第5話 奇跡の歯車

「おかえり楓ちゃん」

「ただいま〜おばあちゃん!」


 私はいつも快く迎えてくれるおばあちゃんにギュッと抱きついた。

 今のこの家には私とおばあちゃん、そして結由さんとそのお母さんの4人で暮らしている。

 おじいちゃんはもう結構な歳なんだけど、なんか有名な建築家らしくて世界中を飛び回ってるバリバリの現役なので家に居ることが極端に少なくて、私も思い出と言ったらおばあちゃんとの思い出が大半だった。


「おや、そちらの美人さんは?」

「あっ、私楓先輩の後輩の神楽坂芽亜って言います!この度は楓先輩にお夕飯にお呼ばれして頂いて…」


 緊張した芽亜はいつもよりかしこまって慌てて頭を下げている。意外と見た目によらずこういう所しっかりしてるのよねーこの子は。


「礼儀正しい子だねぇ、楓ちゃんのお友達なら大歓迎だよ。自分家のようにゆっくりしておゆき」

「あ、ありがとうございますっ!」

「じゃあ夕飯まで部屋にいるから」

「おばあちゃん腕によりをかけて作っちゃうから」

「ふふっ、張り切り過ぎてまた腰いわさないでね?おばあちゃん」


 私は芽亜を自室に連れていった。私の部屋は八畳くらいでこの家の部屋にしては小さい方なのだが1人で使うと少しばかり広い。障子を開けると廊下を挟んで中庭が広がっていて、私は季節によって変化する中庭を眺めるのが好きだった。


「ここがしぇんぱいのおへや…///」

「どうしたの?すっごい顔赤いよ?」

「っ!?」


 芽亜の顔が赤かったので覗き込んだら弾かれたように距離を取られてしまった。


「む、無自覚かもしれないですけど先輩は私を恥ずかしさで殺すつもりですか!」

「よ、よく分からないけどごめんね?」


 私は荷物を下ろして部屋着にさっと着替えると部屋を見渡した。……うん。私の部屋って時間潰せるもの無いわね。あるとしたらゲームくらいかしら。


「そういや芽亜ってどこに住んでるの?」

「えっとですね、ここからもう少し北に上がったところにある吉野荘っていう古いアパートですよ」

「吉野荘に住んでるの!?」


 吉野荘とはここから近くの築50年近いアパートで最近は取り壊しの話も上がっていたはずだ。


「もう少しいい所あったんじゃないの?」

「実は恥ずかしい話、安い所で探してたら吉野荘になっちゃいまして…。気づいた時には契約しちゃってたんで仕方なくあそこに住んでるんですよね〜」

「芽亜…」


 私は芽亜を抱き寄せて頭をヨシヨシと撫でる。この子なんかどっか抜けてるんだよね…。凄く心配だよ。


「せ、せんぱい!?にゃにするんですか!」

「もう毎日でもご飯食べに来ていいからね?いっそ泊まって行っても良いんだから」

「まま、毎日!?そ、それってもう同棲じゃ…」

「だから前も言ったけど、私達女の子同士じゃん」

「……先輩の認識を根本からねじ曲げる必要がありますね」


 私の手を跳ね除けようとせず、むしろ猫のように擦り付けて来るのでメアの太陽のようなポカポカとした香りが鼻腔をくすぐってくる。


「私が言うのもなんですけど、なんで私にそんなに良くしてくれるんですか?」


 なんでそんな事を聞いてくるのかな?あれかな、ホームシックとか?というかそんなの


「芽亜は優しい子だし私の初めての本音で話せる友達だもの」

「本音…ですか?」

「何度も言ってるけど私本当はオタクだし、芽亜はアニメにも理解あるでしょ?」

「え、ええ…好きですし…」

「そんな趣味打ち解けたの芽亜だけだもん。芽亜とはまだ出会って数週間しか経ってないけど、もっともっといい所見つけていきたいって思えるから」


 私は微笑むと思っていることを素直に伝える。


「私は芽亜を離さないよ」


 芽亜は私に抱かれながら顔を真っ赤にしている。そして恥ずかしくなったのか私の胸にグリグリと頭を擦り付けて来る。なんか猫みたいで本当に可愛いなぁ。


「先輩は本当に人たらしです…」


 芽亜が何かボソッと呟いたような気がしたのだけど、声がくぐもってよく聞こえなかった。

 でも悪い言葉では無いよね。だって芽亜だから。


 私もこんなに出会って間もない女の子にここまで心を許しているのは不思議に思うよ。でもさ、こういう人の相性って時間が全てじゃないと思うんだ。奇跡的に歯車がピッタリ噛み合って同じスピードで回っていける…。そんな存在が私にとって芽亜なんだと思う。

 だから私はこの出会いを何より大事にしたいんだ。

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