第122話 強さの証明(前編)
正月が明けるとギルドでは冒険者が依頼を受けに多数集まる。
鈍った体を動かす目的もあれば、調子に乗って散財した懐を温めるために必死な者と色々である。
そんな中、ギルド長のドラムスは朝から憂鬱な顔でとある人物の対応をしていた。
「ギルド長。今回もいい人材はいるかな?」
「ああ~……ちょっと待ってろ」
「なるはやでお願いしますよ? ギ・ル・ド・ちょ・う」
その言葉にはぁ~と盛大にため息を漏らす。
これは今に始まったことではない。
ドラムスに詰め寄っているのはAランクパーティー【トップオブ・ザ・ワールド】のリーダーであるワンという男だ。
卓越した剣裁きは冒険者内でも有名であり、"剣の天才"とも呼ばれている。
Aランク剣士のワンを筆頭として、Bランクのツウとスリイをメンバーとしたのが【トップオブ・ザ・ワールド】であった。
バランスのいいパーティーなのだが、一つ問題を抱えているのである。
それは、いかんせんワンが"自分の力を見せつける"ことに固執していたことだ。
とにかく自分大好き人間であり、自分が褒められることや尊敬の眼差しを向けられることが好きなのである。
そのためギルドに行っては「人員が欲しい」と要望し、新人の冒険者を仲間に加えては自分の実力を見せつけていくという行動を繰り返していた。
それだけだったらまだよかったのだが、その行動は冒険者の間でも迷惑と言われていたのだ。
見せつけられた冒険者からも、「ワンがうざい」とギルドにクレームをいれる始末。
ギルドからも注意しようとしているのだが、実力は確かであり高難度の依頼もこなせる数少ない優秀なパーティーなので、強く言えないというのが現実であった。
言うなればギルドは、「態度の悪い不良であるが成績が良いため何も言えない先生」状態なのである。
(これが終わったらまたクレームの嵐か……)
職員すら対応を嫌がり、ドラムスが仕方なく対応している。職員にまで嫌われるってどんだけだよ! と言いたいところだが、事実ドラムスすら嫌がっていた。
しかし誰かが対応しなければならないので、そこは上司のドラムスが責任を持つことにしたのである。
(Aランク以下で暇な奴。そして愚痴も言わなそうな奴はいねぇかな)
一番のネックはこの後のどうせ来るクレームである。
なのでなるべくストレスに強い者、もしくは人の話を聞き流すことのできる冒険者を探すことにした。
(あっ!)
そこでドラムスは思いついた。そうだ、いるではないか!
人の話を聞き流すこと、というか
「一人、いい奴がいるぞ」
ドラムスはニヤリとほくそ笑むと、その者に連絡を取った。
***
ワンたちは、その人物を待っていた。
その間に恒例となったいつもの確認をする。
「ツウ、スリイ。今回も僕の株が上がるように頼むよ」
「「りょーかいです!」」
いつも通りのいい返事だとワンは感心した。
ツウとスリイは冒険者を始めてからすぐにワンと出会い、その強さに惹かれ仲間になった。
周りから見ればただの太鼓持ちだが、二人にとってはワンはヒーローなのである。
そのワンが自分たちに頼みごとをしているのだから、ツウとスリイが張り切るのは当然のことだった。
今回も意気込んでいると、その人物はやってきた。
「おっす」
その声に反応し3人は目を向ける。
そこに居たのは、 死んだ魚のような目。
ダルンダルンに伸びたシャツ。
これから戦闘するかもしれないというのにサンダルを履いている。
極めつけは肩に乗ったクマのぬいぐるみ。
コイツのどこが冒険者なんだ! と言いたくなる風貌だった。
「えっと、君がタローくんかな?」
一応確認のためにツウが質問した。
「そーですぅ。わたすがタローってんですぅ」
と、返ってきたのはふざけた肯定であった。
(((えぇ……)))
3名は仲良く絶句したのであった。
***
今回の依頼は洞窟の調査であった。
そこは鉱石の採掘場として有名で、国の外からも出稼ぎに来るので作業員も多い。
そんな中で、何人もの作業員から「中で不気味な音を聞いた」と報告があり、ギルドへの依頼として舞い込んだそうだ。
これらの情報からワンは少し考え、3人に指示を出す。
「洞窟内は音が反響するし、他の作業員の音を聞き間違えた可能性もある。
しかし、モンスターがいる可能性ももちろん考慮しなければならない。
洞窟についたら、前衛をツウとスリイ。中衛として僕。後衛はタロー、君が担当してくれ」
「「了解です!」」
的確な指示にツウとスリイはすぐさま了承した。
タローも遅れて「あ、はーい」と片手を上げて欠伸をした。
そんな態度にツウとスリイはこめかみに青筋を浮かべていた。
(この男、ワンさんが話しているというのに……っ!)
(こいつが危険に陥っても絶対に助けないぞ)
二人はタローを嫌いになった。
そして当のワンはというと。
(今はいいさ。だが戦いとなれば……ふふっ)
タローの態度に逆に意欲を燃やしていた。
ワンは見返すのも好きなのだ。
(見ていろ。20分後には君は僕の力に感動で震えているだろう!)
不敵な笑みを浮かべながら、4人は洞窟内へと入っていくのであった。
そう、目的は変わらないのだ。
タローという人物にワンの凄さを見せつけつつ、依頼をこなすだけだなんだから。――
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