第132話 再会⑦
「あ……コホン。ようこそエルガルド帝国へ、お、俺、いや私はレンヤ=シノミヤと言います」
レンヤは明らかに動揺した様子でヴェルティアへ自己紹介を始めた。先ほどまでシルヴィスに食ってかかろうとした時とは明らかに温度差が違うことに全員が呆気に取られた。
(こいつ、ひょっとして……?)
シルヴィスはレンヤからヴェルティアに注がれる熱のこもった視線を察して頭を抱えたくなった。
「ご丁寧にありがとうございます。私は特使のヴェルティア=アインゼスです」
ヴェルティアはニッコリと微笑んで優雅な声と共に一礼する。ヴェルティアは表面上だけみれば世の異性の理想を体現したかのような容姿をしている。もちろん造形だけでなく周囲のものを明るくする笑顔はヴェルティアの美しさ、魅力をさらに増しているのだ。
先ほどまで敵意と緊張、そして恐怖を纏っていた兵士達もヴェルティアの笑顔に頬を赤く染めるものが現れている。
(ひょっとして無知……って幸せなんじゃないか?)
ヴェルティアの爆走ぶりを知っているシルヴィスとすればレンヤ達の反応は納得することができるものであるが、同情もするというものだ。
「みなさんが私達をエルガルド帝国皇帝陛下の元へ案内してくださるというわけですね」
「は、はい!!」
「それではお願いします」
ヴェルティアはニッコリと笑ってレンヤに一礼するとレンヤはポンと真っ赤に顔を染めた。
「こ、こちらです!!」
レンヤが先導し、シルヴィス達もそれに続く。ヴィルガルドとエルナはその後ろについた。救世主が四人を取り囲むような形になった。
(レンヤか……こいつこの2ヶ月で相当強くなったな。
シルヴィスは後ろからレンヤの姿を見て2ヶ月前とは別人の実力を身につけている事を見抜いた。
(それにヴィルガルドって言ったかな……かなりの腕前だったがさらに強くなっている。エルナという魔術師も魔力が強くなっているな)
シルヴィスはヴィルガルドとエルナも同様に実力を一段階上げているのを察している。
「ヴェルティアさんは魔族なんですか? 見た目は人間と変わりませんけど」
そこにレンヤがヴェルティアに向けて色々と話を振っている。
「いえ、私は魔族じゃないですよ。竜神族と呼ばれている種族です」
「竜神族?」
ヴェルティアの返答にレンヤの声に驚きの感情がこもる。それはヴィルガルド達も同様のようであった。
(この世界には竜神族という種族はいないんだろうな。もしくはエルガルド帝国の者達が知らないというわけかな)
シルヴィスはエルガルド帝国の騎士達から同様に訝しむ気配を察した。
「まさか、竜神族は魔王に支配されているのですか?」
「……? いえ、私が魔王キラト陛下側についているのは私の意思ですよ。シルヴィス
「まさか、ヴェルティアさんはあいつの恋人なんですか?」
「う〜ん、どうなんでしょうね? シルヴィス、私達って恋人なんですかね?」
ヴェルティアがシルヴィスに尋ねてきた。ヴェルティアの質問は恋人の定義を迷った結果のものである。
「お二人は恋人ではございません」
ヴェルティアの質問に答えたのはディアーネであった。本来であれば質問にディアーネが答えるなどあり得ないことだ。
「え!? そうなんですか!!」
ディアーネの返答に事のほか喜んだのはレンヤであった。
「はい、ヴェルティア様とシルヴィス様は既に婚約者でございます。恋人などという不確かな関係ではございません」
「こ、婚約者……」
「はい、これは竜神族の未来のために絶対に必要な事なのです」
「竜神族の……?」
「はい。これは仕方のない事……未来のために必要不可欠な事なのです」
ディアーネの言葉にヴェルティアが最もらしく頷いた。ヴェルティアとしてはディアーネの能力を信頼しているので、あり得ない行動をするときには必ず何かしらの意味があると思っているのだ。
それはシルヴィスもユリも同様であるので、この場で指摘するようなことはしない。
(レンヤはヴェルティアに好意を持ったからそれを利用しようという事かな?)
シルヴィスはディアーネの狙いをそう推測する。
(人は見たいモノしか見ない。いや、これは神の魔族も一緒だがな)
シルヴィスは表面上は平然としていたが、心の中で皮肉気に嗤う。ディアーネの仕掛けに思い切りレンヤは乗ったようで、シルヴィスに鋭い視線を向けていた。
(こいつの中で俺はどんな悪人に仕立てられていることやら)
心の中で肩を竦めながらシルヴィスはレンヤに“お前今思い切り騙されてんだぞ”と教えてあげたい誘惑を必死に抑えている。チラリとユリを見るとシルヴィスとほぼ同意見のようで、ディアーネに少し非難の視線を向け、同時にレンヤに同情の視線を向けていた。
「ヴェルティアさん!!」
「はい? 何でしょうか?」
「あなたはそれで満足してるんですか?」
「えぇ、よくある話ですからね」
「そ、そんな……」
ヴェルティアの反応にレンヤは悔しそうな表情を浮かべた。しかし、決意に満ちた表情を浮かべるとヴェルティアへ宣言した。
「俺が必ずあなたを救います!!」
「ふふ、ありがとうございます」
ヴェルティアは首を傾げそうになるのを必死に堪えつつ微笑んだ。
ディアーネはその様子を見て小さく
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