第24話 八つ足戦⑥
「とぼけるな!! 貴様が魔王よりもらった力だ」
サリューズの怒りの籠もった言葉にシルヴィスは首を傾げた。その反応が気に障ったのかサリューズの怒りはさらに上がった。
「
「ウソをつくな!!」
「そもそも
シルヴィスはまったく乱れることの無い調子で、本当に不思議そうに尋ねた。実はこれは演技では無く本心であった。
「だからとぼけるなと言っている!! お前に
「はぁ……話が通じんな」
シルヴィスはため息をつき、それが消える前に動く。まるで瞬間移動したかのような恐るべきスピードに
シルヴィスはサリューズの顔面を鷲づかみにするとそのまま持ち上げたのだ。
あまりに現実離れした光景に
「さて、もう一度聞くぞ。俺の言うことを一言一句聞き漏らす事無いように」
「が、は、離せ」
「あ?」
「ぐぁぁ……」
サリューズが苦しみだしたのは、シルヴィスが手に力を込めたためだ。サリューズの発した苦痛の声に、我に返った
「動くな。この男の顔面を握りつぶすぞ」
シルヴィスの言葉に
「さて、最後の機会をやろう。
「ディ……アンリ……ア様……だ」
「ディアンリア?
シルヴィスはサリューズを掴んでいた手を離すとサリューズは地面に落ちる。
「ククク、ハッハッハ、ハァーハッハッハッハ! 結局は神も俺達と何も変わらんというわけだ!!」
シルヴィスの三段嗤いにサリューズ達は動くことができなかった。
「な、何が……おかしい?」
サリューズの問いかけにシルヴィスは哀れむような視線を向けた。
「いやいや、お前らが本当に哀れでな」
「何だと……?」
「お前達が信じる高潔なディアンリア様とやらも俺たち人間と全く変わらないなと思ってな。そんな奴をありがたく崇めているお前らが哀れでならないよ」
「ふ、ふざけるな!!」
「ふざけてなどないさ。ディアンリアはウソをついている」
「な、ディアンリア様がウソなどつくはずは無い!!」
「神はウソなどつけないのか? それが本当ならディアンリアは生物として明らかに欠陥品だ」
「な……」
シルヴィスの不敬きわまる言葉にサリューズはパクパクと口を動かすがそれが音声化することはなかった。それだけシルヴィスの言葉に対する怒りが大きかったのだろう。シルヴィスはそれに構わず話を続けた。
「俺はウソをつくのは人間として当たり前の事だと思っている。知能を持つものとして当然に備わっているべきものだからだ。ところがディアンリアにはそれが無いとは、ひょっとしてディアンリアは人間などより余程下等な生物なのかもな」
「き、きさ……」
「まぁ、そんなことはないがな。ディアンリアはウソをつけるから安心しろよ」
シルヴィスの嫌味たっぷりな言葉にサリューズ達は反論できない。
「まず、そもそも
「ふざ……」
「まぁ、聞けよ。俺は召喚されてこの世界に来た。それは事実だ。ディアンリアはよほどプライドが傷ついたのだな」
「何?」
「よほど俺に
「拒否……だと?」
「ああ、
シルヴィスの自信たっぷりな物言いにサリューズはまたも反論できない。
「さっきも言ったがウソをつくこと自体は生物として当然のことだ。問題はどのような意図でそのウソがつかれたかが問題だ。俺の推測ではディアンリアは自分のプライドを守るために
「だ、だまれ!! 貴様の言うことが真実である証拠がどこにある!!」
「証拠か、そんなものはない」
「なら!!」
「だが同時にディアンリアがウソを言ってないという証拠もないだろう? まさかディアンリアがウソを言ってないという根拠が神だからというものではないよな?」
「……」
「なんだ、本当に根拠が神だからというものなのか? お前らの奴隷根性は惨めすぎるだろ」
「な、ど、奴隷だと」
「ああ、何の疑問も持たず神に盲従する。これを奴隷と言わずに……いや、どんな奴隷でも隙あれば主人の寝首を掻こうと思った事は一度くらいある。それすら思わないお前らは奴隷以下だ」
「きさ」
激高したサリューズがシルヴィスに敵意を向けた瞬間にシルヴィスの高速の前蹴りがサリューズの胸に直撃する。胸骨の砕けたサリューズが血を吐くとその場に蹲った。
「エルガルド帝国の上層部にとっても
「ふ、ふざけるな!! 皇帝陛下を奴隷頭だと!! 不敬にも程がある!! ぐっ……」
「おいおい、胸骨が砕けてるのにそんな大声出すなよ」
「うるさい」
「この世界では
シルヴィスの矢継ぎ早の詰問にサリューズは答えることは出来ない。もちろん一つ一つ吟味すれば返答も可能なのだが、矢継ぎ早に詰問することで、それは中々困難であった。
「どうした? さっさと答えろよ。論破してやるからな」
「……」
「まぁ認めたくないというお前の気持ちもわからんでもない。それに常識過ぎて深く考えたことなどないだろう。これを機会に少しは考えてみるんだな。さて、お前達は皆殺しにするつもりだったのだが気が変わった」
「何?」
「今からラフィーヌ達の元に送り返すことにしたというわけだ」
「な、何故……そんなことを……?」
「お前達はギエルと
「どういうこと……だ?」
「俺はギエルを遠隔操作してラフィーヌを襲わせた。当然そのことは認識してるよな?」
シルヴィスの言葉の意図するところを察したサリューズは顔を青くした。サリューズの表情の変化にシルヴィスはニヤリと嗤う。その嗤いがサリューズ達に限りなく憎らしい。
「その顔は理解したようだな。実際にギエルを操った術はお前達には施さない。だがラフィーヌは信じないだろうな。お前達は一人の
「あ……あ……」
「別に何もして無くても犯罪者の仲間入りだ。頑張って無実を証明してみてくれ」
「き、きさ……」
サリューズは顔を青くしつつも怒りの籠もった視線をシルヴィスに突き刺してきた。ここでシルヴィスに殺されれば『魔王の手下に挑んだが返り討ちにあってしまった。異世界の救世主達に後を託して散った悲運の殉職者』として美談にされ、まだサリューズ達の名誉は保たれるだろう。だがこのまま送り返されればシルヴィスに命惜しさにエルガルド帝国を裏切った唾棄すべき背信者達という事になる。それはサリューズ達にとって耐えられるものではない。
「あぁ、そうそう。エルガルド帝国の皇帝に会えたら言っておけ、許して欲しければラフィーヌを処刑しろ。それでエルガルド帝国は見逃してやるとな」
「ふざける……」
「それじゃあな」
シルヴィスはサリューズの言葉を遮ると魔法陣を展開した。
「な、なんだ……これは?」
サリューズは自分の見た光景が信じられなかった。シルヴィスが展開した魔法陣は凄まじい広範囲にわたっており、サリューズ達の常識を大きく逸脱していたからだ。
サリューズ達はこの時、自分達を一蹴したシルヴィスの力など余技でしかなかった事を完全に理解した。
「周辺の
無駄に良い
「ん?」
その時、頭上から数条の光が降り注いだ。
「あ……」
死を実感した諦めの言葉が誰かの口から漏れる。
ガシィィィィン!!
しかし、降り注いだ数条の光は地上から十メートルほどの高さで壁に当たった水のように飛散していく。
「新手というわけか。ディアンリアが恥を隠すために天使を送り込んできたか。この前の奴より遙かに強いな」
「へ? え?」
「ああ、新しいお客さんが来たからお前達とはこれまでだ。お前達を送り込んだのは俺の戦い方を観察するためだったのかもな」
「な……」
「どうやらお前らディアンリアにとって
「ま、待て!!」
シルヴィスはそう言うと転移陣を起動させるとサリューズ達の姿が消え始め、三秒後にはサリューズ達の姿は消えている。
シルヴィスは上空に眼を向けると、そこには十体の天使達が向かってくるのが見えた。
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