第47話 魔族との邂逅⑫

「どうも気になるな」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアが首を傾げた。


「何がですか? ああ、今日の夕ご飯のことですね。ディアーネの料理はおいしいですからねぇ~」

「ちがう。今の俺の口調でどうして俺が夕飯のメニューを気にしてるという流れになるんだよ」

「それは私も気になってるからです!! はっはっはっ!!」

「……お前。あんまり品性というのを自分を基準に考えない方がいいと思うぞ」

「まったく素直じゃないですね~。じゃあシルヴィスが気になってるって何なんですか?」


 ヴェルティアの問いかけにシルヴィスは考え込む。


 何かが今までの流れで何かが引っかかってるのにそれが出てこなくてもどかしい状態になっていた。


「う~ん。どうも出てこない」

「仕方ないですね~ここは私が思い出す手助けをしてあげますね」

「お前……そんな高尚なことが出来るのか?」

「シルヴィスは本当に失礼ですねぇ~任せてください!!」


 ヴェルティアはそう言うと自分の胸をポンと叩いた。


「シルヴィスが気になってるのは私についてですか?」

「……いや」

「じゃあ、ディアーネ?」

「いや……違う」

「ユリ?」

「いや……」

「シオルさんについてですか?」

「違うな……」

さざなみについてですか?」

「……そうだ」

「さっきの隊長さんとのやりとりの中ですか?」

「そうだ……」


 ヴェルティアが矢継ぎ早にきっかけを投げかけてくる。ヴェルティアの投げかけてくるきっかけがシルヴィスに解答を与えた。


「そうか……さっきの隊長は、エミュルグという魔物はミスリルクラスであっても危ないと言っていた」

「あ~確かに言ってましたね」

「キラトさん達はエミュルグの恐ろしさを知らないとは思えない……」

「そりゃそうでしょうね。冒険者という稼業なんですから情報は命だと思いますよ。だからミスリルにまでなれたんでしょうね」

「違和感はそれだ」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアは首を傾げた。


「あの隊長はエミュルグはミスリルクラスの冒険者であってもほとんどやられると言っていた」

「そうですね」

「そして俺はエミュルグの事をキラトさん達に伝えた」

「うん。私も聞きました」

「なぜその時に俺たちに一度戻ることを提案しなかった?」

「う~ん、単純にキラトさん達にエミュルグという魔物をやっかいと思ってないということじゃないですかね」

「俺達という足手まといがいるのに?」

「足手まといですかね? 私のようなお淑やかな皇女はともかく。シルヴィスはめちゃくちゃ強いし、ディアーネもユリもめちゃくちゃ強いですよ」

「お前……まぁ話が進まないからここでは突っ込まないが、俺たちが強いと言うことをキラトさん達はどうして知ってる?」

「そりゃあ、私達の立ち居振る舞いから察したんでしょうねぇ~。やはり隠してても隠しきれない実力が……あ」


 ヴェルティアが何かに気づいたように話を切った。


「気づいたか? 俺達は実力を隠していた。それこそ、一流相手でも気づかれないくらいにはな」

「するとキラトさん達は超一流と言うことですね!! すごいですね!!」

「ああ、少なくともキラトさん達の実力はミスリルという枠組みから大きくはみ出してるな」

「なるほど、その可能性はありますね。しかしそんな方々ならどうして“我々にまかせておいてください”と言ってくれなかったんですかね?」

「まさにそれだ。なぜキラトさん達はそれを伝えないんだ……何か目的があるのか?」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアは考え込む。ディアーネはその様子を黙って見ている。


「うん。わかりませんね。聞いた方が早くないですか?」

「キラトさん達がお前のような単細胞だと話が早いんだがな」

「そんなに私が素直でまっすぐな性格だと褒められると照れてしまいますねぇ~」

「単細胞という悪口を素直でまっすぐという褒め言葉に返還できるお前の解釈は本当にすごいな」

「やっと私の優秀さを正当に評価したのですね!!はっはっはっ!!」

「……それでな。キラトさん達が俺たちに危害を加えようとしているとは思ってない。だが、キラトさん達に何かしらの秘密があるのは間違いないな」

「あ~確かにそれはありそうですね。私も危害を加えられるとは思ってませんが、気になりますね」

「お前の場合はちょっと意味合いが違うかもしれんが、何かあるというのは想定しておいた方が良さそうだな」


 ガタン


 シルヴィスが言い終わるのと同時に馬車が止まった。


「魔物のようですよ」


 ユリが御者台の後ろにある窓を開けてシルヴィス達に状況を知らせてきた。


「魔物か」

さざなみのみなさんが迎撃に出ましたけど、私らはどうします?」

「決まってるではありませんか!! シルヴィス!! ディアーネ!! ユリ!! 行きますよ!!」


 ヴェルティアがユリの報告に即座に扉を開け放つと外に飛び出した。


「あ、バカ!!」

「ぎゃああああああああああ!!」


 シルヴィスとディアーネが続けて飛び出した時に、絶叫が響いた。


 絶叫のした方向は前方ではなく馬車の後ろであった。軀の一人が首があり得ない方向へと曲がり、脇腹を抉られている姿がシルヴィス達の視界に入る。


 そこには全身黒い毛に覆われた身長3メートルほどのニタニタと嗤う狒々ひひがいた。そして、さざなみが相対するのも同種の狒々であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る