第07話 無能判定④

「術式が壊れたのかも知れませんね」


 ラフィーヌは少し考えた後にキッパリとした口調で言った。


「確かに……」

「お三方の力が強すぎたために術式が壊れた……」

「その可能性はある……か」


 ラフィーヌの言葉に周囲の者達が戸惑いの気配を発しつつ、少しずつ賛同していく。


「もしくはシルヴィス様の体調が万全でないことも影響しているのかもしれません」

「確かに、シルヴィス様はケガをされている」

 次いで発せられたラフィーヌの言葉に周囲は納得の気配が一気に強くなる。


(ほう、この皇女……中々やるな)


 シルヴィスはラフィーヌの言葉に感心していた。話から召喚された者は例外なく祝福ギフトが与えられている。

 もし、祝福ギフトが与えられないという者が召喚されたというのは、この儀式を穢す事になる可能性があるのだ。

 また、言葉の使い方を間違えれば神への批判となりラフィーヌの立場が危うくなる。それを避けるために、魔法陣の故障の可能性を咄嗟に言い、間髪入れずにシルヴィスのケガを理由にすることで、皇族に悪感情が向くことをあっさりと回避したのだ。


「そっか、あんたケガしてるもんな」


 レンヤが労るような口調で言う。ここでこういう発言が出るのは彼が基本善良な人格をしているか証拠であるといえる。


「ええ、シルヴィス様、治癒術士に処置をさせます。申し訳ございません、救世主の登場に我々も浮き足だっておりました」


 ラフィーヌがそう言って頭を下げる。


「いえ、こちらこそ申し訳ございません」


 シルヴィスも頭を下げた。


「ギエル、ご案内を」

「承知いたしました」


 ラフィーヌの言葉に一人の騎士が進み出た。茶色の髪に鍛えられた肉体を持つ二十代半ばの騎士である。


「シルヴィス様、こちらでございます」

「あ、はい。ご迷惑をかけます」

「いえ、ご迷惑などと言わないでください」


 ギエルはニッコリとってシルヴィスを連れて広間を出て行く。それに付き従うように二人の騎士がついていった。


「皆様型、色々あって本日はお疲れでしょう。部屋を用意しておりますので、本日はお休みください。もしお食事をお望みでしたらすぐにご用意いたしますので、その者達に申しつけください」


 ラフィーヌの言葉に、残された三人の元に神官達が進み出て一礼する。三人はそのまま神官達に案内され広間を出て行った。


「あの者は処分・・ですか?」


 三人が出て行った後に一人の壮年の神官がラフィーヌに話しかける。


「ええ、祝福ギフトを持たない無能者などを飼う・・必要などないわ」

「確かに」

「ふふ、それにしても、レンヤが虹色とはね」

「はい、得がたい存在でございます」

「疑うことも知らなさそうね。良い手駒になりそうだわ」

「御意」

「他の二人も良い手駒にしないとね」


 ラフィーヌに先ほどまであった慈愛の表情などすっかり消え失せている。冷酷な本性がむき出しになっていた。



 *  *  *  *  *


(しかし、これはまた……)


 シルヴィスはギエルについていきながら苦笑をかみ殺していた。前を歩くギエルはそれほどでもないが、後ろの二人の意図が見え透いており呆れているのだ。


(しかし、あの皇女……どう始末をつけるつもりやら。元々、召喚したのは三人と発表すればそれで良いとして、あの三人にはどう説明するのかね? やっぱり逃げ出したとかするのかもな。それとも……)


「おい」

「は、はい」


 シルヴィスが施行をしているところにギエルの方から声をかけられた。


「この辺りで良いだろう」


 ギエルが立ち止まると同時に高速で振り向き斬撃を放った。


 シュパァァ!!


 ギエルの剣はシルヴィスの喉を切り裂いた。


「が……」


 シルヴィスは切り裂かれた喉から舞う鮮血を少しでも押さえようと傷口を手で押さえながら蹲った。


 蹲ったシルヴィスに残りの騎士二人が剣を抜き放つとシルヴィスの背に突き立てた。


「他愛もない。所詮は祝福ギフトももらえぬ廃棄物アウゼルか」


 ギエルは侮蔑の感情をふんだんに声に込めて吐き捨てた。


「なぁ、アウゼルって何の事だ?」


 そこに何者かの声がかけられた。


「な……」


 ギエル達が声の方向を見るとシルヴィスが何食わぬ顔で立っていた。


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