第3話『小さな変化』

「この呪いは伝播するんです!!」


 塚田さんはそう云った伝播しますと。つまりそれは……状況は今回も同じか

「まさかとは思いますが既に?」

「はい、彼女のミイラ化が進んで行き。その時手当に当たった看護師それも女性の看護師が、既に衰弱をしています」

「今の彼女に取り付けられている点滴などを付ける際に、恐らく触れたからでしょう。男性の看護師は今の所問題ないので彼らが点滴の交換などをしております」

 部屋を見渡すと、ベッドから少し離れた所に点滴台があった。ふむ……ここも変わらずか。

「万が一男性看護師にも『呪い』が伝播しないよう、点滴の位置も離してあります」

 成程ね『呪い』がある事がこれ迄と同じだと言う事は理解した。目の前に『それ』は有るのだから、しかし疑問が残る。無駄だとは思うが一応聞いてみた。

「なぜ茉希ちゃんが呪われたかわかります?」

「茉希ちゃん!? 今日のヤガミさん色々おかしいですよ!」

 しまった……またやっちまった! まっ良いかこのまま突き進んでやる!

「さっきの事といい何なんですか! こっちが教えて欲しいですよ!!」

「良いから答えてくださいよ」

「まっまぁ……ヤガミさんに会わせたい方がいますので、詳しくはその方から現状の見解を伺って下さい」

 現状ねぇ? どうしろと言うのだろうか『呪い』は別の形でケリをつけるつもりだ。初めての時は、俺はオカルト的な物は普段からビビりなのでなるべく見ないようにしていたぐらいだった。それなのに目の前に『これ』があったんだ。そりゃあ初めての時は鼓動が早くなるし足はガクガク震えて胃のものは逆流しそうだったんだ。そりゃ逃げたくもなるよ……まっそれはこれ迄の話だ、今回は記憶がしっかりと残っている。対策も練ってある、上手くいくかはいつも通り出たとこ勝負だけどな!

「取り敢えず『塚田さん』から取り掛かれば良いんですか?」

 そう聞いてみた、塚田さんは驚いた顔をして答えた。

「何で『私』が呪われた事を!?」

「ちょっと失礼」

 そう言って彼女の服の右手の袖を捲り俺は確認した。右手首には手で握られているような跡があった。

 ほらあった塚田さん触れてしまったんだよね。それにしても随分と塚田さんが表情豊かに取り乱している、きっと本来の性格はこうなんだろう。冷たく冷徹に市民と付き合うのは職務によるものだろう。それはそれとして……

「塚田さん、触れたんですよね?」

「はい……昨日触れてしまいました……自分でも無意識のうちに一瞬ですが、同席して下さった方にすぐ引き離されましたので、この程度ですみました……」

「ですが……この手の跡は私にしか見えてないみたいです。昨日より右手が重くなって来ています……恐らく『呪い』のせいでしょう」


 塚田さんが滅茶苦茶凹んでいる確か今までは冷静に事を進めていた筈だ。多少変化が起きている? 塚田さんは既婚者だ娘さんもいる。『呪い』の他にふと思い出す。あ〜こっちの件もどうにかしなきゃいけないのか……本当にどうしてああなったんだ……

「塚田さんの家庭の事情は解りませんが、昨日から帰ってないですよね?」

「何でそれを!? あ〜えっとはい、私には娘がいます『呪い』が万が一娘に向かう事だけは避けたかったので」

「んで引きこもってるんですよね?」

「言い方が他にもあるでしょう!? 確かに昨日から職場も1人で活動出来る様に、先程の小会議室に閉じこもって居ますけど! 同僚に迄『呪い』が伝播してしまっては更に増えてしまいますから……」

「『これ』が解ける迄は私は家に帰れません。ですが解く方法さえ分かれば、他にも救われる人達が居るんです!」

「そりゃそうですよねぇ」

「既に伝播してしまっているという事です、まず『彼女』の友人、そして看護師、関わりがあった人達が犠牲になりつつあります。」

 そりゃそうなるだろうと思ったが

「確認しますけど、皆女性ですよね?」

「はい、女性ばかりです」

「犠牲になりつつあると言っていましたが今その人達は死んでしまったんですか?」

「いいえ『呪い』で死んだ人は今の所いませんが衰弱死の恐れがあります」

 死人が出ていない!? そりゃおかしい以前は既に何人か死んでいた筈だ……何かが違う?

「ここ数日の内に何件か緊急搬送されて衰弱していく中には『彼女』の友人がいたことも確認済みです」

 『呪い』自体は既に伝播しつつあるって事か、そして皆が皆塚田さんの様にはっきりと『呪い』の痣のような症状が発現していないと。そしてまだ誰も死んでもいない……腑に落ちないが調査を進めようとするか!

「何で塚田さんの右手には、はっきりと痣のような物がついているのに他の人には見えていないんですか?」

「それに付いては分からないとしか言えません」

 う〜んそうなんだよな……女性ばかり『呪う』アイツは五泉市民を根絶やしにする程の怒りでこの『呪い』を顕現させた。原因を知ってるだけに胸が苦しくなる。ここからどうする? 一気に話を飛ばすか? それとも……小さな変化を確認しつつ進めるか? 


  熟考したが……よし! どうせ運命はある程度決まってる、なら小さな変化を確認しつつ進めよう。

「御祓いとか試したんですよね?」

「はい宮司二名による御祓いを行ったのですが効果はなかったとの事です」

 そりゃそうだ『呪い』の正体がアイツらだからなぁ……そもそもあの宮司達に霊力何て無かったはずだ……あっそうか! 塚田さんには霊力がある事を俺は知っている。だから『呪い』が塚田さんにはハッキリと見えるんだ! だから俺にも『呪い』が初めてかかった時見えたのか! と言うことは……俺も最初から霊力があったって事かよ。数十回繰り返すなかで初めて気が付いた。良し! やる事が増えてきた、取り敢えず続きを始めようか。

「土着神がどうとか言ってましたっけ?」

 そんな話をしてたんだよな確か

「それにつきましては、お会いして頂きたい方がいらっしゃいます」

「分かりました会いましょう! と言うか早くこの部屋から出ますよ。ほらっ早く!」

 『これ』がある部屋に居たのだ、その事を思い出し塚田さんの手を引っ張り『それ』に向かい。

「またな!」

 と言い残しその場を後にした。




「ちょっと離して下さい! もう大丈夫ですから!」

 手を掴んだまま率直に言う

「塚田さん……悪い事は言わない家に帰りなよ家族が心配なら問題無い」

「どうしてそんな事が分かるんですか!」

「この『呪い』は娘迄……」

「そう思うでしょ? 何でかはこれから分かるはずです!」

「ええぇっ!?」

 戸惑う塚田さんを連れて小会議室に向かうとお客さんが来ていた。人当たりの良さそうなおじいさん、六十過ぎぐらいだったか? こちらに気づくと俺に近づき挨拶してきた。

「はじめまして郷土資料館館長の田辺と申します」

「やっヤガミさんこちらの方が貴方に合ってもらいたかった方です」

「こりゃどーも」

 手を差し出されたが状況が状況なので、丁重にお断りした。すると察してくれたのか、語り始めた。

「さてヤガミさん、貴方はもう見ましたね『あれ』を」

「ええ見ましたよ『彼女』の事は」

「土地神様の話も聞かれましたか?」

「土着神の事ですか?」

「まあ正確には土地神様ですね、今この市には厄を退ける程の力を持っている土地神様は、いらっしゃいません」

 いないどころか現在絶賛『呪い』を振りまいてるんだよねぇその神様……

「でしょうね、それは聞いています、原因と言うか心当たりがあるんじゃないですか?」

「不思議な事を言いますねヤガミさん……確かに十五年前この市は、市町村合併によって五泉市となりました。その時あろう事か土地神様への祭事を行わなかったのです」

「私は、その時市長と合併前の町長にも進言しました土地神様を疎かにしてはいけないと、結果として合併による目先の利益にしか興味が無いのか聞き入れても下さいませんでした」

「この土地は江戸時代から連なるものです、それから幾度かの長い年月をかけて併合を繰り返し、その都度培われていた土地神様への祭事を行っていたのです」

「十五年前、私は危惧しておりました。結果『呪い』が起きました」

 そこまでは理解している。問題はこのおじいさんが信用できるかどうかだ……一応一通り聞いておくか。

「何故十五年目の今起きているんですか? 五年目十年目の時は何も起きなかったんですか?」

「兆候は少なからずありました、日照り、長雨そして大雪、しかし一番の『呪い』は『彼女』から始まりました」

 茉希ちゃんか……必ず助けて真っ当な人生を歩ませる。近い将来、彼女が俺達の尻拭いをする事になる。それだけは絶対に避ける!

「『彼女』の体調が崩れたのは、十四歳の誕生日を迎えた後からの事だそうです。江戸時代女子は十四歳を迎えると成人となるそうです、この『呪い』はそれまでの歳月土地神様のおかげで抑えられていた事になります」

「よってこの地に有る『悪意』『憎悪』など祓って抑え込める存在が居なくなり、江戸時代に成人とされていた十四歳になったことで、取り憑いていたであろう『彼女』を媒介として顕現した事になります」

「以上が私の今回派生している『呪い』の見解です」

 改めて塚田さんに確認してみる

「塚田さん、今の市長ってもしかして?」

「はい、合併を推進させた当時からの市長です」

 ですよね〜知ってた

「合併前の町長はその後どうなんですか?」

「合併してから四年後自殺しています、遺書なども残されておりませんでした。その後、遺族は別の街へと移ったそうです」

 田辺さんが答えた。

「ヤガミさん、それでは私は失礼致します。何か聞きたいことがあれば連絡を下さい」

「ちょっと待って! 勝手に帰らないで下さい、俺からも話があるんですけど」

「なっ何でしょうか?」

「市町村合併による目先の利益ですよ、よっぽど。あま〜い汁が出てたんじゃないですか? 知らないとは言わせませんよ」

「この『呪い』を解く為にどうしても必要な事なんです。どうせ汚職に贈賄、談合やら不祥事何か掘り起こせば幾らでもあるんじゃないですか?」

「ですが私にもそこまで詳しくは……」

「協力してもらいますよ、嫌だって言ってもね。この『呪い』を完全に無くす為に!」

「「えっ?」」

二人共驚いているが……

「既に田辺さんが答え言ってるじゃないですか! 市長ですよ原因は! だってそうでしょう? 茉希ちゃんが根源となっているのは!」

 目の前の欲にくらみ貪り甘い汁だけを啜る醜いニンゲン、茉希ちゃんごめんねコイツだけは許せないんだ。俺を憎んでくれてもいいから……

「ヤガミさん! 市長をどうするつもりですか?」

塚田さんが取り乱している。

「二度と政治家を名乗らないように! 人前に出られない位に精神的にも徹底的に叩き潰す!!」

「無茶言わないでください! 市長を訴えるつもりですか!」

「そのせいでいつか衰弱しきって死ぬ人もいるんですよ!」

「『呪い』の根源となった茉希さんはどうするんですか!」

「そっちは問題無いです、茉希ちゃんが死ねば『呪い』は依代を失います。だからあんなミイラ状態で生かされてるんですよ! ……多分」

 って事にしておこう……反論があると思っていたら

「ヤガミさん私はお手伝いできるかも知れません」

 田辺さんが言ってきたので、神気を飛ばしてニンゲンの反応を見る。嘘は付いていないな……邪な考えのニンゲンには呪力が宿り神気に反発する。田辺さんにはそれが無い、つまり一応は信用できるか……これが得意なヤツもいるのになぁ


 さっそく連絡先を交換し、田辺さんは小会議室から去っていった。

「ヤガミさん何でも良いんです、何かあればそれだけでも前進する事ができるんです」

 そんな事を塚田さんは言って来る、あぁこの人も『あれ』の被害者であり娘を持つ母親だっけ。

「ああぁ……そう言えばさっきの話ちゃんと聞いてました? 『呪い』は十四歳から発現するんですよ。ヒカルちゃんでしたっけ? まだ二歳でしょ?」

「何で娘の名前と年齢を知っているんですか! 何なんですかヤガミさん! 色々おかしいです! 混乱してきましたよ!」

「どうでも良いですよそんな事! さっさと帰ってヒカルちゃんと、特に旦那さんをしっかりと愛してスッキリしてから来てください! 今日は解散!! OK?」

「そんな事!? スッキリ?」

塚田さんの顔が真っ赤だ

「詳しくは明日話します、俺も帰ります。い・い・ですか! ちゃんと夫婦で愛し合って下さい。じゃないと『呪い』消えませんから」

「じゃないと死ぬでしょうね、可哀想に……娘さんと旦那さんを残して死にたくはないでしょう?」

「分かりました帰ります、ですが!」


バッシーン

躱さずに頬で受け止める、やっぱり塚田さんの平手打ちが一番痛い

「家庭の事情に踏み込むにも限度があります! ふんっ! 言われなくても愛し合って来ますよ!」

「そりゃ良い事です、じゃまった明日〜」

 逃げる様に去っていく今日はここまでだな、明日には山へと向かうか……嫌だなぁ……『あれ』作るの……悩みながら家路についた。

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