第139話 社会見学③
「それはシルヴィスだ」
キラトの言葉にレンヤ達の視線がシルヴィスへと向かう。
「君達と同じようにシルヴィスもこの世界に召喚されてきた。どうやら君達はシルヴィスは魔王の部下だったと聞かされただろうが、実際は大きく異なる」
ここでキラトはシルヴィスへと視線を向けるとシルヴィスは頷いた。どうやら自分で説明しろということらしい。
「キラトの言った通り、俺は実際にお前達と同じように異世界からこの世界へ召喚された」
「……」
「当然、
「拒否……?」
「ああ、召喚の途中で身体の中に何かが入ってきそうな気持ち悪い感覚だったから弾き飛ばしたんだ」
「……信じられない」
「俺は
「え……」
「消す……」
「まさか……」
シルヴィスの言葉に三人は呆然とした表情を浮かべた。
「別に信じなくても構わんよ。事実は何も変わらないからな。黙って追放するとかだったら俺は別に気にせず消えたさ。だが、ラフィーヌは俺を秘密裏に消すことを選択したんだよ。お前らの中でラフィーヌはどんな女か知らんが、俺にとっては自分の思い通りに動かないコマは必要ないから消すという冷徹なやつだよ」
「そんな……」
「第一、国書を持ってきた特使を罠に嵌めるダメの陣をあらかじめ仕掛けてるのはその証拠だろ」
「そ、それは……」
「言い出したのはラフィーヌじゃないかも知れんが、それを最終的に許可したのは間違いなくラフィーヌ……別の言い方をすれば責任を取るべきはラフィーヌというわけだ」
「……俺たちは騙されてたのか?」
「いや、そうとばかりは言えんだろ。ラフィーヌは皇女だ。その立場を考えれば優先順位にエルガルド帝国か皇族に持ってきてるのは当然だ」
「あんたはそれで納得してるのか?」
レンヤの問いかけにシルヴィスは首を横に振った。
「ああ、立場の違いというやつだ。そこはいいさ。だが、それに俺が従う理由はない」
「……すごいな、あんた。俺はあんたに比べれば甘すぎる……」
「そうでもない。俺はそうならないと生き残れなかった。お前はそうならなくて済んだいた。それだけのことでそこに優劣はない」
シルヴィスの言葉にレンヤは小さく頷いた。
「シルヴィスの存在は明らかに異質だ。ディアンリアの
「神よりも強いのか?」
「ああ、ソールという神を実際に斃したのは俺達だが、その状況を作り上げたのはシルヴィスだし、
「神殺し……なのか?」
「ああ、普通に考えれば人間が神に勝つのは不可能なんだけどな。シルヴィスにそれは当てはまらない」
「……私の
エルナの言葉にシルヴィスは首を横に振る。
「ああ、あれはディアーネさんだぞ」
「え?」
シルヴィスの言葉にレンヤ達の視線がディアーネに注がれる。ディアーネはレンヤ達の視線を受けても澄ました表情を浮かべている。まるで大したことなどしてないと言わんばかりである。
「ひょっとして……この方々も?」
レンヤはヴェルティア達三人に目を向ける。
「この方達も異世界の方々だ」
「「「え!?」」」
キラトの言葉は完全にレンヤ達にとって予想外のものだったのだろう。三人の視線がヴェルティア達三人に集中する。
「それじゃあ……竜神族っていうのは?」
「あっそれは本当なんですよ。私は竜神族という種族です。いわゆる祖先に竜神がいるんですよ」
「りゅ、竜神……」
「はい。ディアーネもユリも竜神族なんです!!」
「そ、そうなんですか……」
レンヤの言葉は大いに困惑した感情が含まれていた。
「ちなみにヴェルティアさん達はシルヴィスと同じ世界の方々だ」
「そうなんですね。でもどうやってここに来たんですか?」
「え? 普通に次元の壁を超えてきましたよ」
「「「はっ?」」」
「意外と簡単ですよ」
ヴェルティアの言葉にレンヤ達は顔が凍った。いくら何でも次元の壁を越えるのが簡単と言い放ってしまうヴェルティアに引いてしまうのは仕方のないことであった。
特にレンヤはヴェルティアがシルヴィスを追ってきたことに思い至ると少々心が重くなっているようだった。
「わかるかい? 神にとってシルヴィスの存在だけでも頭が痛いところに、ヴェルティアさん達という新たな強者が現れてしまった」
「……ヴェルティアさん達はシルヴィスさんと同じくらい強いんですか?」
「いや、シルヴィス様と互角に戦えるのは私たちの中でお嬢くらいだよ」
「そうですね。シルヴィス様相手なら私達二人では相手になりません」
「はぁ、そうなんですか……」
ディアーネ達の返答にレンヤは困惑している。自分達をあしらったシルヴィスとヴェルティアが互角の実力を持っていると聞かされればレンヤとすれば心穏やかではない。
「まぁ、この四人は明らかに規格外だからね。あまり基準にするのは感心しないよ」
「はぁ……」
「そんな規格外の戦力が俺達魔族と手を組んだ。どう考えても戦力のバランスが崩れてしまったわけだ。神はそれを憂慮したのかもな。魔族の勢力を削ぐために先王と軍規相を排除したわけだ」
「待ってください」
そこにエルナがキラトに問いかけた。キラトは目線でエルナに先を促した。
「……エルガルド帝国の皇帝一家を殺したのはあなた方でないなら誰と考えますか?」
エルナは緊張しつつキラトへと問いかけた。それは既に答えを知っているが、それを確かなものにするために問いかけているようであった。
「神だ」
キラトはエルナの気持ちを察したのだろう。ただ一言で即答した。
「神だとして何のためにです? 戦力のバランスを整えるためならエルガルド帝国の皇帝一家を殺す理由はないと思います」
「いや、利点はある」
「利点?」
「ああ、まず前提条件としてソールと暗殺に関わった神は軍規相だけでなく俺と第四軍団長も殺すつもりだったんだよ」
「……バランスを取り切れなかったのですね?」
「そういうことだと思うよ。先王と俺が死ねば魔族は大きく混乱する。それこそ各軍団が軍閥化したかもしれんし、互いに争う内戦状態になった可能性すらある。だが、それはシルヴィス達のおかげで阻止されたわけだ」
「ひょっとして……神は魔族と人族に同時に干渉を行ったということですか?」
「あるいは横の連携が取れてなかったかだね」
キラトの言葉にエルナは頷いた。
「エルガルド帝国では魔族の仕業であると発表されたのだろう? だが、私達魔族はエルガルド帝国の皇帝一家が死んだことを知らなかった。もちろん私が嘘をついている可能性も大いにあるだろうが、私は神がやったと思っているよ」
「……どうしてあなた方はそういう言い方をするんです?」
「ん?」
「シルヴィスさんもそうでした。私達が信じなければ構わないというスタンスです!!」
エルナの言葉には大きな不満の感情が含まれていた。エルナとすれば自分達の存在を軽視されているように感じていたのだ。
「それは仕方なくないかな?」
「え?」
「君達の立場は我々の仲間かな?」
「……」
「即答できないだろう? つまりそういうことだよ。君達は兵器だ。それなりの良品であるのは間違いない」
「な……兵器ですって?」
「気に障ったかな? だが現実に君達はエルガルド帝国の振るう兵器だよ。自分達の意思によって行動しているようには見えないからね」
「う……そ、それは……」
エルナはキラトの言葉を否定することができなかった。実際に言われるがまま魔族を絶対の悪と決めつけ戦おうとしていることを指摘されればその評価も当然というものであった。
「さて、君達はこれからどうする?」
「え?」
「このまま兵器として誰かに使われるか……それとも自己の意思に従って行動する人間になるかだよ」
「……」
キラトの問いかけに三人は沈黙した。
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