第18話 普通の世界との接点
あらすじ だれもがだれかの犠牲になっている。
幾度かの休憩、山道から高速道路、知らない街から街。朝から夜。それでも地名を見る度にスマホで調べておよそ関東から中部、山梨から長野を通って西北に向かっているのだと思っていた。
「忍法ワープ発動すんで?」
不眠不休のドライバーは元気に言った。
「は?」
ワープ?
窓の外に白煙が広がって音が消える。
一瞬。
時空を跳躍する忍法については後で担当者たちの日誌の中に記述を見つけたが、ある距離の移動に対して特定の地点を軸に位置を入れ替える「代わり身」の一種だそうだ。
だからたぶん千キロぐらいは飛んでる。
「到着です。お疲れさまでした」
「……島?」
二度目の夜明けが水平線にあった。
やや暑い。
「遅かったな」
そして海から上がってきた全裸のくのいち。
「クノさんに車じゃ追いつけませんよ」
「泳いできたの?」
僕は視線を外しながら言う。
「いいや? ワープで先に着いたんでシンを歓迎する海の幸を
くのいちは正面に回り込んで貝を見せつけてきた。片手にぶら下げた大きな網には魚がピチピチと暴れているが、海水の滴る股間のワカメがチラチラと目に入ってそれどころじゃない。
「水着ぐらい着たら……?」
「ん? どうした? 恥ずかしいのか? この島には関係者しかいない。気にするな。シンもすぐ裸で海を泳ぐようになる。気持ちいいぞ」
くのいちは僕の肩を抱いて引っ張る。
二日着っぱなしの制服がビチョビチョだ。
「シズク、わたしたちは風呂に入る。シンも長旅で疲れただろう。これはアーシャに渡しておいてくれ。雑魚はそっちで食べてくれていい」
「ありがとうございます」
「おさしみや!」
「サーシャ、酒はほどほどにな」
「うっさいわ!」
ドライバーの人とくのいちは気安い感じたった。運転中はまったく笑顔がなかったが、シズクさんから網をひったくってスキップ気味に砂浜からつづく道へかけていく。解放された雰囲気だった。
「では、あとは二人でごゆっくり」
「むろん、そうする」
「……いや、あの説明が全然」
ここ、どこなんだよ!
「わたしがしてやる。たっぷりねっとりとな」
そう言って、くのいちは僕の顔を掴むと遠慮も躊躇いもなく唇を重ねてきた。海水の味がする舌もねじ込んできて、同時にビリビリと僕の服を紙きれみたいに破いて脱がした。
必要がない、と言わんばかりに。
「……ん、んん」
学校にはもう戻れないんだろう。わかっていたことだけど、少し哀しかった。僕と、今までいた普通の世界との接点が途切れてしまったことを感じる。十五歳も年上の女の恋人になる。
実感はない。
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