第5話『向かうべき場所』
俺は塚田さんの奢りの朝食を黙々と食べていた。塚田さんはじっと俺を見ている……すると彼女の方から
「ヤガミさん、変な事を聞きますが……ヤガミさんとは去年の春先ぐらいでしたよね? 私が担当になったのは……」
「でしたっけ?」
そんな事を聞いてきた、そう言えばその時初めて合ったんだっけ。冷たい表情に寒気を覚えたんだよなぁ……
「ですが……私とヤガミさん何かありましたっけ?」
「あ~あれ? 気になったんですか?」
「えぇ何度も出会って繰り返しているような……そんな錯覚が酷いんです」
味噌汁を吹き出す
「きっと『呪い』のせいですよ! 収入報告でほぼ毎月合ってるじゃないですか……」
塚田さんが考えこんでいると、とんでもない事を聞いてきた。
「もし間違っていたらですけど……今日は八幡神社行くんじゃないですか? それと他にも行くところがあるんじゃないですか?」
ここは正直に答えよう、多分辻褄を合わせる事が出来る……と思う
「えぇ行きますよ、だから4WDの車を手配して貰ったんです」
「やっぱり……実は今朝二度寝した時に夢を見たんです……よく覚えていないんですが……」
そこまで聞いて俺は言い淀んだ、今戸惑いを持つのは危険な気がしてきて。
「まっまぁ行きましょう、まずは八幡神社からです」
「そうですね、分かりました」
にっこりと微笑む塚田さんは、確かに美人だが何時もの眉間のシワがなくなり年相応の顔だ。こりゃこっちは上手く行きそうだ!
席を立ち会計を済ませる、自動支払機のおかげで人に触れる事なく店を後にした。
車を走らせ約10分程で最初の目的地、八幡神社へと着いた、ここは五泉市でも最も有名な神社であり夏と秋には大きな祭りが行われている。車を降りる何故だろうもクソもないが『呪い』のせいで、この神社からは神気は微塵も感じないのはアイツがいないからだ。ここの不思議な気配を戸惑いながら塚田さんも感じているようだった。
境内を歩き社務所に向かう宮司に会えるよう話をつけてもらう。それまでの間俺は境内の中を見渡してみた、やっぱりおかしい。何か違和感がある、今までとは違う気配を感じる。クッソ! 試しに神気を一時的に全力解放してみると。
「きゃあ!」
塚田さんが尻餅をついた、が気にせず気配を探る。いるな……数は二人……もしくは二体か……どっちにしろ悪いけど塚田さんが邪魔だ。
「塚田さん神社の中に入ってください、何かおかしい!」
「なぜですか!」
「良いからさっさと入る!!」
神社内に押し込み全ての窓口を閉めていき神気でロックを掛ける。これで狙われるのは俺だけの筈だ
「ヤガミさん! 教えて下さい! 何が起きているんですか!」
窓口の中から塚田さんの声が聞えるが無視する、既に気配はすぐそこまで来ている。現れたそいつは『幽鬼』だった。
「何でコイツラが! 嘘だろう!? 『呪い』でも嗅ぎつけて来やがったか!」
おかしい幽鬼共が現れるのは五年後の筈だ。幸い神気と実戦経験だけは何十周もしている事もあるので、事もなしに片付けた。嫌な予感がする。すると塚田さんが戸惑いながら声をかけてきて呼ばれた、宮司の準備が出来たらしい。
部屋へと通される、そこには宮司である杵渕という人物が居た。
「時間が無いので率直に伺います」
挨拶など無駄だと思い俺はそう思い話を切り出した。
「今この市には始まっている『呪い』についての見解が聴きたいのですが?」
「それに関しましては私の先代の宮司が、合併に付き土地神様に関する祭事を一切行なっていなかった事が、調べた結果分かりました」
「その先代の宮司は?」
「既に亡くなっています去年の事です、確か夏が過ぎたぐらいでしょうか」
そこまで聞いて俺は塚田さんに
「塚田さん今すぐに調べて欲しい事が有ります、『彼女』の誕生日を調べて下さい」
ここからの話は聞かれたくないのでわざと席を外す様な事を頼んだ。
「直ぐに確認します」
と言いスマホを手に部屋を出て行った
「それでは話の続きを伺わせてもらいます、良いですね?」
宮司は頷く
「貴方は市長の汚職などの事は御存知ですか? この『呪い』の本当の標的は市長ですよ」
「恥ずかしながら汚職、贈賄など利権に関わる噂程度ならば知っています」
「先代も関わっていた様で……」
どうやら碌でもない先代様だった様だ、一応聞いてみる。昨日ネットで調べた情報だが確認しておきたい。
「宮司さん! その時の資料なんか残っていませんか? 今この市を救う為には必要なんです!」
「なぜでしょう……アナタの言葉には強制力を感じます……分かりました探して見ます」
「すみません後どうしても確認しておきたいことがあります、地図帳ありますか?」
「それならばある筈です、少々お待ち下さい」
宮司と入れ替わるように、塚田さんが戻ってきた。
「分かりましたか?」
「はい、八月十八日でした」
「恐らくは当たりですね、『彼女』に顕現した頃に発動したのかと思います」
塚田さんはそう言った。合併に関わった者には特に強烈な『呪い』が発動している様だ。となるともう1つの神社も似たような可能性が高い。
宮司が地図帳を持ってくる、早速作業に取り掛かる。こればっかりは今現在のスマホの地図アプリでは出来ないからである。
俺は定規と鉛筆を借りて、ネットの情報通りであれば有るはずだ。現在地を確認する其処から近くにある筈の名前をすぐに見つけ出す……一つニつ三つ、あった! 其処には、熊野神社と記されていた、他には同じ名前の神社は無く近辺にはこれしか神社が無い事も確認しておく。俺は見つけた神社を定規と鉛筆で線で繋ぎ合わせる、すると八幡神社を中心に三角形が出来上がった。
良し! これも何時も通りだ、ついでにもう1つの神社も調べる、すると同じ様に三角形が出来上がった。
日本古来より伝わる結界と言われる物がある、其れはある物どうしを繋げ三角形にする事で出来るものであると言う。何故三角形なのかは其処までは書かれてはいなかった、恐らくは何かしらの意味を持つのだろう。
「それで何か?」
彼女は訪ねてきた、宮司も不思議そうな顔で見ている。この神社を中心に三角形の結界が張られていることを地図を見せながら説明した、つまりは
「俺達は力こそ弱いけれど今結界内にいるという事です、塚田さん腕を見せてください」
彼女が袖を捲くる、そこには『呪い』が付けられたと思われる跡がぼやけていた。どうやら結晶の効果もあるが現在地でも効果は有るらしい。
「これは驚きですね」
物凄く驚いていた塚田さんを尻目に宮司さんに話しかける。
「では私に『呪い』が無いのも?」
「恐らくは、それに貴方は当事者ではありませんし結界の中に居ることで護られているのだと思います」
「ですので、さっきの話を日枝神社の方とも共有して何としても見つけて下さい」
「分かりました、連絡先は?」
「郷土資料館の田辺さんに連絡して下さい」
「八神さん貴方の主張だとこの範囲内にいる住人は『呪い』に対しては無事という事ですか?」
「いえ持ち込まれたらアウトでしょうね……」
「ではここに来た意味は?」
「自分の目で八幡神社の様子と、調べていた事の情報の確認ですね」
「宮司さん? さっきの話だと、もしかして日枝神社の内情も似たようなものではありませんか?」
「はい代替わりしております」
「だったら尚更洗いざらい調べて下さい! 良いですね!」
それならばそっちに向かう必要はなくなった。ならば次の場所へ急ぐべきだろう
「宮司さん有難うございました!」
「八神さんもう行くのですか?」
「えぇ!」
二人でお礼を言い部屋を後にする、車に向かう間彼女は右腕を見ている、確かに痣はボヤけている……だが
「先に行っておきます、次に行く場所は結界の外になります、また『呪い』が進行する可能性があります。貴女さえ許可してくれれば俺が運転して向かいますが?」
「助かります! どちらにせよ遅かれ早かれ『あれ』の『呪い』が完全に消えなければ明日があるかも分からないのですから……それにヤガミさんも気になります」
「だから私も行きます」
車に乗り込む、次の目的地を彼女に伝えた。
「かなり山奥ですね?」
「えぇ! だから4WDをお願いしたんです、万が一の為に。ガソリンは?」
「ほぼ満タンです、先方には連絡は?」
「多分連絡しなくとも大丈夫だと思いますよ、本物だからね」
「はぁ?」
彼女は気の抜けた用な返事をすると、目的地に向かい走り出した。大雪の影響から町中は渋滞だ横道に入り広域農道へと向かう、除雪の心配をしていたが流石に素晴らしい除雪技能の持ち主が居る市だけあり、道路は綺麗に慣らされている。
目的地には順調に向かっている筈だった、何だか塚田さんの様子がおかしい……来たか。『呪い』の仕業だ目的地に近付かせない為の……其処まで考えて
「塚田さん、身体に異常とかありませんか?」
「先程から右手が痺れて感覚が無くなり始めてます……」
右手の部分に黒い靄が見える。不味いな……突然塚田さんの右手が俺の首元まで伸びて首を絞めてきた。
「ちょっと! 危ないでしょうが! 離して!」
車は蛇行運転を始める、とんでもない力で首を絞められていく。
「塚田さん、動いたらでいいので右手を俺の首から離して下さい! ヤバいです」
彼女は何とか右手を俺の首から離そうとするが……
「ごめんなさいヤガミさん! 右手が……右手がどうしても言う事を聞かないんです」
仕方がない!
「塚田さん! ちょっとビリッとしますよ!」
「えっ?」
首元から塚田さんの右手の『呪い』へと神気を流す。
「きゃあっ!」
パチッと蒼白い火花が発すると、塚田さんの右手がだらんと落ちた。これで取り敢えず彼女の右手が暴走して交通事故の心配は減ったと思う。
「ヤガミさん今のは? 右手が麻痺してるんですが……」
「もう直ぐ目的地です! このまま向かいますよ」
俺はそう言うとスピードを上げた、彼女だって右腕が辛いだろうに。何とか呼吸を整えて走らせる。
目的地まで後、数キロの看板が見えた! 目的地を目指す。
そして、看板が見えるこれより先
『霊峰白山慈光寺』
看板を通り過ぎ目的地に近づくにつれて塚田さんの顔に生気が戻ってくる。
車を降り辺りを見渡す、そこは大雪と迄はいかないが明らかに市街地よりも少なく見えた。
「やっぱりな」
一人呟く、空気はいつ来てもピンと張り詰めている。何だか背筋を伸ばすと身が引き締まる様だ。この感覚八幡神社では感じられなかった感覚だ、塚田さんも感じ取ったらしい二人でお互いに無事である事を確認しておく。
「良し! 行きますか」
これから向かおうとすると境内の向こうから三人組が近づいて来る。一人は宮司のジイさんだな、そうするとあとの二人は巫女さんてところか、手になにか持っている様だが。俺には必要無い宮司のジイさんが口を開ける。
「随分と禍々しい気配が近づいて来たと思えば、女性の方穢れておりますね。話したいことが沢山お有りのようですがそのまま境内の中には入れませんな」
「彼女をさっさとやっちゃって下さい」
「何ですと? いや貴方は……もしや」
「どういう事ですか! 何故私だけ入れて貰えないのですか?」
塚田さんが聞く
「そのまま境内の中に入れば、貴女に取り憑いている者とは別の力によって死にかねません」
「ですので此方へ」
俺達は鳥居の近くにある手水舎へと案内された、あぁそうか神社に入る際には身を清めなくてはならない事を思い出した。
「先ずはそちらの女性の…」
「塚田と申します」
彼女はどんな時でも強い、だがこれから起きる事を考えると顔がニヤける。
「それでは塚田さんこちらのお手水で手を洗ってみて下さい特に右手を」
このジイさんさん見てもいないのに彼女の『あれ』に気付いた。やっぱり本物だったんだと確信する。
そして彼女が水に手を付けた瞬間
「ぎゃあああああっっさっさああああああ!!!!」
とんでもない悲鳴を上げた、あんなに強い人が物凄い悲鳴と言うか絶叫である。俺も手伝うか!
「ちょっと待って下さい! ヤガミさんまで!? 何ですかこれは、あっちょっと腕を掴まないでください危ないっっああああああああああああああああ!!!」
二人の巫女と俺に押さえつけられ腕をさらに水に付けられる。
「腕が焼けるううううううう!!」
「気にしない気にしない! タップリと浸らせましょうね塚田さん」
「大丈夫ですそれは貴女の腕の痛みではありません穢れが、浄化されるのをあらがいがって貴女に与える幻覚症状の一種ですな」
「ぐああああああああああああっ!?」
塚田さんが暴れ回るものだから押さえつけていると、凄い勢いでオデコをぶつけられた。
「「痛っ!」」
「はぁ……はぁ……」
と塚田さんは肩で息をしているどうやら、お清めは終わった様だとなると
「それでは貴方は」
「ヤガミと言います」
お手水の前まで来て清めながら塚田さんの方を見る、巫女から何か渡されそれを飲みまた絶叫を上げていた。
「大丈夫ですか塚田さん?」
俺の顔をじっと見るなり突然往復ビンタの連発をくらい、俺の意識は途絶えた……
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