第39話 アキラ・アマミヤ

 敵が現れたら即戦闘。

 危険が及べば即戦闘。

 戦いを挑まれたら即戦闘。


 そんなファンタジー小説界やバトル漫画界の常識などこの男タローにとっては知らぬ存ぜぬ守る意味あらぬであった。


「……」


 そしてこういう時、一番恥ずかしいのは断られた方である。


「おいっ! 拒否は受付けねぇぞ! 冒険者タロー、俺と勝負しろ!」


 もう一度言ってみた。


「だから、嫌だって……」


 もう一度断られた。


 何とも言えない時間が流れる。

 アキラは顔を赤くしていた。

 断られた怒りで赤くなっているのか、はたまた恥ずかしくて赤くなっているのかはわからない。

 まぁ、たぶん両方だと思うけど。


「……っざっけんな! 何のためにテメェの居所探し回ったと思ってんだ! こっちの手間を考えろ!」


 タローは(あ、コイツめんどくさい)と思った。

 戦闘とは危険なことである。

 自分も相手も傷つき、勝った方しか得をしない無駄なことである。

 そして、そういうのはタローはあまり好きではなかった。


「手間考えろって……だったらアンタも俺の手間考えろよ」


「あん?」


「クエストの最中に攻撃じゃまされて、いきなり勝負挑んできて、迷惑だろ」


「クエストの最中って、お前寝てただろぉが!」


「仕事中に休憩を挟むことの何に問題あるんだよ」


「いや……んー……」


 まさかの知力100バカが論破するという謎現象が起こった。

 頭が悪い奴もやる時はやれるもんである。


「いや、待て! 戦う理由ならあるぞ」


 と、ここでアキラが反論した。


「なに?」


「ここでお前が戦わなければ……」


「なければ何だよ?」


「この後の展開をどうするつもりだ!」


「なんか起きても、どうもならんって」まったく心に響かないタロー。


「いや何かはあるだろ」


「いや無いって。読者も少ないしこの作品」


「最近は順調にお気に入りもPV数も増えている! 意味はあるだろ」


「増えてるったって全体から見れば俺たちなんて微々たるもんだろーが」



「そうやって人気小説になっていくんだろぉがッッ!」



「人気になったら俺の働く回数も増えんだろーがッッ!」



「そこまで行くと一蹴周って清々しいわッッ!」



 皆さま。

 これは主人公であるタローの言葉であって、作者の言葉ではございません。

 どうかこれからも、この物語を応援してください。


 本当に読んでくれてありがとうございます!!




 ***




 で、結局――




「しょうがない、受けてやるよその勝負」


「へっ、待ちくたびれたぜ!」


 まさか作者のスキル・ご都合主義を使うことになるとは夢にも思わなかった。

 え、結構前から使ってる? 細かいことは気にするな!


 とにかく二人は戦うことになったのである。


「余計な話はもうこりごりだ! 行かせてもらうぞ!」


 アキラはいきなりトップスピードでタローに迫る。

 右手の高速で放った突きが一瞬でタローの顔面を捉えようとしていた。

 タローは首を曲げて回避する。

 だがそれを読んでいたのか、左手でタローの髪の毛を乱暴に掴み、そのまま自身の膝で顔面蹴りをした。

 それは見事にクリーンヒットし、アキラも確かな手ごたえを感じた。


「なんだ、この程度か……」


 膝が顔面にめり込んだまま動かぬタローを見て少々ガッカリする。

 所詮はBランク。魔王を手なずけたとはいえ、自分よりは弱かった。それだけだ。


 だが、もちろんここで終わるタローではない。


「……おい」


「っ!」


 先ほどまで動かなかったタローが口を開く。

 アキラは手加減をしていない。

 この顔面蹴りも相当な威力。先ほどの岩を砕いた攻撃と同レベルのはずだ。

 しかし、タローは自身の頭を押さえている手首をつかむと、そのまま強く握りしめた。


「――っぐぉぉおおおああぁぁああッッ!!!」


 アキラを襲ったのは腕への強烈な圧迫感。

 まるで10トントラックに踏みつけられているような苦しみ。

 腕が潰されるような痛み。


「ぅぅうおおおああああッッッ!!!」


 掴んでいる手を放そうと、空いている右手でもう一度殴り掛かる。

 タローは掴んでいた手を自身の方に引っ張った。

 バランスを崩したアキラはそのまま倒れそうになるが、その前にタローはアキラの髪の毛を掴んだ。


「――お返しだ」


 アキラと同じように顔面に膝蹴りを放った。

 タローはお返しと言ったが、威力はまるで違う。


 顔面にタローの膝が当たった瞬間、その場を破壊音が侵略した。

 木々を揺らし、川に波が起こる。それほどまでの深い衝撃であった。


「~~~~~~~~ッッ!」


 顔面を通じて全身に痛みが駆け抜けた。

 すぐさまタローと距離を取るが、我慢できずその場に転げ回る。

 まず間違いなく顔面の骨は折れているだろう。

 というか普通なら死んでいてもおかしくない一撃であった。

 それでもアキラは――


「……~~~ッッぁぁぁあ゛あ゛ははははははっ!! 」


 笑った。


 顔を抑えながら

 苦しみながら

 痛がりながら


 楽しそうに笑い転げた――


「ンゥー、フュー、はー、はーガッハッハッハハハ!!!

 最高だぜテメェェエエエエはよぉおお゛お゛ッッ!!!」


 抑えていた手を離すと、瞬く間に鼻血が滝のように流れ落ちる。

 だがその目は闘志を失ってはおらず、目を血走らせながら獲物を視界にとらえた。

 その姿をタローは少しだけ不気味に思った。


「まったく……でもないお前が、これほどの実力とわな!」


「……転移者って確か――」


 タローは以前、転移者について聞いたことがあった。

 それは一緒に採取の依頼を受けたロッゾから聞いた話。

 曰く、転移者は魔法を使えないがスキルというものを使うと。

 スキル次第では戦闘素人でも十二分に戦えるらしいが……。


「そういえばSランクは全員転移者だったか?」


 タローが尋ねると、アキラはそれに答える。


「その通りだ。お前らとは別の世界から来た異世界人。

 お前らには無いスキルチートで、俺たちは冒険者最強の座であるSランクになった。

 ……そして、俺は――」


 刹那――アキラの拳に赤いオーラが纏われる。


「まだ、スキルを使ってねぇ」


 アキラはタローのもとまで歩き出す。

 1メートルもないほどの距離まで詰めると、アキラは人差し指をクイッと2回軽く曲げた。


「――来いよ」


 明らかな挑発だった。

 だが、タローにとってはチャンスでしかない。


「んじゃ遠慮なく」


 怠惰の魔剣ベルフェゴールを構えると、そのまま横薙ぎに強烈な打撃をくらわせた。








「――こんなもんか?」





「ッ!?」



 怠惰の魔剣ベルフェゴールは確かにアキラの腹部に命中している。

 本気の一撃ではないにしろ、それほど弱めた一撃でもなかった。

 だが、アキラは平然とその場に立っていた。


「次は、こっちの番だ!」


 凶悪な笑みを浮かべたアキラの拳が、タローの顔面を捉える。







 アキラ・アマミヤ

 Sランク冒険者。転移者

 スキル:喧嘩上等ステゴロ

 ・攻撃力と防御力の数値が上昇

 ・武器を使い戦うと攻撃力と防御力の数値が減少


 ステータス(スキル未使用時)

 攻撃力:8587

 防御力:8997

 速度:7508

 魔力:0

 知力:589

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