第10話 お前が必要なんだよ

 走って、走って、走ってそれでも楓は見つからなかった。

 息も上がって、だんだんと肺も苦しくなる。こんなに探しても、楓は見つからない。


 そして、さらに雨は強くなる。雨で濡れた髪の毛が水分を含み、ずっしりと重くなる。


 雨のせいで視界も悪くなる一方で、本当に見つけられんのか、いや、見つけるんだよと自問自答を繰り返していた。


 その時、カンカンカンッと近くで、踏切の音が聞こえた。

 いつもはあまり、聞こえないのだが、今日は何故かはっきりと鮮明に聞こえた。


 まるで、誰かが、私を見つけてと言っているかのように


 しかし、それと同時に焦りを感じる。まさかとは思って最悪の事態を考えて青ざめる。


 急いで踏切まで、走る、今は自分のことはどうでもよかった、ただ一人、親に愛されなかった女の子のために走る。


(女なんて大嫌いなはずなんだけどなぁ)


 変わったな俺も・・・・・・と思いながら、ただ走っていると、踏切の近くに突っ立ってる女性を見つけた。


 暗くてあまり見えなかったが、楓だと蓮は分かっていた。

 楓は、やはり踏切に身を乗り出そうとしていた。ーーそう彼女は自殺をしようとしていた。


(やっぱり自殺しようとしてやがった)


 彼女の腕を引っ張り、自分の方に抱き寄せるその反動で、地面にしりもちをつく。


 ブロンドの髪が濡れてずっしりと重さを感じる。楓はゆっくりと振り返って、あぁ早坂君と気の抜けた声を発する。


 その次の瞬間、電車が、ガタンガタンと音を立てながら通過した。

 間一髪かんいっぱつだった、間に合わなければ今頃電車の下敷きになっていた事だろう。


「何してんだ馬鹿かお前は!」

「早坂君も聞いてたでしょう?私は必要とされてない産まれてこなければよかった、価値のない人間だって」


「本当に思ってんのか?それ」

「思いたくないですけどっ、嘘だと思いたいですけど、信じてた母にまでもし、そう言われてると思うと耐えられませんっ」


 そう言って今でも泣きそうな目を俺に向けてくる。それはまるで、もう楽にさせてくださいと俺に願っているようなものだった。


 まだ、雨は降り続けている。楓の心を表現するかのように、強く、悲しく、冷たく雨は降り続いて、蓮達の体を濡らす。


「お前の父親や楓は必要とされてないと思ってるけど、お前を必要としてる人だっている」

「居ませんよ、クラスの人達だって、本当の私を知らずに、外見だけで、近寄ってくる人達だけです」



 私を必要とする人なんて、先生も友達も家族ですら居ないんですよ、と震えいて、何かをうったえている様な声で言ってくる。


 俺はグッと息を飲み、大きく息を吸って、少し緊張していた体を落ち着かせて、覚悟を決めた。


「俺が・・・・・・俺がお前を必要としてるんだよ、俺にはお前が必要だ」


「え・・・・・・・・・」

「だからもう、自分には価値がないとか、産まれてこなければ良かったなんて思うな」


 今まで我慢していたのだろう、一気に瞳から涙があふれてくる。家を飛び出した時よりもずっと、涙を流していた。


 俺はなぐさめる事はせず、ただそっと抱きしめた。


「見ないでくださいっ、恥ずかしいです」

「今更恥ずかしいなんてないだろ?」

「ありますよっ・・・・・・」

「分かったよ、見ない見ない」


 そう言って、楓が泣く声や、鼻をすすってる音は聞こえるが、顔を見たりはしなかった。


 蓮はそっと自分の胸で楓を抱きしめて、泣き止むのを待っていた。


「産まれてこなければ良かった人間なんて居ないんだよ、誰もが産まれた時から幸せになる権利を持ってるんだから」


 楓が泣き止んだのは丁度30分くらいだった。その間ずっと泣いていたので、光に照らされる時目の下が赤くれ上がってるのが分かる。


 俺は立ち上がり、座っている楓に慣れない笑顔で


「帰ろう


 立てるか?と言ったところ、泣きすぎて気分が悪くなったらしく、仕方なくだが、楓をおんぶして、さっき走ってきた道を戻る。


 その時にはもう雨は止んでいて、雲の間から月の光が差し込んでくる。


 月の光に照らされて、いると楓は俺の背中でスースーと寝息ねいきを立てながら眠っている。


(まったく・・・・・・大人のフリしてるけど、結局は子供なんだよな俺も、お前も・・・・・・)



 二人で少しずつでいい、少しずつでいいから進んで行こうと、月の光に背中を押された気がした。




あとがき


早いですが、一章はこれで終わりにしますっ!


二章も読みたいと思った方、レビューやコメントどしどし、待ってますっ!










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