第7話 使用人の決意

「ふう……」

 こころは部屋に戻り大きなベッドの上で一息をつく。

 「にしてもなんかメティス様って下界に住んでるお母さん見たいな匂いがしたなー。関係性あるんかなー?にしてもつかれたぁ……。楽しかったけど」

 こころは下界でのことを頭の中で思いだす。

 「下界ではてっきり人間の形に成長するものだと思っていたけど、いざ魂だけとなると天界の記憶が一瞬にして戻ったのにはびっくりしたなー」

 こころ達犬の魂は下界で生きている間は天界での記憶は閉じられてしまう為、魂が抜けた時でないと気づけないようになっている。

 「そういや、じいちゃんばあちゃん先に死んじゃって天界にいっちゃったけど人間の天界て近いのか?案外ここではないここだったりして!」

 「ハーっクション!」

 「こっち向きながら汚いですねー。」

 「今こころが近くにいた様な……」

 こころは半笑いで現実的になる。

 「っなわけないか……よし!明日また使用人さんが朝迎えにきてくれるし、また寝過ごさないように寝るかー!でもやっぱピンクハウスもいいけどお母さんの側で寝るのが一番落ち着いたなー」

 「……………………」

 「ココロ様ー……ココロ様ー!コーコーローさーまー!!」

 こころは大きなあくびをして目をこする。

 「……ん?朝ー?」

 「ココロ様ってばー!!」

 「うるさいなー、、、。ぇあー!!またかー!!下界の時の癖が抜けない……っいたー!」

 またピンクハウスから出ようとして顔面から転倒した。

 「今行きまー」ドン!

 また転ける。

 「おはよー……」

 「おはようございます。ココロ様。次の転生の為、皆様は授業に向かわれましたよ。っあ!後ココロ様は今日転生ですからメティス様がお呼びしていますのでご案内しますね」

 「よろしくー」

 こころは目を擦りながら眠そうにしていた。

 髪がボサボサだったため使用人におめかしされ、とりあえずメティス様の部屋に向かう。

 「コーコーロー!!!!」

 メティス様がこころを抱きしめ頬と自分の頬をこりつける。

 「今日転生なんて寂しくなりますねー。ずっと私の側にいてもかまいませんのよー!」

 「メティス様くるちい……」

 こころは肩の力を抜いたようにやられるがままに立っている。

 「転生の時間までラウク達と授業受けて行ってみてはどうですか?」

「興味ない……です」

「そんな事言わずね!ね!?」

「ん……まぁ暇だしいくかぁ……」

「決まりね!そしたら特別に私が先生をするわね!」

 メティス様が嬉しそうに言うと、こころは内心「長くなりそーだなー」と感じていた。

 当時下界へ転生する際にメティス様が講師担当もしていた為、その時の記憶が何となくこころの頭を過る。

「授業の時間まで散歩してくるわー」

 こころはそう言い使用人と歩き始めた。

「あー、授業は10時からよ!遅刻しないでねー

 あとオヤツは持ってきちゃダメよー」

 メティス様はこころに手を振りながらそう言うと。

「はいはい大丈夫でーす!メティス様も遅刻しないようにー」

 と、こころも背中越しに言葉を返した。

「使用人さんて名前なんて言うの?」

「っあ、わ、私はルナシエと申します。ルナシエ・メアンルーティです……」


 「じゃ、ルナちゃんだね!」


 「っえ!?名前で呼んでもらえるなどめっそうもございません……」

 「ルナちゃん!」

 「恥ずかしいです……」

 「ルッナちゃーん!」

 「ココロ様……少しからかっていますよね?」

 「ルナルナルナ!アハハハハ!」

 「いじめないでください……」

  使用人のルナシエは嬉しそうではあるが頬を赤くし恥ずかしんでいた。

 「ココロ様がいた下界とはどんなところだったのか聞いても宜しいですか?」

 こころはそう聞かれにっこりした顔で話し出した。

 「そうだなー。僕が居たところは食べ物すごく美味しくて、それが生きるエネルギーになるだ!それに皆んなすごく可愛がってくれた!だから時に悪いことをわざとするんだ。暑い日は水を前足でバシャバシャして周りを水浸しにしたり、当然叱られるんだけど、そこで可愛子ぶってけんくんやさきちゃんそれにお母さんを怒らせたりして面白がらせるの!アハハハハ!」

 「そうなのですね。一度下界に行ってみたいものです。っあ!それにけん様さき様とは?」

  「けんくんさきちゃんは下界のお母さんの本当の子供達!僕の本当のお母さんは僕が産まれてすぐ死んじゃって、下界では魂が宿った個体を拾ってくれた人が親として認識される世界なんだ。でもそれは後で知った!産まれたすぐの記憶はなくて、気づいた時には人間のお母さんが僕のお母さんだったからさ!だから僕もいつか人間の形へと成長して生活をする事になるんだろうな……と思って過ごしていたんだけどね。ルナちゃんは下界に転生したことないの?」

 「っあ、私は、はい……。天界で産まれて、私がまだ幼かったころ、父も母も魔王に消されてしまい、それに人間界の天国はどこか苦痛で、行く当てもなく途方にくれていましたら、メティス様が人間界の天界に向かわれている際に私を拾ってくださったのです。

 なので動物天界に位置する剣士や魔術師や私達の様な使用人の殆どは訳ありと言いますか、メティス様に拾われ動物天界で幼い頃から育った者たちばかりです。」

 「へー、メティス様がねー、ルナちゃん苦労してるんだね」

 「いえ!私なんて……」

 「ルナちゃんはもっと自分の意思をもっていいと思うよ!と言うか持つべきだよ!僕なんてメティス様にもワガママ押し付けちゃうし!」

 「私がですか?そんな恐れ多いです!今でも十分幸せを感じさせてもらっておりますから大丈夫です。ココロ様はお強いですね」

 「強いねぇ……。食べ物を前にされると弱いかなー。っまココロだし!?アハハハ!」

 「ふふ、ココロ様は下界でのお名前を気に入っていらっしゃるのですね。皆天界での名前で呼び合っている中、ココロ様は下界の名前でいらしてたもので。」

 「あーそう言えば。なんかココロじゃないとしっくりこないし、らしいでしょ?ココロって!大好きな名前。でも下界ではみんな変な呼び方ばかりしてきてさ、こっちゃんだの、うっちゅるだの、と言うか名前の原型がないような呼び方ばかり!アハハハハ!それでも心は通じ合っていて、どんな呼び方だろうココロには変わりはないからね!」

 こころは頭の後ろに手を組みながら楽しそうに喋っていた。

 「そうだったのですね。こころ……。うん!これ以上にないココロ様にはとてもしっくりくるお名前ですね!」

 ルナシエはこころにとても興味が出てきていた。

 最初は使用人としてただ働いていたが、今やこころと転生先までついて行きたいくらいにも思っている。

 「本当ですよ!しっくりし過ぎていて美しいです!」

 「おー!なんて嬉しいことを!なんだかんだもう授業が始まる時間かぁ……」

 「ココロ様!あ、あの、、、私もいつかインキュバシタンボルグに行ってココロ様に使いいつまでもご一緒に旅をしたいです!」

 そうルナシエは言うと、こころはルナシエの前に背中越しに立ち止まり、両手を腰に当て言う。

 「っふ、来い!そして共に旅をしよう!人々の暮らしを邪魔する魔王を倒し共に生きよう!それにルナちゃんにもお母さん達に会わせたいしな!」

 こころは言い終わりがけに斜め後ろに首だけを振りルナシエと目を合わす。

 ルナシエは涙を浮かべ凄く可愛い笑顔をみせこころに言った。

 「私なんかが希望を持ってもいいので……」

 ルナシエの言いかけにこころは前を向き胸を張って言う。

 「いいに決まっているだろ!自分をもて!何のために存在している!?誰かの指図なんて嫌なら逃げてしまえばいいさ!自分を主人公として生きる道は必ずある!意味なんて自分で決めてしまえばいいんだ!それが自分と言う与えられた意識なんだ!」

 「ココロ様……わ、私頑張ります!今はまだ転生ができるほどの耐性はできていませんが、必ず!必ず会いに行きます!そして私のためにも!」


 「そうだルナちゃん!いつでもまってるぞ!!」

  

 メティス様は二人の会話を陰に隠れるようにして聞いていた。

 「ルナシエ、いいお友達ができてよかったです。ココロの担当に付けて正解でした。ルナシエも転生するとなると、、、いろいろ忙しくなりそうね」

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