第92話

好きになったって、届かない想いかもしれない。



だけど、恋羽は「心配しなくても大丈夫だよ」と、言って、あたしの頬をつついた。



「恋羽がそういうなら……そうなのかな?」



「そうよ? あたしの言葉を信じて?」



そう言ってもらえると、なんだか少し勇気がでてくる。



あたしはようやく笑顔をうかべることができた。



「落ち着いたなら、もう少し寝よう?」



「そうだね。おやすみ恋羽」



「おやすみ、千沙」



そして、あたしたちは再び目を閉じた。


☆☆☆



朝目が覚めると、桃花ちゃんと瞳ちゃんの姿はなく、あたしは横で寝息を立てている恋羽を揺らして起こした。



「恋羽、起きて。もうみんな朝食作ってるみたい」



「んん~。もうそんな時間?」



恋羽は寝むそうに目をこすり、枕元の時計を見た。



時刻は7時半を指している。



学校に遅刻するほどの時間じゃないけれど、のんびりしている暇もない。



「ごめんね、恋羽。あたしが夜中に起きるばっかりするから」



実は、あたしがうなされて起きるたびに、恋羽もすぐに目を覚ましていたのだ。



そして、あたしを安心させてくれる。



「千沙はそんなの気にしなくていいよ。早く着替えて、ご飯の準備手伝おう?」



「うん」



そう言い、あたしたちは慌ててしたくをしたのだった。


☆☆☆


遅れてキッチンへ行くと、もうすでに魚が焼き上がっていて、おいしそうなおみそ汁の匂いがしていた。



「手伝えなくて、ごめんなさい!」



あたしがそう言って2人頭を下げると、2人とも笑って許してくれた。



朝は強の家族とあたしたち、全員で食卓を囲むようになっている。



大人数のため全員はダイニングに座れないから、リビングでテレビをつけて食べる時もあった。



「なんか、楽しいよね」



ご飯を食べている途中、恋羽がそう言ってきた。



「え?」



「女子会とか、お泊まり会って感じがしない?」



「あ、確かに。するよね」



最初、ここに来た時もあたしはそう思った。



悪くないなって。



桃花ちゃんや瞳ちゃんとも徐々に打ち解けてきて、今では一緒にお腹を抱えて笑ったりできる。



強も、最初は女たらしで嫌なやつだと思っていたけれど、色々と苦労を乗り越えてきているのだと、桃花ちゃんから聞いた。



強への誤解も少しとけはじめたし、ここへきて、本当によかったと思う。



朝ご飯を食べ終えるとあたしと恋羽の2人で片づけをして、それから強のお母さんの大きな車で、みんな学校やバイト先へ送ってもらうのだ。



1人での行動は、まだできない。



車が校門の前で止まり、あたしと恋羽は車を降りた。



「「行ってきます」」



「終わったら迎えに来るから、いい子にして待っているのよ?」



強のお母さんがそう言って手を振った。

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