第7話『運命分岐』

 街が見えて来た、一度車を止め街の方を良く見ると淀んで見えている。それは塚田さんも同じだったのか街の空を見ていた。

「見える様になったみたいですね?」

「ですね」

「見えるって言うのは便利かもしれませんね」

「急ぎましょう」


 そう言って塚田さんは車を走らせていると。俺のスマホに着信を知らせる音がなる、確認すると田辺さんからだった。どうやら宮司二人と色々調べてくれたらしいので郷土資料館へ来て欲しいとの事だった。ここから近いな……行くか、どうにかして運命を変えなきゃ。

「塚田さん、田辺さんから何ですが郷土資料館へ来て欲しいそうです」

「そんな記憶は無いですね私には」

「でしょうね俺が今回頼んだ事ですから、向かって貰っていいですか?」

「分かりました」


 郷土資料館につく頃には薄暗くなっていた、荷物はそれぞれの武器を持って降りた。それ以外は一先ず車に載せておいた。中に入ると館長の田辺さんと……げっ! 何で刑事の鷲尾さんがココに!?

「ちょっとアンタ何ですか! その物騒な木刀は!」

「どうも鷲尾さん」

「何で俺の名前を? いやそれよりその物騒な木刀よこせ!」

 取り上げると悲鳴をあげた

「ぐっああああああああ!?」

 バッタリと倒れ込み気絶した。塚田さんはその光景を見て下を向いて笑いを堪えている。当たり前の話だがこの神三角刀は俺専用だ。誰かに奪われるかもしれない為の措置だったが……いきなり役に立ったな。悪いな鷲尾さん、暫く起き上がれないであろう。さて田辺さんと話をするか!

「すみませんこの刑事は何なんですか? 俺達の事をまさか?」

「いえいえそんな事は! ……なぜ鷲尾さんが刑事だと分かったんですか?」

「色々とね、有るんですよ世の中には……」

「それよりも話は何ですか?」

 本題を塚田さんが切り出す

「実は市長の件なのですが随分と長い間『黒い』事を行っていた様です……その件で鷲尾刑事とお話が……」

「なるほどね『黒い』ですか……塚田さん何か知ってる?」

「知っていたらとっくにヤガミさんに教えてますよ!」

「そして、かつて市長の元秘書が謎の自殺をしている事が分かりました」

 まさか……

「その事件を自殺としてではなく未だに追っているのがそちらの……」

 気絶した鷲尾さんに手を向ける。なる程そう繋がってくるのか。

「塚田さん……ちょっとコッチへ」

 気絶している鷲尾さんの元へ連れて行くと

「どうしたんですか?」

「いやね……もしかしたら鷲尾さんも記憶が戻るかも知れないんですよ」

「それは彼女の力と同じですか?」

「多分……俺と彼女は繋がっているので、力の一端は使えるんでしょうね」

「じゃあ力になって貰いましょうよ!!」

「簡単に言いますけどね……ものは試しか! やってみましょう」

 アイツがやる様にオデコを鷲尾さんと接触させると、パチッと火花が飛び鷲尾さんが飛び起きた。

「いってえええええええ!」

「ぐっは!」

 いきなり起き上がり思いっ切り頭を打ち付け合う。少しのたうち回ると。

「何すんだヤガミ! ってあれお前死んだよな?」

「おっ!? 俺が分かるの? 悪いけどそのへんの説明は塚田さんに聞いてくれ」

 塚田さんがまってましたとばかりに鷲尾さんに説明している。その間に田辺さんに話を聞いておくか。

「おまたせしました田辺さん、それで『黒い』事の件についても知ってる範囲を教えて下さい」

「これは、日枝神社と八幡神社の宮司達と十五年前の資料を探っていたのですが……」

「先代の宮司達もグルだったんだよ、裏も取れてる」

 鷲尾さんが話に割り込んできた

「って事は資料なんかはもう?」

「あぁとっくに押さえてある、だがそれだけじゃ弱いんだよ挙げるには」

「それってさ検察の仕事じゃないの?」

「俺は元秘書の件で、動いているんだよ。もし殺人なら」

「時効ってこと?」

「厄介なものを背負っちまったなお互いに」

「いやついでだ、この事件も解決させないと終わらせられない……」

 時間がない……クッソどうしていつもギリギリ何だ! 市長はどうにかして茉希ちゃんには悪いけど、豚箱にぶちこんで『罪』をニンゲンに裁いてもらう。問題はその方法だ……

「そうやって何でも背負い込むなよ! そんなんだからお前は……今は俺もいるだろうが!」

 俺の背中を鷲尾さんが叩く、ポカンとしていると。塚田さんと鷲尾さんが笑っている。

「ヤガミさんは分からないかもですが、鷲尾さんの探知能力なら彼女のお墨付きですよ?」

 そう言えばそうだった!

「田辺さん貴重なお話ありがとうございました。また連絡します!」

 三人で資料館を出ると

「ひさしぶりだなぁヤガミよ、お前の事は京子ちゃんからしっかりと聞いたぜ! やってやろうじゃないか!」

「頼むよ鷲尾さん!」

「だが一つだけ約束しろ」

「何さ?」

「死ぬな! それが俺と京子ちゃんが協力する条件だ」

 声が出せなかった……そうは云われても俺はもう……

「運命を変えるために来たんだろう? ならお前が死ぬ事だって俺と京子ちゃんが変えてみせる!」

 ここで鷲尾さんの目を正面から見て嘘をつくのは簡単だが、鷲尾さんには見抜かれるだろう。

「言えない事もある見てぇだな?」

「ごめん」

「大丈夫です私達には記憶があります、お手伝いできますから」

「取り敢えず明日には『呪い』との決戦が待っている、鷲尾さんそれまでに市長を蹴り落とせる証拠見つけられるかい?」

 腕に着けた腕輪を見せてくと

「コイツを着けていれば俺の力はより強力になるんだぜ、一端署に戻るぜ証拠品から探ってやるよ! ついてきな!」

 そう云うと鷲尾さんが車に乗り込み警察署へと走り出して行った。

「作っておいて良かったでしょう? ヤガミさん」

「どうせそのつもりだったんでしょう? って事はまさか……」

「もうヤガミさんは一人じゃ無いんです、私も鷲尾さんも茉希も……」

「ちょっとまって! 茉希ちゃんは駄目です中学生ですよ!」

「大丈夫ですよ、茉希は強い娘です。きっと受け入れてくれる筈です! さっ警察署へ行きますよ」

 有無を言わさず車に押し込められると警察署へと向かって行った……警察署へ向かう途中、中央病院の方へ視線を送るとハッキリと見える『それ』が

「塚田さんあっち」

「これ程だったんですね、でも何とかなりそうですね」

『そこ』には憎悪や悪意、怨念の塊が大気中に渦を巻いている。

「どうします?」

「鷲尾さんが言ってたでしょう! 情報収集が先です。ヤガミさん焦り過ぎです」

「分かりました」

 警察署につくと鷲尾さんが話をつけていてくれたようで、ロビーで待たせて貰う事となった。既に夜の八時を過ぎている、明日はアイツらと御対面だ。その為には『呪い』を弱らせて呑み込まれる必要がある、それは良いんだけど一応塚田さんに確認する。

「明日は決戦ですが、分かってますよね?」

「はい、流れは分かっています。ヤガミさんが呑み込まれる様にすれば無事に解決出来るんですね?」

「そうですね『呪い』については……完全に解決出来るでしょう、問題は……」

「おう! 待たせたな! わかったぜ、色々探って見たが一番反応が強いブツがあった」

「さっすが鷲尾さん! んでブツって」

「自殺した元秘書のスーツのボタンだ、コイツから尋常じゃない反応が出てる場所がありやがった!」

「どこさ!?」

「俺と京子ちゃんには因縁のある場所だよ、ココだ」

 地図アプリで場所を示す。

「何で……何でココに!」

 塚田さんが絶句すると

「まぁヤガミにはわからない事かもしれんが、最終決戦の場所だったんだよ。俺と京子ちゃんと茉希のな……」

「うっ嘘だッ!? そんな事、十何回も繰り返して来てもこのタイミングでソコに行ったことは無いぞ!」


 地図アプリは廃墟になったスポーツセンターを指していた。当然向かう事を二人に告げると。

「当たり前だ刑事の血が騒ぐぜ!」

「私はフォローに回ります」

「よっしゃ! 行きますか! でもこれは俺も初めての体験です。危険ですがお二人共覚悟は?」

「「出来てる!」」

 市役所の軽バンに三人で乗り込みスポーツセンターへと向かう、運転している塚田さんの手が少し震えている。鷲尾さんは腕輪を調節している。スポーツセンターに近づくにつれ気配が漂ってくる……これは『幽鬼』共の気配!

「ちっ!」

 塚田さんが舌打ちをする、そりゃそうだよなぁ……お手水の入ったポリタンクを持ち、走る軽バンの後部座席を鷲尾さんに支えてもらい開けて軽バンにぶちまけると

「塚田さん! このまま突っ込んで!!」

「行きます!!」

 『幽鬼』共が跳ね飛ばされて消滅していく、そのまま駐車場に入り駐車場内を縦横無尽に走り片っ端から『幽鬼』共を跳ね飛ばしていくが……そこまでは指示していない。塚田さんの恨みか? あらかた消滅させると、スッキリした顔で塚田さんが

「行きましょうか」

 こえ〜よ! 塚田さん!

「じゃあ安全策で行きましょうか、塚田さん三角結界作れます?」

「当然! 今の私には霊力が満ち溢れています」

「鷲尾さん?」

「どんとこい! 今の俺は五年後と違って若いからな!」

「もしかして塚田さん……」

「何か?」

 冷たい声で返事が返ってきた、触れないでおこう……車を降りると、さっそく三角結界を張りセンターの入口へと向かうと『呪力』で厳重に塞がれていた。二人に触れない様合図する。ヤッパリ何かおかしい、これに触れれば『呪力』の持ち主に気付かれる。大体分かって来た……どっかに穴があれば良いのだが。

「鷲尾さん呪力が弱い所探れないかな?」

「あん? そうだなぁ……ちょっと待て」

 鷲尾さんが意識を集中させて探っていると

「駄目だな……あるにはあるがあそこだ」

 指差す先は屋上だった、参ったなぁ……あれじゃどうせ入れないから『呪力』を張る必要がないって訳ね。悩んでいると塚田さんが

「ようは登れれば良いんですよね?」

「だから悩んでるんですけど……」

「簡単ですよ、よっと」

 塚田さんが三角剣を手に持ち屋上へと飛んで行った!? はぁっ!? 何で!? 上から声がする。

「今から三角剣を操作して上まで引っ張り上げますね。しっかり掴んでいて下さい」

 云われた通り鷲尾さんが握ると、鷲尾さんの身体が空中に浮き屋上へと運ばれる。すげぇな、要は応用なのだろう三角剣を飛ばして三角結界を作るのだから。要はイメージか目からウロコの発想だった。将来塚田さんは得意になる筈だったんだ、その記憶と今の発想流石……

「ヤガミさんの番ですよ!」

「落とさないでくださいよ!」

「鷲尾さんより軽いなら大丈夫です!」

 三角剣を握ると身体が浮いて行く、こぇえよこれ! 屋上に付くと塚田さんの額には汗が浮かんでいた。

「お疲れ様です。ここで休んでてもいいんですよ?」

「甘く見ないでくれますか?」

「上等です!」

 屋上のドアに『呪力』の結界は無かったそのまま中に入って降りて行くと埃っぽい、恐らく暫く人の入った形跡は無いようだ。鷲尾さんが先導する、入り組んではいないが『呪力』により歪んで見える。三角結界から出たら危険だろうね……スポーツセンターの事務所へと辿り着く

「あそこだ」

 鷲尾さんが指差す先には使われていない金庫があった。鍵は……かかってない『呪力』も感じない。普通のニンゲンならここ迄来れないと思っているのだろうけど残念だったね俺達には無駄だったようだよ? 俺ならば『呪力』と『幽鬼』共を跳ね除ける事ができる、良し行くか!

「金庫は俺が開ける、異論は認めない良いね?」

 二人が頷くのを確認して金庫を開けると一個だけメモリースティックが入っていた。探しものはコイツか? よく確認するとボロボロの紙切れもあったので回収する。よっしゃもう良いだろう。

「ここにはもう要は無いから纏めて吹き飛ばすよ。遺留品頼むよ鷲尾さん!」

「何を吹き飛ばすんですかヤガミさん!」

「この場所の瘴気諸共ね」

「茉希がやっていた事か?」

「イエス!! 俺の側についてて」

 神三角刀に神気を注ぎ込み蒼く輝きを放つ、刀と意識を同調させていく……今だ!!

「宣戦布告だコンのヤロー!!!」

 神三角刀から神気を地面に叩き付けると神気が烈風のように荒れ狂い『呪力』と『幽鬼』を纏めて消滅させていく。吹き荒れる風は窓ガラスまで吹き飛ばす。

「きゃああああ!」

「うおおおお!」

「うっひょー!」

「何でお前が驚いてんだ!」

「しょうがないじゃん! 初めてこの神三角刀を作ったんだよ! 加減が分からないんだよ!」

「そんな事より逃げるよ!」

 塚田さんの手を引き三人で出口から飛び出し車に乗り込み脱兎のごとく逃げ出した。

「鷲尾さん後をつける気配は?」

「ないな……大丈夫だ。このまま警察署まで急ごうぜ!」

「ふぅ~なら良かった、塚田さん安全運転で宜しく」

「まだドキドキしていますよ! でもメモリースティックに紙切れ気になりますね……」

 程なくして無事に警察署迄戻って来た。早速メモリースティックと紙切れを確認すると、やはりと言うか紙切れは遺書と名簿だった。

「ヤガミさん! 先代の宮司の名前もありますよ!」

「贈賄かなんかの名簿でしょうね、鷲尾さんメモリースティックは?」

「ちょっとまってくれ、警察署のパソコンで起動してウィルスとかあったら洒落にならん。おっあった!」

 古いノートパソコンを取り出して来た、早速メモリースティックを挿し込んで三人で、息を呑み画面を見つめると

『パスワードを入力して下さい』

「ですよね〜どうする?」

「任せとけ!」

 鷲尾さんが元秘書のスーツのボタンを取り出すと念じる。数分後

「わかったぜ」

 鷲尾さんがパスワードを入力していくと、ファイルが大量に表示された。

「どうやったの?」

「応用だな要はイメージだよ、探知出来るならパスワードを入力している所を探ればいいだけだ」

 簡単に云うけど、塚田さんと言い鷲尾さんと言い。この二人はニンゲンが持っては駄目な力を持ち始めている……俺は全てが終れば消滅するが……アイツらどうにかしてくれないかなぁ。

 解析には時間がかかるとの事で署に泊めて貰う事になった。鷲尾さんとその部下総出で解析にあたっている、塚田さんは旦那さんに頼んで着替え一式持って来てもらい夫婦で語り合い別れた。俺は寝ずに見張りをしていた、警察署のニンゲンを疑う訳ではないが今の俺が信用しているニンゲンは二人だけだ。もうすぐ日付が変わる。再会の時は近い筈だ……塚田さんがコーヒーを持って来てくれた。

「もしかしたら本当にヤガミさん生き残るかも知れませんね?」

「別に良いですよ、受給者も減っていい事じゃないですか?」

「気付いてて当たり前ですよね……」

「あっ! 嫌味じゃ無いですよ!」

「わかってますよ……ヤガミさん死なないで下さい……おやすみなさい」

 死なないで下さいか……それなんて死亡フラグ? いやもう死んでるけど!! 本当に締まらないなぁ俺って……

「おうヤガミ! 無事に解析終わったぜ。出るわ出るわ『黒い』のがな! 今検察の方に連絡している」

「それじゃ遅い……奴はきっと何かしてくる」

「安心しろファイルの中にとんでもない爆弾があったからな!」

「明日は決戦だろ、後ろは任せてくれ! 絶対に追い詰めるからよ!」

「なら任せるよ」

「おう! じゃ俺は書類作らにゃならんから頑張れよ!」


運命との決戦だ!!

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