プロローグⅡ
「君は、白馬の王子様になりなさい」
預けられた孤児院の一室で、口髭を蓄えた老人が言った。
「……」
「はは、やっぱり乗り気じゃないね」
押し黙る僕を見て老人は苦笑いをする。当然だ、僕は父さんを殺されたばかりなんだから。そんなタイミングに、里親希望でやってきた人がこんなことを言ってきたら、誰だってこうなる。
僕を助けてくれた命の恩人だから、期待してたのにな。
「冗談を言いにきたなら帰ってください。なんなんですか、白馬の王子様って」
「白馬の王子様は『お姫様を守る、お姫様のための騎士』だ。僕は現代の騎士道だと思ってる」
「騎士道……」
「そう。君の両親が教えていたものだ。僕はその在り方を示しに来たんだよ」
「……僕はアーサー王になるんです。そう父さんたちと約束したんだ。だから白馬の王子様になることはできません」
僕は老人の提案を断った。それを認めてくれる人はもういないけど、それでも約束を破るわけにはいかない。
「それについては心配ないよ。日本においてアーサー王は、白馬の王子様の代名詞として扱われることがある。だから両親と立てた誓いは、君が白馬の王子様になることで果たされるんだ」
「……そうなの?」
「そうなんだ。仮に違っても、君がそうだと示せばそれは真実になる。どうだい? 荒唐無稽な話じゃなくなって来ただろ?」
「けど……」
それでも僕は乗り気にはなれなかった。彼の言葉は魅力的だったが、最初があまりにも突拍子なかったせいで、胡散臭さを払拭しきていなかったのだ。
せめて、彼のことを信じられる何かがあれば──
「そして、君はとある少女の夢を見ているはずだ」
そんな僕を見透かすようにローレンスが言った。
「な、なんで知ってるの⁉」
この言葉に僕は心底驚かされた。僕が少女の夢を見ていることは、誰にも話したことがなかったからだ。
「私は君のことならなんでもお見通しさ。君は彼女のことが好きなんだろう?」
「……うん」
少し恥ずかしさを覚えながらも、僕はそれを肯定する。
「彼女こそが君のお姫様なんだ。君たちは出会うとたちまち恋に落ち、将来を誓うことになる。
しかし彼女はとても大変な境遇にいてね。君が守らなければすぐに死んでしまうんだ。
だから君に白馬の王子様になってもらって、生涯かけて守ってほしいんだ」
ローレンスは断言するように言った。
この言葉は僕にとってあまりに魅力的だった。彼女は僕にとって光そのもの。どれだけ手を伸ばししてでも掴みたい存在だからだ。
そして──
「わかった。僕は白馬の王子様になる。そして、彼女を生涯をかけて守り抜く!」
僕は覚悟を決める。今までの人生を否定しないために、果たせなかった約束を果たすために。
こうして僕はローレンスに引き取られ、白馬の王子様を目指すことになった。
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