第13話 タローと魔王 (邂逅)
タローは魔王城を確認したあと、空を飛んで移動していた。
もちろんタローは飛べない。
ドラゴンの背に乗っているのである。
それは魔王城を確認してすぐのこと。
『あそこまで歩く……は面倒だな』
距離は大体10kmほど。
しかもそれは直線距離の話。
道中は山道になっており、峠を越えなければならないのだ。
と、そんなときである。
『……!』
ドラゴンが目を覚ましたのだ。
さすがは力の象徴でもあるドラゴン。
ここにいる意識を刈り取られたモンスターの中では一番に覚醒が速かった。
ドラゴンが目を覚ましたのを確認すると、タローはドラゴンから飛び降りて目の前に着地する。
『ねーちょっと君』
タローは目を合わせて笑顔でドラゴンに話しかける。
『乗せてくんない?』
その笑顔はいつぞやの時と同じようにドラゴンにも幻影を見せた。
タローの後ろにいる鬼神のような悪魔のような恐ろしい化け物が『乗せなきゃ食うぞ』と言っているような気がした。
ドラゴンは首をこれでもかと振り、タローを乗せて魔王城へと飛翔した。
そこから3分。
さすがはドラゴン。移動が速い。
タローは地面へと飛び降りると、ドラゴンにお礼を言うために振り返る。
「ありが」
だが、言い終える前にドラゴンは文字通り尻尾を巻いて全速力で飛び去っていった。
「あらら……ま、いっか」
タローは魔王城へ向き直ると、大きな門の前に立つ。
その大きさはタイタンの倍以上といったところだろうか。
いったいどれほど大きなモンスター、もとい魔王が住んでいるのか。
「さて、どんな奴がいることやら……」
タローはそう言うと、持っていた武器を振り上げる。
「こんなバカでかい門の開け方は知らねぇんだわ。悪いね」
一言謝罪すると、思い切り振り下ろす。
ドゴォォォオオオンン!!!という破壊音を鳴らし、門はあっけなく瓦礫と化した。
「失礼しまーす」
タローは魔王城へと足を踏み入れる。
***
この魔王城を作った魔王タイラント。
タイラントは面倒を嫌う性格であった。
だからこそ彼は戦闘を嫌った。なるべく戦闘を避けたかった。
しかし、その座を狙うモンスター、討伐を試みる人間。
奴らがうざったくてしょうがなかった。
だから彼は、城にいくつものトラップを仕掛けたのだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
タローが魔王城へ足を踏み込んだ瞬間――四方八方から数百本の鋼鉄の槍がタローを襲った。
しかもその先端には猛毒というおまけ付きで。
いきなりのトラップ
しかしタローはキング・オーガの不意打ちを簡単に簡単に躱した男である。
「おっと」
瞬時に棍棒を振り回す。
その速さは残像を生むほどであり、はたから見ればタローの周りにバリアが張られたようにも見えた。
そのまますべての槍を打ち砕き、無傷で生還する。
ちなみにタローにとってはこのスピードは造作もない。
「歓迎してくれてありがたいね」
この程度は攻撃にもならなかった。
***
魔王城の中には豪華なシャンデリアや螺旋階段がある。
一見してみると普通のお城だ。
だが、タローが適当に歩いてちょうどシャンデリアの真下に来た時だった。
足元に魔方陣が出現した
魔方陣は一瞬強い光を放つ。タローは目を閉じた。
光が収まり目をあけると、そこは先ほどの城ではなく石壁が並ぶ場所。
「おやおや」
タローの目の前には石壁がある。
それも無数に。
どうやら次のトラップは迷路のようだ。
時間がかかりそうなトラップだが一つ一つ道をつぶせば迷路はいつかたどり着く。
しかしここは魔王城。行く手を阻むトラップがさらに仕掛けられていることだろう。
そんな
「よっと」
ドゴォン!と棍棒を一振り。
どうやら壁をぶっ壊して進むようだった。
タローにお約束は通じない。
まっすぐまっすぐ壊していくと、すぐに迷路を抜け次の道へと進んだ。
***
迷路を抜けるとあっけないほど何もなかった。
どこか拍子抜けしてしまいそうになるほど何もない。
だが、そういうときほど苦難は襲ってくるのだ。
タローが一歩踏み出した時、タローの足場が消えた
「うわっ」
シンプルな罠である落とし穴だが、落ちてしまうのが世の常だ。
しかもこの落とし穴の底は強力な酸で満たされている。
このピンチにタローは
「懐かしいなぁ……俺も昔仕掛けたっけか」
思い出に浸っていた。
それはタローが7歳のとき。
いたずらが好きだったタローは父親に10日連続で落とし穴トラップを仕掛けた。
そして合計で23回穴に落ちた父。
なぜ1日1回とか2回ではなく、その都度落とす回数が違うのか。
そのせいで5日目からは気が気でなかった父。
とうとう10日目に怒り狂った父が20mの巨大落とし穴を掘り、タローは見事にやり返されたのだった。
そしてそのとき20m下から、脱出のために身に着けた技がある。
タローは落ちている最中に――壁を思い切り蹴る。
そのまま向かいの壁に移るとまた壁を蹴る。
そう、いわゆる壁キックである。
連続の壁キックで上へ上へと昇り、あっという間に地上へ戻ってきた。
どうやら落とし穴もタローには通用しなかったようである。
***
その後もトラップはあったが、どれもこれもであった。
・宝箱かと思ったらモンスターだったトラップ
モンスターが噛みついて攻撃するが、タローの防御力をモンスターの攻撃力が貫通せずあえなく撃沈
・幽霊がささやく恐怖トラップ
人の話を聴かないタイプだったため効果なし。
・大岩が転がってくるトラップ
全部ぶっ壊していった
etc...
etc...
etc...
どんどん進むタローは、大きな扉の前へやって来た。
だが、その前には巨大な石の怪物がたたずんでいる。
《魔王城・王の間》番人タイラント・ゴーレム
魔王タイラントが自身の能力や身体能力をそのまま再現して造ったゴーレム。
タイラント自身が完成させた時に、もう一人の自分が完成した。と言ったほどその性能は凄まじい。
その一番の特徴は何といっても防御力である。
例えミサイルを200発撃たれようとも掠り傷一つつかないだろう。
『よくぞここまで来た。だが、魔王様のところへは行かせん』
赤く目が光り、その巨躯を俊敏に動かす。
『ここを通りたくば……私を倒すがy』
「邪魔」
ゴーレムが言い終わる前にタローは棍棒を横薙ぎに払う。
その一撃により、機能を完全に停止してしまった。
「さて、やっと着いたぜ」
タローはいつものように扉を破壊しようとする。
だが、その前に扉が独りでに開いた。
タローは壊す手間が省けたと思い、ありがたく進ませてもらった。
***
タローが王の間に入ると、最初に目に入ったのは中央にある玉座。
そこに腰を掛ける女性が一人。目を閉じて座っていた。
そのまま立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
ある程度近づくと目を開け、こちらを一見した。
「……よくぞここまでたどり着いた。
私の名は《タイラント=マリア=コバルト》――魔王である」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます