第34話 ~栞side~ 音

 3歳になってから始めたピアノで、わたしには厄介な能力が身についてしまった。

 それはいわゆる絶対音感なのだが、どうやら他の人の絶対音感とは違うらしい。

 わたしの場合は音が24種類の長調・短調にわかれて聞こえてきてしまう。

 わかりやすくいうとお父さんの声はヘ長調、お母さんの声は変ロ長調といった感じ。

 ……やっぱりわかりにくいよね。


 よく勘違いされるんだけど、絶対音感が身についているからといってピアノが上手いわけではない。

 実際わたしは上手くない。

 楽譜は読めるし、耳コピもできる。

 でも、だからといって抒情的に指が動いてくれるわけではないからだ。


「栞?」

 二階の部屋にいるわたしを、一階から呼ぶママの声が聞こえた。

 その声は、(本当にわずかだけど)たゆたいを感じさせる。

 本当に、厄介な能力だ……。

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