第77話 仕込み①

 シルヴィス達は八戦神オクトゼルスを蹴散らした後、ちょっとした仕込み・・・を行った後、魔王ルキナへと会うために、魔族の都である『フェインレグル』へと向かう事になった。


 フォルスの言葉でこの村以外にも八戦神オクトゼルスは虐殺行為を行った事はわかっているので、シルヴィスの仕込みに対してヴェルティア達も反対はしなかった。


 ガタゴト……


「しかし、シルヴィスは本当に性格が歪んでますよね。普通あんな事思いつきませんよ」

「そうか?」


 ヴェルティアの言葉にはかなり辛辣なものであるが、声の調子には一切の嫌悪感はない。むしろシルヴィスの過去の話を知ったことで戦いに対する基本姿勢に理解を示したために納得している響きすらある。


「そうですよ。あんなブービートラップを誰が考えるというんです?」

「誰でも一度は思いつくだろ」

「え?私は思いつかなかったですよ」

「お前はそういうのは無縁だろうな」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアは嬉しそうな顔をする。普通に考えれば嫌味が含まれていると思うのだろうが、ヴェルティアはそう考えない。シルヴィスもヴェルティの性格をわかってきたので、嫌味ではなく本心からの言葉である。


「お前には小細工なんか必要ない。そんなことしなくてもお前のような絶対的強者には最強だ」

「なんと!! まさかシルヴィスがそこまで私のことを正確に評価できるとは思っても見ませんでした!! 素直になったシルヴィスは偉いです!! 素晴らしいです!!」

「なんか馬鹿にされてる気がするな」

「そんなことはありませんよ!! 偉大な私に追いつくべくシルヴィスがやっと……アイタッ!!」


 ヴェルティアが頭を押さえて話を中断したのはシルヴィスが手刀を繰り出したからだ。常人ならば昏倒しても不思議でないのだが、もちろんヴェルティアは常人ではないので頭をさするくらいですんでいる。


「何てことするんです!!痛いじゃないですか!!」

「すまん。何か無性にお前の頭を叩きたくなってな」

「何ですかそれは」

「ヴェルティア様、ちょっと……」


 抗議の声をあげるヴェルティアを制したのはディアーネであった。ディアーネはヴェルティアの耳にコチを寄せると何やら囁いた。


「う〜む、それなら仕方ないですね。シルヴィスの境遇を考えれば仕方ないことかも知れませんね。うんうん、許してあげます!! 私の心の広さを褒め称えてください!!」

「お前、ディアーネさんに何言われたの?」

「ふふ、聞きたいですか? なるほど聞きたいんですね!! 教えて差し上げますよ!!」

「お前、質問して自己完結するまでの間が無さすぎるだろ」

「はっはっはっ!! 私の決断力は確かですから悩む時間すら無用なのです!!」


 ヴェルティアの高笑いが馬車内に響く。もし、外であれば腰に手を当てての高笑いになっていたことだろう。


「それで嫌な予感しかしないがお前ディアーネさんに何言われたの?」


 限りなくイジられる流れをシルヴィスは感じているが、そこに踏み込む流れであることも既に承知していた。ここで聞かなくてもヴェルティアは勝手にしゃべるのは既定路線だ。


「ディアーネはシルヴィスは女性に慣れていないので、素直に親愛の情を示すことができないと言いました。なるほど確かにシルヴィスはご年配のキーファ様と修行付の毎日だったでしょうから、女性と話すという経験も少なかったことでしょう。そのような境遇であるシルヴィスを責めるわけにはいきません。いいですかシルヴィス……って聞いてるんですか?」


 ヴェルティアが頭を抱えたシルヴィスを心配するように尋ねた。


「いや、何というか。お前はディアーネさんの言葉をそのまま信じたのか?」

「もちろんですよ。ディアーネの意見に間違いがあったんですか?」

「当たり前だろ。お師匠様との生活の場は基本、街中だったんだから普通に女性と触れ合うこともあったぞ」

「え?そうなんですか? 寂しい青春を送っているとばかり思っていましたよ。シルヴィス、正直は美徳ですよ?」

「お前、殴っていいか?」

「ああ、シルヴィスそう言うふうにすぐに暴力に訴えるのは止めた方が良いですよ。私はシルヴィスが心配でなりません」


 ヴェルティアが腕を組んでうんうんと頷いている。


「そういうお前こそ、男慣れしてるようには思えんぞ。どう考えても他の男がお前についてこれるとは思えんぞ」

「なっ!! 何を言っているんですか!! 私はこう見えても竜皇国で絶大な支持を得ていますよ」

「確かに絶大な支持を得ているのは間違いないだろうが、どちらかというと英雄としてだろ」

「ガーーーン」


 シルヴィスの指摘にヴェルティアはややわざとらしく落ち込んでみせた。


「シルヴィス様、少しフォローがございます」

「はい」


 ディアーネが静かな口調で言う。真面目な口調であり、シルヴィスも少しばかり調子に乗りすぎたと身構えた。

 何しろヴェルティアは超大国の皇女様なのだ。中身はかなり残念だが、本来の身分を考えるとシルヴィスでは口も利くことができないほどの身分差があるのだ。


「ヴェルティア様は確かに同年代の異性には意外と人気がございません」

「「え?」」

「より正確に申しますと恋愛対象と見られることはございません」

「え? ちょっとディアーネさん、そんなこと言って大丈夫なんですか?」

「事実ですから構いません。ヴェルティア様は容姿といい、性格といい、高貴さ……は置いといて」

「ちょっと待ってください。なぜ高貴さを置いておくんですか!!」

「素晴らしい方であるのは間違いございません」


 ヴェルティアの抗議をディアーネは意に介することなく話を続けた。この辺りのディアーネの胆力は驚嘆すべきものである。ヴェルティアとの関係が近しいということとは別にディアーネの胆力は特筆すべきものであるのは間違いない。


「しかし、ヴェルティア様について行くことのできる同年代の異性の方が存在していないのです」

「は、はぁ」

「シルヴィス様、情けないと思いませんか? ヴェルティア様について行けない実力の無さを嘆いている暇があればヴェルティア様に追いつくために努力をすべきではないでしょうか!!」

「そ、そう思います!!」


 ギンと射抜くようなディアーネの視線にシルヴィスは反射的に答えた。


「そうですよね。シルヴィス様ならばそう答えてもらえると信じておりましたよ」

「は、はぁ」

「以上で私の話は終わりますので、あとはお二人でじっくりと話し合ってください」

「「何を!?」」


 ディアーネの言葉にシルヴィスとヴェルティアは同時に叫んだ。その時、シルヴィスの知覚が天使達が現れたことを察した。


「お……来たな」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアもディアーネも口を閉じた。この辺りの切り替えの早さはやはい非凡と言わざるを得ないだろう。


「それにしても結構慎重なんですね」

「まぁ、あいつら神族のなかでもそれなりの地位にあっただろうから、こちらを警戒してもおかしくないさ」

野晒し・・・にするようなことはしないと思われますから、あとはタイミングですね」

「ええ、嫌がらせとすれば十分でしょうね」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアとディアーネは頷いた。

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