第212話 神魔大戦 ~それぞれの決戦へ①~

「来たな」


 キラトの言葉にキラト直属の軍にシオルの兵団が突進してきた。


 キラトはこの状況にニヤリとただ笑う。麾下の兵達もキラトの覇気ある姿に麾下の兵達は緊張しつつも確かな高揚を覚えていた。


「構えぇぇぇえ!!」


 指揮官達の命令に兵達は一切の動揺を示すことなく槍衾を形成する。その一糸乱れぬ統制はさすがにキラト直属の兵である。


 間違いなく精鋭だ。


 その精鋭達にシオルの兵団は全く速度を落とすことなく突っ込んでくる。


 シオルの兵団もまた確実に精鋭であった。


 両軍がぶつかり、怒号が飛び交い、絶叫が響き渡る。


『ウォォォォォォォ!!』


 キラト麾下の兵士達は圧倒的な力で奴隷兵士リュグール達を蹴散らしていく。奴隷兵士リュグールは戦闘力の大きなバラつきはない。そして、恐怖もない意思ない人形にすぎない。それは大きな強みではあるが、逆に言えば勝てない相手に対しては勝ち目が全くないことを意味するのだ。


 キラト麾下の兵達は戦闘力が劣る者であっても集団でカバーしつつ戦っているのである。


「……やはり奴隷兵士リュグール共では勝てんな」

「シオル様、我らに出撃を命じてください!!」


 シオル麾下の神族達が直談判を行う。


「うむ、レゼンは右側から、キューゼスは左側から襲い掛かれ、半包囲体制をとる。クラヌスはレゼンの援護、クルヴィムはキューゼスの援護だ」

『はっ!!』


 シオルの指示を受けた四柱は即座に行動に移す。この四柱の実力は相当高い。戦闘力だけでなく指揮能力も高い。


(キラトはそのまま手薄になった正面突破を図るか……? それとも右か左のどちらを狙うか……)


 シオルは思案をそう相手の動きを見てどう動くかを決めるつもりであった。


 シオルは何者かの気配を感じると後ろを振り向いた。周囲の部下達はシオルにつられて後ろを振り返った。


「ああ、その左腕治さなかったのか?」


 キラトの問いかけにシオルは静かに首を振る。シオルの周囲の者達はそれがキラトであることに気づくと襲い掛かろうとしたのだが、それをシオルは視線で制止した。


「治さなかったというわけじゃない。治らなかったというのが正確だ」

「治らなかった……か」

「ああ、それだけルキナが強かったというわけだ」

「そうか……それで今のお前は親父殿と戦った時よりも弱いのか?」


 キラトの声はどことなくこちらを伺うような響きであった。シオルはキラトの意図を察するとニヤリと笑う。


「心配するな……」


 シオルは短く答えると抜き放った剣を静かに振る。


 するとシオルの三メートル先の地面が切り裂かれた。


「どうだ? お前の相手に相応しいか?」


 シオルは凄まじい覇気を放ちながら言う。


「ああ、合格だ。それだけの力を見せられれば俺の相手に相応しい」

「光栄だ。なら次はそちらだな」

「ああ」


 キラトはシオルの言葉に応えると剣を抜き放つ。


「ルキナの剣……だな」

「ああ、親父殿が死の間際に俺に託した」

「……そうか」


 キラトの言葉に一瞬であるが、シオルは羨望・・の表情を浮かべたことにキラトは気づいた。


 シュン……


 キラトが剣を振る。その剣の動きは芸術と呼ぶに相応しいものであり、シオルは静かに頷く。


「どうだ?」

「ああ、合格だ」


 シオルの言葉にキラトは苦笑を浮かべる。先ほどの自分の言葉を突き返された形だ。


「さて互いに闘うに相応しい相手であることは確認できた……それではシオルガルク殿……このキラトの挑戦受けてもらおうか」

「無論だ……この時を待っていたぞ。魔王自らが俺と闘うために場を整えた。その心意気に応えさせてもらおう」

「やはり……わかっていたか」

「ああ、背後に魔王が単独で現れた……この辺りに転移陣をあらかじめ施していたのだろう?」

「ああ、何しろ俺の首は天軍にとって最も欲しいものだ。余計な邪魔が入らないようにするのは当然だ」

「ここにも神族や天使がいるぞ?」

「わかってるさ……だが、一騎討ちに入り込むような無粋なものがいるのかな?」

「ふ……残念だが魔王キラトと戦うなら一騎討ちの方が勝率が上がると言うものだ」

「入ってきても構わないのだがな」

「そんなつけ込む隙をわざわざ作るほど俺は愚かではない」


 シオルの言葉にキラトは少し口角を上げた。両者ほどの実力者達にとって、シオルの周囲の神族、天使が干渉しようが実力差が開きすぎているためキラトの邪魔になり得ない。

 これはキラトの方から見れば、利用できるがその辺りに転がっていることを意味する。


「さて……一騎討ちといこうか」


 キラトは魔剣ヴォルシスに大量の魔力を流し込むとその刀身が砕け散り、魔力で形成された刀身が現れる。


「いきなりか……」


 シオルはニヤリと笑うと自らの神剣ヴァルジオスに魔力をこめて刀身が砕け散ると光の刀身が現れる。


「そっちもか」

「お前が強いのはわかってる。ルキナが後を託した男が弱いなどあり得ないのでな」

「光栄だ。さて、ここから先はこちらで語ることにしよう」

「ああ、魔王キラト……一騎討ちと行こう」


 シオルが言い終わると同時に両者は動く。


 両者の動きを見ることができたものなどその場にはいない。そう断言できるほどキラトとシオルの動きは次元を超えたものだった。


 キィィィィン!!


 両者の打ち交わされる剣戟の音と衝撃が周囲に響いた。


 魔王キラトとシオルの決戦が始まったのだ。

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