第91話 暴かれる秘密

 レオン・フェルマーのステータスは、ヒーラーのシャルルを除けば一番低い。

 魔剣という優位性を失えば、ランやアキラに3分もかからず敗北することだろう。

 ましてや今の相手はムサシだ。

 まともにやりあえば瞬殺されていてもおかしくない。

 それをされないのは、魔剣というアドバンテージ、卓越した技術。

 なにより、測定不能という非常識な知力に他ならなかった。

 加えて、魔王アルバート=ルビーの存在も忘れてはならない。

 魔王屈指の知能を有する妖精はレオンの意図を読み、それに合わせて抜群の補助をする。

 自分勝手なSランクと魔王のコンビの中で、コンビネーションという部門があるとしたら、この二人がブッチギリの優勝で間違いない。


 絶妙なタイミングで放たれる罠。

 抜群のコンビネーション

 卓越した技術。

 強力な魔剣。

 最高の頭脳からなる、最高の戦術。


 これら全てを駆使することでレオンは低いステータスでありながらも、Sランクの中でトップクラスの実力者として君臨しているのである。




 ***




 レオンとまさかの鍔迫り合いになるムサシは、刃を合わせる中で考える。


(アルバートはレオンさんに強化魔法か何かを施したはず……でも――)


 アルバートの魔法は、『ステータスを2倍に上昇させる』と本人から聞いたことがある。

 ……本当にそうなのだろうか?

 ステータスを2倍にしても、のものなのか?

 レオンのステータスは低い。そのことは知っている。

 だが、それにしても2倍という程上がっていないように思えた。

 いや、確かに強くはなっているのだが……。

 それでも1.2〜1.5倍ほどだろう。


(レオンさん……いやアルバートが――魔王の魔法がこの程度のはずはない)


 これも何かの作戦?

 いや、だとしたら狙いはなんだ?

 2倍と言っておいて1.5倍しか出力しないなんて、どう考えてもメリットが無い。

 レオンさんは僕の実力を理解している。

 油断すれば確実に僕が首をはねる。

 こんな行動鍔迫り合いをするなら、それこそ2倍に上がったステータスの方が明らかに有利。

 不意を突いて追い込んだのなら猶更だ。

 ならば考えられるのは――


(レオンさんが隠したいのは……別の何かか?)


 ステータスを知られたくないから、ではない。

 もっと別の何かを……


(――そうか、そういうことか!)


 その瞬間、ムサシはニヤリと笑みをこぼした。


「――あなたがが隠したかったのは、だったのか!」

「っ!」


 刹那、レオンの目が見開かれた。


(くっ! 少々急ぎすぎましたか!)


 ムサシに気付かれた。

 けれど、こちらが有利なのは変わらない。

 早期に決着を付けなければいけないと、レオンはさらに力を込めた。


「――力みすぎだよ、レオンさん」


 力を込めたレオンに対し、ムサシは敢えて力を抜いた。

 支えていた打刀の憤怒の魔剣サタンを手放すと、そのまま後ろに倒れていく。

 だが、レオンは体重を前にかけてしまっていたため、勢い余って前方にバランスを崩した。


「しまっ――」

「甘いぜ、レオンさん!」


 ムサシは勢いを利用し、そのままレオンに巴投げを仕掛けた。


「ぐっ……」

「レオンちゃん! 大丈夫!?」


 何とか受け身をとり最小限のケガで済ませたが、決死の作戦で得た機会を棒に振ったのは痛い失敗だ。

 それに加え、アルバートの秘密も感づかれてしまった。


「……何か覚えのある感覚だったんですよ。

 ですが何てことは無い。ただだけだったんですね」

「…………」

「ムムム……」


 ムサシの推理は的を得ていた。

 一見、アルバートの魔法でステータスを上昇させているように見えるが、それはフェイクだ。

 アルバートの"本当の能力"について悟られぬよう、レオンが傲慢の魔剣ルシファーの魔力を身体に付与するタイミングでアルバートに触れてもらい、あたかも魔法を使ったように見せていただけ。


「でもレオンさんらしくないなぁ……あなたならそれすら悟らせないようにすると思うけど?」


 疑問を抱くムサシに対し、レオンは少しムッとした。

 ムサシの言う通り、もちろんレオンはそのことを悟らせない行動をとる。

 魔王クロスとの戦闘時、レオンはわざと自分のトップスピードを遅くし、わざと攻撃の力を緩めた。

 そして、魔力でステータスを上昇させた際に、本当に2倍の力になっていると錯覚させたのだ。


 ならば何故、今回はごまかさなかったのか。

 答えは単純――

『ムサシが強すぎて、手を緩める暇がなかった』が正解だ。


(まったく、誰のせいだと思っているのやら……)


 自分の強さが原因だとは思っていないムサシに、レオンは腹が立ったのである。

 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 大事な手の内を一つ暴かれてしまったのだ。

 強さの次元が違うムサシ相手では、それすら命取りになる可能性があった。

 全ての秘密がバレる前に、決着を付ける必要がある。

『早期決着』

 これしか方法は無い。

 レオンはもう一度、傲慢の魔剣ルシファーを強く握り――


「まだ隠してること、ありそうだね」


 ムサシは下を向いて、口を開いた。


「……だったらなんです」問い返すレオン。


 ムサシはゆっくりと頭を上げる。

 そこに、不敵な笑みを宿して――


「なら、隠す暇もないほど――」


 そう言ったムサシは大小二本揃った状態で憤怒の魔剣サタンを持つ。

 左手の脇差を上段に、右手の打刀を身体の中断に構えた。


「――追い詰めるだけさ」


 静かに口にしたその言葉。

 すると魔剣と身体に漆黒の魔力が纏われていく。

 魔剣には鋭い刃物のような形で。身体には羽織り状に展開した。


「……それが君の――」


 それはレオンも始めて目にするものだ。


二天一竜ニテンイチリュウ――これが、僕のスキルです」

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