第80話 仕込み④
ヴェルティアが口火を切り、他の三人も天使に襲いかかる。
ドゴォォォ!!
ヴェルティアの拳をまともに顔面に受けた天使は吹き飛び仲間達を巻き込んだ。
「くっ」
巻き込まれた天使が原因となった天使をおしのけたところでシルヴィスの蹴りが顔面にまともに当たる。
ゴギィ!!
顔面を蹴られた天使は杭があらぬ方向へ曲がってピクピクと痙攣をしている。ディアーネもユリも
「ひぃ!!」
「なんだこいつら!!」
「た、助けてくれ!!」
一方で襲われた側の天使達は一気に混乱の中に叩き込まれてしまった。天界という自分達の本拠地に敵が侵入するなど三千年無かったことだ。当然、その備えなど無くなって久しい。
そしてその混乱を立て直すだけの時間を与えるような甘い相手でないのが天使達にとって不幸であっただろう。
シルヴィスは戦いにおいて油断、躊躇が自分のみならず仲間達の死に繋がることを知っているために、敵が混乱するという好機を見逃すはずはないし、ヴェルティア達も基本は同じ価値観である。
わずか三分ほどの戦いで天使達は一掃された。
「う~ん……不思議な感じですねぇ。全力で動いているつもりなんですけど、この程度の力しか出ないのは逆に新鮮です」
ヴェルティアが手を何度か握り開く行為を繰り替えしながら行った。
「まぁ、その辺のところは慣れてもらうしかないな」
「お二人ともお話はその辺にしてこのまま一つにまとまって行動ですか? それとも散会しますか?」
「もちろん、“一つにまとまるですよ“。それ以外にはないです」
ディアーネの問いに答えたのはヴェルティアであった。
「戦闘に関してだけはお嬢の判断は確実だから異論はないんだけどさ、この件はシルヴィス様の発案なんだから、シルヴィス様の意見を聞くべきだと思うよ」
「それもそうですね。ヴェルティア様の戦闘に関することだけは確実ですしね。でも発案者の意向を無視してはいけませんよね」
「二人ともそこまで私の事を信じてくれてるんですね。嬉しいです!! でも確かに発案者はシルヴィスですからね。シルヴィスの意見を聞くべきですね。それでどうします?」
ヴェルティア達の問いかけにシルヴィスは悩むことなく口を開いた。
「もちろん、ヴェルティアの言うとおり、一つにまとまってだな」
「お~やはり、そうですか!! ですよね!! それじゃあ!! いくとしましょう!!」
ヴェルティアはガンガンと胸の前で両拳をぶつけている。好戦的な様子であるがこの敵地において頼もしいことこの上ない。
「さて、それではもう一手打っておくか」
シルヴィスがニヤリと嗤って言うと天使達の死体達から魔力が発せられた。発せられた魔力は一つにまとまると一体の怪物へと変貌する。
五メートルほどの巨体で二足歩行であるが、やや前のめりの姿勢に長い尻尾でバランスを取っているようだ。また腕も伸ばせば地面に余裕でつく長さで腕部に無数のトゲが生えており凶悪な印象を与える。
「おおっ!! 何とシルヴィスの凶悪な心情を表したかのようなデザインですね!! 格好良いですよ!!」
絶妙に落として上げるというヴェルティアの言葉にシルヴィスは苦笑してしまう基本的にヴェルティアは人を貶めるだけのことはしない。やはりこの辺りはヴェルティアの育ちの良さ、愛情をもって育てられた故のことだろう。
「まぁ……言いたいところはあるけど行くとしますか」
シルヴィスの思念を受けたのだろう。怪物はシルヴィス達の前に立つと一気に駆け出した。
「グォォォォォォォォ!!」
怪物が咆哮するとそのまま扉を突き破る。
「なっ!!」
「うわぁぁ!!」
突如現れた怪物に天使達は混乱した。シルヴィス達の人形が暴威を振るっているという報告を受けた天使達が突入の機会をうかがっていたところに怪物が駆け込んできたことがさらに混乱に拍車をかけたのだ。
天使達の中に飛び込んだ怪物は暴威を振るい始めた。
振り回したトゲのついた腕の直撃を受けた哀れな天使が吹き飛ばされると壁に叩きつけられ床に転がる。ピクピクと痙攣を起こしそれが収まったことが一つの命が終わった事を示している。
「くそ!!」
天使達は一斉に光の矢を放った。数十本の光の矢が怪物の体を貫いた。
怪物は苦しむ様子を見せずに腕のトゲを一斉に放った。
ドドドドドドドドッ!!
凄まじい速度で放たれた無数のトゲが壁に突き刺さっていく。もちろん天使達に放たれたのだが天使達はそれを躱したのだ。凄まじい速度で放たれた無数のトゲを躱すことが出来るのはさすがに天使達の身体能力が人間よりも遙かに高い事の表れである。
「ちっ!! ひるむな!! こんな醜い化け物の存在をこれ以上許すな!!」
「おう!!」
天使達は混乱から立ち直りつつあり、それに従って自分達がやりたい放題されている事に対して怒りの炎が燃え上がり始めた。
だが、怪物に意識を持って行かれたことで、さらに危険な存在が自分達を狙っていることを失念していた。
その危険な存在とはもちろんシルヴィス達だ。見かけだけは優美な災害達は、天使達に
現在のシルヴィス達の力も速度も本体に比べて著しく劣る。だが、その戦闘技術は大きく劣るものではないのだ。
「くそ!! こいつら!!」
天使達は人間の形をした災禍と怪物を同時に相手取ることになったが、明らかに分が悪いというものだった。
シルヴィス達は互いにカバーし合いながら天使達を蹴散らしていく。数で勝る天使達であるがシルヴィス達の連携のために次々と敗れていった。
「てぇい!!」
ユリが天使の首を斬り飛ばした時、ある一条の光がユリの右腕を吹き飛ばした。
「な……」
ユリの表情が驚きのものとなる。今の一撃をユリは察知することができなかったからだ。躱せなかったのではない。
「みんな……大物が来たみたいだ」
「そうみたいですね」
シルヴィスの言葉にヴェルティア達も光を放った者に視線を向けた。
そこには金髪碧眼の秀麗な容姿の少年が立っていた。
「シュ、シュレン様!!」
天使達の驚きと喜びの声が周囲に響く。
「みな下がりなさい。この者達は私が相手をする」
シュレンは静かにシルヴィス達を見据えた。
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