第2話


国王陛下が到着するまで待っていようと思ったが、どうやら国王陛下も加担しているようだ。

いや、『アムゼイ可愛いや』の貴妃の妨害か。

私は右手を握りしめて、いまなお左指に指輪をはめようとして『王族の契約』によって反発されて焦っているアムゼイの左頬に……ちょうどいい高さにあるそのスベスベとした柔らかそうなお肉を、抉るように叩きつけた。


「ふぎぇえええ」


静まる会場内。

伯爵をはじめとしたアムゼイ派は何が起きたか分かっていないようだ。

とっさによけてその背中を蹴ったアムゼイ派の貴族もいる。

サッカーのボールと間違えたのか?

私の3メートルに追加で10メートルは飛ばされたであろうアムゼイを見送っている。

そのすきに、足元に転がる指輪を拾う。

やはり魔導具、それも『隷属の指輪』。


「う、うう。……なんで、なんでだよお」


そう泣き言を吐き出しながら、を掴んで身体を起こそうとしたアムゼイ。

しかしここはパーティー会場、そこは中央に近い場所。

そんな場所に都合よく『身体を起こすのにちょうど良いもの』が置かれているわけも、柱があるわけでもなく……


「キャアアアアアアアア!!!」

「ほへ?」


アムゼイは令嬢のドレスを掴み、体重をかけて引っ張り……

哀れな令嬢は衆人観視の中でドレスを引き千切られてあられもない姿に。

破れたドレスを握ったままのアムゼイは、ふたたび床に転がった。

そしてそばにいた貴婦人の足にしがみついたことでふたたび悲鳴があがる。

足を掴まれた貴婦人がアムゼイに引き倒されてしまい、床に全身を叩きつけたのだ。

そしてさらなる悲鳴があがる。

貴婦人は妊婦で、今回は王家の召集だったため大きなお腹で登城していたのだろう。

そんな方が床に全身を叩きつけられ……赤黒い血が広がった。

真っ先に周囲の貴婦人たちが動く。

今もなお貴婦人の足を掴んでいるアムゼイの手をヒールの踵で踏み付けて離させると蹴り飛ばし、女性たちは並んで『人の壁』を作る。


私は手にしていた指輪をアムゼイの右手小指にはめた。

その様子にアムゼイ派が慌てるが『落とした本人に返した』だけだ。

それも呆然としているため、

アムゼイの目はくらにごり、自己を封じられたようだ。

……こんなことを私にしようとしていたわけね。


「早く客室を用意しなさい! そして女医の手配を!」

「はい、かしこまりました!」


命じるとアムゼイはスッと立ち上がり、返事をして一礼すると会場を飛び出す。

その様子にアムゼイ派は何も言い出せない。

それはそうだろう、彼らはアムゼイが私にはめようとしたあの指輪が何かを知っていたのだから。

それを明かすと、私にはめようとした事実が明るみになる。

あの指輪は『はめた本人しか外せない』というもの。

下手なことをすればアムゼイは死ぬまであの状態だ。

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