第32話

~千沙side~


アツシに連れられて外へ出るとまだ雨は降っていた。



「これじゃ帰れないよ」



あたしは空を見上げてそう言った。



「タクシー呼ぶから大丈夫」



「タクシーなんて、アツシ贅沢じゃん」



恋羽がそう言い、アツシの肩を叩く。



すると、アツシは嬉しそうに笑い、頬をそめた。



なんか、いいなぁ……。



付き合ってはいないみたいだけれど、絶対に両想いじゃん。



早くどちらからでも告白しちゃえばいいのに。



「仲良しだね」



2人を見ていると後ろからそう声がして、あたしは振り向いた。



さっき、一緒に会場から出てきた女の子だ。



「あ、はじめまして」



あたしはそう言い、ぺこっと頭をさげる。



「はじめまして。強の友達のリカです」



「友達……?」



普通の女友達をこんな集会に呼ぶなんて思えなくて、あたしは軽く首をかしげる。



「体の関係は、あるけどね?」



首をかしげるあたしへ向けて、リカさんはそう付け足していった。



その言葉を聞いた瞬間、思わず頬が熱くなる。



体の関係のある友達って……つまり、そういうことだよね?



「彼女には、ならないんですか?」



「強は、特定の彼女は作らないの。今日はたまたま、あたしがここに呼ばれただけ」



「……そうなんですか」



恋愛経験も、誰かを好きになったこともないあたしは、何と返事をしていいかわからず、視線を地面へうつした。



「今日も、集会のあと強の家に行く予定だったの。でも、ここで帰る方がかしこいかもね」



そう言って、リカさんは軽く微笑んだ。



あたしは、その笑顔の中に寂しさが隠れているように見えて、言葉が出てこなかった。



「きっと、強は次の集会には別の子を連れてきているわ。そういう、奔放な人なの」



「リカさん……」



「でも、いいのよ。それを知っていて強を好きになったんだから」



リカさんは、自分自身に理解させるようにそう言い、もう1度笑顔をつくった。



その時、少し離れた場所でタクシーを待っていたアツシと千沙がふりかえった。

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