第73話 性的友情の賜
あらすじ どの立場にあってもシンはつらい。
無理だ。
ちんちんを自分で硬くしておくのは無理。
今、硬いのは目の前にタカセさんとシマさんの裸があるからで、二人がずっと手を触れているからで、二人の体温に挟まれているからだ。
つまり、いずれ女に戻ってしまう。
「おねえちゃん」
僕は言わなければいけなかった。
「その、色々してもらって、こんなこと言ったら怒ると思うけど……僕はイチさんのところに戻ろうと思う。それで、おねえちゃんはもうイチさんと戦うのを諦めて欲しい」
「……なんで?」
タカセさんはちんちんに力を込めた。
「死んで欲しくないんだ。僕のせいで……」
大事なことだった。
ビビって言わなかった結果としてミキサーにかけられる死体のひとつになったりしたら、僕は耐えられない。結果はわかりきってる。
「あたしは、あたしの復讐のために」
「だって」
僕は言う。
「勝ち目ないから、僕のちんちんを握るんだ」
「……違うんじゃーないかな?」
シマさんが僕の耳元にささやく。
「違わないよ」
「タカセはニコが好きなんだわ。セフレのシマちゃんが太鼓判を押す。あー、素直になれない子だから、勝手に言っちゃうけど」
「言ってから言うな」
タカセさんは否定しなかった。
むしろ照れたみたいに視線を逸らして、ちんちんの頭をぐりぐりと手で擦って過度に刺激してくる。我慢するのがつらい。
「セフレ……?」
声もちょっとしか出せない。
「セックスフレンド。シマちゃんがタカセの身体に一目惚れしたんだよね。忍者とは知らなかったけど、引き締まった良い身体だったから」
「同性愛」
くのいちもそうだったらしいけど、そういう人は多いんだろうか。慣れた感じだったのはシマさんがいたからだと言われるとちょっとホッとしているのはおかしいかな。
相手が女なら嫉妬しない……?
「違う。シマは家に出入りする男たちに狙われるからそれを避ける理由作り、あたしは」
「忍者のためのスキル?」
「言ってなかったけどね」
仲良さげに二人は見つめ合う。
「ストレス発散のためって言ってたのも本当。シマは上手いから。男の扱いも教えてくれたし、ニコにも応用できたし……普通に感謝はしてる」
「うれしいこと言ってくれるー」
「……二人が好き合ってるんじゃないの?」
素朴に疑問だった。
「「ないない」」
そこで声が揃う。
「そういうんじゃないんだって」
「んー、心には踏み込まない?」
「あたしの心を代弁しといて?」
「そこは友情だよ。性的友情の賜」
「いやだな、性的友情」
お互いをよくわかっているという感じの、軽いやりとりだった。愛情でも友情でも、そこまで親しいのは羨ましいと思う。嫉妬ではなく、僕自身にはそういう相手がいないという意味で。
「やっぱり、巻き込めないよ」
僕は言った。
「タカセさんには友達がいるんだから、僕なんかと関わってイチさんに狙われるべきじゃない、と思う。死んだらなにも、死体も残らないかも知れない。その、僕が戻ったからって狙われないとは言えないけど、なんとか……努力する」
頼りないことしか言えない自分が恨めしい。
「ふーん? クノ・イチのを舐める?」
タカセさんは溜息を吐いた。
「舐めたよ、もう。色々と舐めた」
それくらいは出来る。
「舐めたいの?」
「うん。僕も男だから舐めたいと思ってる」
本心だし、そう言うべきだと思った。
「あたしのも舐めたいでしょ?」
「ううん」
本心じゃなかったが、僕は首を振った。
「どう?」
「ちんちんはウソをつけないんだわ。ニコ」
「それは」
ピクッとしなかった訳じゃない。
「別にすぐにあたしを好きになれとか言わない。それじゃクノ・イチと同レベルだし。こうやって誘拐状態で迫ってる時点で同レベルと言われたら否定できないけど……」
喋りながら、タカセさんは僕を見つめる。
「ともかく、あたしは、あたし自身が、ニコを連れていきたいからこうしてる。それはわかって? これからどうなってもニコのせいじゃない。あたしが選択したことだから」
「……でも、死んだら」
「これは忍者の戦いでもある。死ぬこともある。わかってる。あたしは、たぶんあの女もそうだけど、あたしたちは、いつ死んでもいいように、自分の気持ちに素直に生きてる。ニコもそうして。それで、あたしを好きになってくれたら、うれしい……から」
「……」
なにも言えなかった。
僕は、自分の気持ちに素直に生きてない。
そんな気がしたからだ。
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