第30話 二人
神聖デメテール国より起きたワイトの大量発生。
事件は首謀者カイエンの死亡により幕を閉じた。
――それから2日が経過した――
最終的な決着の場であった墓地。
そこでは朝から瓦礫などの撤去作業が行われている。
土木作業員だけでなく、ボランティアで集まった住人も加わったことで比較的に早めに終わりそうとのことだった。
「いやー悪いね。冒険者さんに手伝わせちゃって」
作業員に声をかけられたのはタローである。
そう、タローが(あの超怠け者が)自主的に作業を手伝っていたのだ。
「いや、まー……そりゃね?」
タローはいたって真面目に働いていた。
そして何故か歯切れ悪く返事をする。
その理由は、
「しっかしモンスターってのは恐ろしいね。こんな大穴開けるんだからさ」
作業員の男が目を向けるのは直径60メートルある穴だ。
タローがあけたあの大穴である。
まさか作業員や住人達もこの奈落までつながっていそうな穴を人間一人の一撃によるものだとは思ってもいないだろう。
そして、なんとなくモンスターのせいになっているからOKと言うわけにもいかず、罪悪感から作業を手伝っているタローである。
2日前の午前から始まったその作業も午後になると終わりが見えてきていた。
「ところで冒険者さんはこれからどうするんだい?」男が訊く。
「ここの作業が一段落ついたらギルドに戻ろうとかなって」
「だったらもう行っていいぜ? あとは
男がそう言ったのでタローはその言葉に甘え、その場を後にした。
***
タローは墓地からアレンがいた孤児院へと足を運んだ。
入口でアレンに会うと、アレンはタローに抱き着いた。
「お兄ちゃん本当に解決しちゃったんだね! スゴイよ!」
目をキラキラさせ飛び跳ねる姿が年相応に可愛らしい。
タローが頭を撫でるとアレンは気持ちよさそうにしていた
以前一緒に話した中庭に来ると、腰を下ろして軽く話をする。
園長先生の体が良くなり戻ってきたこと。
あれから孤児院で亡くなったものが現れていないこと。
怖がって来なくなった先生たちも帰ってきたこと。
それと、もう一つ
「そういえば、あれからカイエン司教がどこにもいないんだ。お兄ちゃん知ってる?」
アレンは心配そうにカイエンの安否を尋ねる。
実はカイエンが犯人だと言うことは、一部の人間にしか伝わっていなかった。
カイエンは恋人を蘇らせるためにその手を汚した。
その罪は決して許されるものではない。
だが、カイエンは国では尊敬される司教でもあった。
この事実をそのまま公表し、国がパニックになることが恐れられたため事実は隠されたのだ。
アレンもカイエンが善人だと信じている。
まだ幼いアレンには今回の真実はあまりにも重すぎた。
「あ~……カイエンさんは、別の教会に行ったんだ」
「え、そうなの!?」
「ほら、カイエンさんは凄い人だからさ。他のところでも話をしたい人がいるんだよ」
「そっか……寂しいけどカイエン司教なら当然だね!」
残念そうにするが、すぐに胸を張った。
それでも少し寂しそうなアレン。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「カイエン司教……どうしてるかな」
そう問われると、タローは空を見上げた。
「……大丈夫。きっと楽しんでると思うよ」
「ほんとう?」
「あぁ。きっと、幸せに過ごしてるよ」
「そっか。そうだといいな」
アレンもタローの真似をして空を見上げた。
***
「じゃ、俺もそろそろ帰ろうかな」
話が終わるとタローは立ち上がった。
「行っちゃうの?」
「うん」
「……お兄ちゃん、ボクが冒険者になりたいって言ったの覚えてる?」
「そんなこと言ってたな」
アレンも勢いよく立ち上がるとタローの前に立った。
「ボク頑張るから! 今のうちにたくさん食べて、鍛えて、勉強するから!」
少年の目からは大量の雫が流れていく。
「だから冒険者になったら、一緒に冒険してくれる?」
タローはアレンの頭に手をやる。
「待ってるぜ」
「――! うんッ!」
アレンは泣きながら、大きく笑った。
タローは手を離し、そのまま孤児院を去る。
少し距離が離れたとき、また自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとアレンが手を振っていた。
「おにーーちゃん! ありがとう! ボクの依頼達成してくれてー!」
「おう」と手を振り返す。
「ボク大きくなって強くなって!
お兄ちゃんみたいな――立派なバイトになるからーーーー!!」
一瞬だけキョトンとするが、タローはすぐに大笑いした。
「じゃあなー! アレン!」
もう一度手を振り、孤児院から背を向ける。
今度こそアレンはタローを呼び止めなかった。
***
デメテール国の入り口まで来ると、タマコが近くのベンチに座って待っていた。
タローの姿を確認すると、軽く手を振る。
「やることってやつ、終わったん?」
タローが訊くとタマコは「あぁ」と言って頷く。
タマコは二日前の戦闘が終わると、タローに後始末を任せ別行動をしていた。
「で、何してたの?」
タマコは懐から資料を取り出した。
「あの教会にはカイエンがリッチの研究に使っていた地下室があってな。そこにこれがあった」
「なにそれ」
「リッチの研究関連の書類じゃ。別の国で行われていたリッチの研究内容もすべて記されている」
タマコがカイエンの身辺を調査していた時に発見した地下室。
誰にも知られぬようにどこで研究をしているのか疑問でだったが、教会に隠し部屋があったのだ。
そしてそこには大量の研究書類や実験結果の資料が。
タマコはそれを全て燃やした。
もちろん今持っていた資料もこの場で燃やした。
「どういう内容なのか気になって一部持ってきたが、やはりと言うべきか……この世に無いほうがいいものばかりじゃよ」
他国でも非人道的すぎるとして実験が止められたほどである。
目を軽く通しただけでも背筋が凍る内容ばかりだった。
タマコはその全てを消した。
これでもうリッチの研究が行われることは無いだろう。
「で、主殿は何をしてたんじゃ? 罪悪感で手伝っただけではないのだろう?」
タマコの指摘にタローは頭を掻いた。
なんだか全てを見透かされたようだ。
「用ってほどじゃないけど……ちょっとお墓を建ててたんだ」
「墓?」
「うん。
タマコはそこで察して「そうか」と静かに笑みをこぼした。
「目立ったところには建てられなかったけどさ。端っこに小さいやつをね」
「優しいの」
タマコがそう言うと、二人はタイタンに向かって歩き出す。
帰りはゆっくり歩こうかと言って、青空の中を進んだ。
***
デメテール国の墓地。
沢山の墓石が転がっていたこの場所も随分ときれいになった。
そんな墓地の誰も気付かないような隅っこに、小さな石が二つ並んでいた。
その石は互いに身を寄せ合うように置かれている。
石には小さな文字でこう書かれていた。
『あなたたちの幸せを願う』
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