作るって言っていたから、補給も受けられる?」

「それについては問題ない」

 王太子が階段を登って来て、声をかけた。

「待たせて済まない。Aランク冒険者の分担が決まったので発表する。皆集まって欲しい」

 バラバラに座っていた冒険者達が王太子の周囲に集まり、続く言葉を待つ。

 南北東、三カ所の都市の分担をパーティー単位で決めた。だがすぐに各都市へ飛ぶのではなく、準備が出来次第まずはルイビスタスに転移装置で出発して欲しいという通達であった。

「各都市まで馬車で一日かかる。足の速い魔獣はすでに向かっているが、到着までまだ時間がかかるだろう。先にルイビスタスで、周辺の魔獣の数を減らす手伝いをしてもらいたい」

「はい」

「夜明け前には引き上げて各都市へ転移してもらう。休憩後、到着する魔獣を迎え撃ってもらいたい」

「わかりました」

「各都市にも拠点を設置する。薬品の補充だけでなく、食事や宿泊、回復も受けられるので利用して欲しい。Aランクパーティーは各都市複数いるので、パーティーごとに交代して休憩してくれ。Sランク冒険者からの報告では、今のところAランク級の魔獣までのようだ。今後はわからないが、今のところはそれで対処できるだろう。状況が変わり次第追って指示は出す。何か質問は?」

 挙手したのは、三十代と見られる前衛の男であった。

「パーティーメンバー間で連絡を取れる付呪具は所持していますが、他パーティーと連携を取ったり指示を受けたりする為の手段はあるのでしょうか」

 王太子は頷いた。

「皆連絡手段としてはピアスを使用していることと思う。片方をパーティー用、片方をAランク以上の連絡用として二種類渡す。指示もこちらから出る。まずはルイビスタスへ移動後、待機している魔術師団から地図を受け取り移動して欲しい。拠点にて名簿登録を行ってもらい、その際にピアスも受け取ってもらうこととなる」

「了解しました」

「他に質問は?…では移動を開始してくれ」

「はっ」

 Aランク冒険者達が一斉に退出していくが、サラ達のパーティーは最後まで残った。

 王太子もまたその場に残っており、カイルが問う。

「おまえはここに残って指示するんだろう?」

「は?何を言ってる。私も当然一緒に行くに決まっているだろう」

「はぁ!?」

 カイルは驚いたし、他のメンバーも当然のことながら驚いた。

「え、やめときなよ。危ないよ?」

 リディアが言い、リアムも頷く。

 だが王太子は引かなかった。

「馬鹿を言うな。ならなおさら私も行って戦力として働くべきだろう」

「いやいや…殿下は殿下ですよ。一介の冒険者とは違います。せめて激励くらいにしておいて、都市内にいて下さい」

「心配はいらない。もし万が一のことがあるというなら、おまえが死んでくれるだろう?」

 兄の言葉に答える王太子は、事も無げに言った。

「おい、おまえいくらなんでも」

 カイルの言葉を兄は手を上げ遮った。

「無論その覚悟はありますが」

「ならば良い。そもそも勘違いしてもらっては困るのだが、私に護衛は必要ない。共に戦う為に行くのだ。私は強い。そうだろう?」

「…否定はしませんけど」

「Sランク冒険者が戦う最前線に立とうというわけでもない。Aランク冒険者として、ふさわしい戦場に立つ。無謀な王子様扱いはむしろ侮辱だぞ」

「…すいません」

「いや待てや。おまえはこの国の王になる男だぞ。侮辱とかそういう問題じゃねぇだろが」

 素直に謝罪し頭を下げようとした兄を、今度はカイルが止めた。

「カイル。スタンピードに参加する王族は必要だ。北国でも東国でもそうだった。何故か?それは士気に関わるからだ」

「…だからって前線で戦わなくても」

「ノスタトルの王族は後方支援に回っていたが、それは己の実力を知っていたからだ。イストファガスの剣姫は、最前線で戦った。獣人族、エルフ族、ドワーフ族、ホビット族など、亜人族と同盟を結び、パーティーメンバーとして共に戦った。おまえの国の伝説だ、当然知っているだろう?」

「…あの剣姫は精霊の加護を受けし姫だった。おまえとは違う」

「同じだよ。王族だ。そして戦う力を持っている」

「はー…」

 カイルは頭痛がするかのように、額に手をやりため息をついた。

「サラ、何とか言ってやれ」

 サラに話題を振られ、皆の視線が集まる。

 サラは王太子を見上げた。

 王太子の瞳は真っ直ぐサラを見つめて、言葉を待っていた。

 本当は、安全な王宮で指示を出すのがいいのだろう。

 前線に出るとしても、戦場ではなく都市内で味方を鼓舞すべきなのだった。

 だがAランク冒険者である王族が最も安全な場所に引きこもり、低ランク冒険者や貴族達が戦場に出る、という事態は彼の望む姿ではないのだった。

 戦う力があるのだから戦う。

 肩書きを考えなければとてもシンプルな冒険者の思考であり、サラも持っているものだった。

 サラ自身は彼に何を望むのか、と考えた時、答えはとても簡単だった。

「殿下、以前私は殿下が最前線に出るのは反対だと申し上げました」

「うん、覚えている」

「でも今、私は殿下や兄、皆と一緒に戦いたいと思っています」

「そうか」

「おいこら、サラ」

 嬉しそうに笑う王太子の後ろで、カイルが苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、仕方がない。

 王太子は引く気がないし、サラは皆と一緒に戦いたい。

 兄を見れば呆れたような表情はしていたものの、最初のように反対する様子は見せなかった。

「サラに言われちゃったらもう駄目ね、カイル、覚悟を決めましょ」

 リディアも苦笑混じりに受け入れたことで、カイルは折れた。

「あーもー」

「サラ、いいんだな?」

 兄の問いに、サラは迷いなく頷く。

「はい」

「ではリアムさんも、諦めて殿下と一緒に戦って下さいね」

「もちろんです」

 皆が覚悟を決めた瞬間だった。

 王太子を死なせてはならない。

 万が一、そのような事態になるようならば誰かが代わりに死ぬ。

 おそらく兄が最初に死ぬだろう。

 これは全員が理解していた。

 そうなったらサラは、必ず兄を救う。

 即死などさせない。

 必ず、回復してみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る