第13話 天使襲来①

 ギエルを使ってラフィーヌに喧嘩を売った時、シルヴィスは既に帝都を出ていた。


 本来であれば、帝都で情報を集めるべきなのだが、ラフィーヌに喧嘩を売ったと言うことはすぐに追っ手がかかるという事を意味するので、帝都を出たのだ。


 シルヴィスは街道を歩く。


 この街道がどこに向かっているかなど当然ながらシルヴィスは知らない。しかし、シルヴィスにとってはそのような事は些細なことだ。現時点で、シルヴィスに当てなどないし、そもそも必要なかったので、完全に物見遊山の気分なのだ。


 シルヴィスは縮地という術を使い高速で移動することで三日後には帝都から遠く離れた地域に到達していた。


 早馬であっても一週間はかかる距離であり、ここまで離れれば捜索の範囲外である事は明らかである。


「さてと、きちんとした食事をとりたいな」


 シルヴィスはそう呟く。


 この三日間、捜索網を置き去りにすることばかり考えていたので、食事は非常に質素だったのだ。


 シルヴィスは『神の小部屋グルメル』という術を使い旅に必要な道具を異空間に入れていたため、旅自体に支障は無いが、食事は保存食ばかりだったので、久しぶりに保存食ではない食事を摂りたくなったのだ。


 しかし、問題があった。


 金がないのである。


 もちろん、シルヴィスが完全な無一文というわけではない。元の世界の金貨は持ってはいるのだが、エルガルド帝国の通貨ではないために使用すれば、そこから足が着く危険性を考えると仕様は控えた方が良いと判断したのだ。


「手頃な盗賊とかいないかな」


 シルヴィスは周囲を見渡しながらとんでもない発言をした。シルヴィスとすれば普通に働こうにも、身分を証明するものがないために夜盗にしても足下を見られる可能性も高いし、捜査の手が伸びてくる可能性も高い。別にエルガルド帝国の官憲ごとき恐れはしないが面倒というものだ。


 シルヴィスは襲ってくる者ならば老若男女、身分の貴賤関係なしに暴力により排除する事に何ら躊躇いはない。しかし、無辜の者から暴力により金を奪うなどシルヴィスの矜持が許さない。

 だが、盗賊のような犯罪者が相手なら遠慮無く蹂躙するというものだ。ある意味、たとえ盗賊が飽いて出会っても自分から襲えば犯罪行為なのだが、その辺の法理論には引っ込んでもらう。


「ま、いない者は仕方ないな」


 シルヴィスは周囲を警戒しながら街道を歩いて行く。


「ん? 誰かが俺を見てるな」


 シルヴィスは何者かの気配を感じると走り出した。


 悪意ある視線。


 シルヴィスはそう判断すると戦闘モードへの比重を増していく。シルヴィスは戦闘の意識を切ることはない。だが、常に100%の警戒をしていては、精神の消耗が激しいために割合を下げて生活をしているのだ。

 スイッチでオンオフをするというのは、0か100かであるが、シルヴィスのやり方はツマミで0~100の間で自由に調整しているようなものなのだ。


 シルヴィスは森の中に駆け込むが速度は一切落ちない。地面を走るのではなく木の幹を蹴り、まるで空間を駆け抜けているようだ。


「そろそろかな……」


 シルヴィスは速度を緩めて立ち止まると周囲をキョロキョロとして、ホッと息を吐き出した。


「もう逃げないのか?」


 そこに頭上から声がかかった。


 ビクリと身を震わせてシルヴィスが視線を上に向けると白い金属製の鎧を身につけた金髪碧眼の美しい男が浮かんでいる。男の背には翼が生えている。


「天使!?」


 シルヴィスの驚きの声に天使はニヤリと嫌らしく嗤う。


「イセル様、人間ごときにイセル様が出るまでもございますまい」


 少し遅れて六体の天使達が現れる。


「一体、何の事です?」


 シルヴィスの困惑の声に天使達は口元を歪めて嗤う。イセル達天使達に共通しているのはシルヴィスに対する差別意識だ。

 いや、シルヴィスに対してというだけでなく他種族に対してそうなのだろうと苦心できるほど天使達の差別意識を感じた。


「お前、偉大なるディアンリア様からの祝福ギフトを受けなかったというではないか」

「ディアンリア?」

「人間ごときがあの御方の名を呼ぶな穢らわしい」

「あ?」


 天使の言葉にシルヴィスはつい・・ドスのきいた声を出した。シルヴィスの声に天使達は不快気な表情を浮かべた。


「アホは気持ちよくおだてれば色々と話すと思ったが、気が変わった」

「何?」

「お前ら下っ端の持っている情報なんてどうせ大したものじゃないしな」

「下っ端だと!?」

「いやだって、お前らから滲み出る下っ端の雰囲気はすごいぞ。大物という感じがまったくしない。能力が無いから上司の機嫌をとるしかない……哀れだな~心から同情するよ」


 シルヴィスの煽りに天使達は一気に表情が変わった。


 一体の天使が抜剣しシルヴィスに襲いかかった。


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