第101話 不死の鳥と地獄の番犬
青炎の翼を広げて佇む姿は堂々としていた。
迷いをちらつかせていた瞳も力強いものとなり、その視線で三つ首の魔王を貫く。
覚醒したタマコに、アンブレラは久しく流していない冷や汗をかいた。
「コノ炎……見覚エガアルナ」
「うん。もう数千年もまえだけどね」
『食欲』と『殺意』のアンブレラがその記憶を思い返す。
遥か昔に理性も忘れ人間を食い漁っていた頃。
ある村で戦い、そして敗北を喫した不死の鳥のことを――
「また立ちはだかるのか……フレイッ!」
慈愛に満ちた『母性』のアンブレラがギリギリと歯ぎしりをした。
だがこれは
無敗の三大魔王の中で、唯一アンブレラだけが隠していた事実。
「イマコソ雪辱ヲ果タスゾ!」
「ぜったいにころそー」
「今ここで、わたしは無敗に返るッッ!」
『食欲』、『殺意』、『母性』の心はこのとき完全に一つとなった。
それを見たタマコも臨戦態勢に入る。
「――行くぞ、魔王アンブレラ!」
言うと同時にタマコは青炎の翼で空へ舞った。
アンブレラも本気になると、今まで隠していた殺気を爆発させる。
かつて理性を忘れて暴れた、あのときのように。
「「「
凶暴な噛みつきを殺気に乗せて撃つ。
タマコは臆することなくその攻撃に突っ込むと、身体を炎へと変化させ回避した。
それだけでは終わらず、足だけを炎にして猛禽類の如き爪を出現させた。
「
放たれたのは強烈なドロップキックだ。
アンブレラの胴体にくらわせると、胴を爪で抉る。
超硬度を誇る毛に覆われたアンブレラの身体を、初めて赤く染めたのだった。
「クソガッ!」
「もーゆるさない」
「そんなことをする子には、おしおきが必要ねえ!」
ケガを負ってもアンブレラにとってはこの程度擦り傷程度でしかない。
ここからアンブレラは出し惜しみせず技で強襲する。
「
「
「
『食欲』による火炎の息吹。
『殺意』のはなつ猛毒の爆弾。
『母性』の特大魔力砲。
それぞれが必殺の威力を込められた魔法であった。
タマコは不死鳥の能力により、身体を炎に変えることで回避することが出来るが、さすがにこの質量の攻撃であれば炎ごと消されてしまう可能性が高い。
しかし、フェニックスの力は何も炎だけではないのだ。
(父よ……力を貸してくれ!)
クイーン・ヴァンパイアである母の『音魔法』。
そんな母が父に惹かれあたのは必然であったのかもしれない。
母の『音』に寄り添った、父の魔法は――
「――
響いたのは、美しい歌声。
透き通るような声音にのって、アンブレラの耳にも届いた。
だが、アンブレラは戦慄した。
フェニックスも――自らに土を付けたあの男も使った、その魔法に。
(そうだ……この能力は!)
古い記憶を呼び起こすが、少し遅かった。
アンブレラが放った三つの技は、歌声とともに霧散したのだった。
「マジカヨ……」
「うっそー!?」
『食欲』と『殺意』が驚愕している中、『母性』だけは思い出していた。
フェニックスが持つ
何でもというわけではないものの、アンブレラの放った質量の魔法であれば簡単にかき消してしまうのである。
三つ首のアンブレラが呆然とする中、今度はタマコが攻撃を仕掛けた。
「
この魔法は、炎を歌に乗せて放つ。
その歌を聞いたアンブレラの身体は突然発火した。
「コノワザハッ!?」
「あいつといっしょだ!」
「だ、だめよ! この炎は――」
アンブレラは炎を消せないことを悟った。
その炎の色は『青』。それこそ、かつてアンブレラが敗北した原因でもある。
大概の炎や氷などは自分の魔力調整で何とかなるのだが、不死鳥の炎だけはそれが出来ないのだ。
その原因は、先ほども言ったフェニックスの特殊な波動によるものなのだが……。
もちろんそんなこと、アンブレラが知るはずもない。
「「「――ぐわぁぁッッ!!」」」
青き炎に焼かれ、アンブレラは断末魔を叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます