第十四話 続・質疑応答編
しかし、だとしたら、だ。
目の前のこのJK霊能者のことも、十分に疑惑の対象に入ってしまうことになる。
報酬等の金銭は要求していないのだから詐欺師ではないのだろうけど、力を持ちながら困っている人間を助けてくれない人間として。
無言の内にそんな疑念が視線に込もってしまっていたのか、目の前のJK霊能者は妙に冷ややかな笑みを私に向けた。
「何を信じるかはあなたたちの自由だよ。結局のところ、それはこの分野が相手じゃなくても何にでも言えることだからね」
「……うん、わかってる」
そう、わかっていた。
こんなことは対象が霊能力なんていう非科学的な分野じゃなくても、何だってそうなのだ。
たとえば、自治会長たちがついに霊能者の人たちに相談を始めることにした、それよりも前の話。
様々な専門家の人たちにこの団地の現状を相談した。
建築、音響、不動産、etc……。
それらに対しても、結局私たちは深い見識を持ち得ないのだ。
ないのだから、言われたことを信じるしかない。
具体的な例をあげれば、壊れたエアコンの修理を依頼しても全然直ってなかったとか、たまに聞くもんね。
だから私の気持ちとしては、いやらしくも堂々と営業トークを始めていたあのおばさんよりも、目の前のこの女子高生を信じる方向に傾いている。
と、そこで彼女以前にこの団地を訪れた、あのおばさん以外の自称霊能者たちの顔が脳裏に浮かんだ。
「あのおばさん以外にもしっかりと報酬を要求しておきながら結局何も解決してなかったってことがあったけど、みんな詐欺師だったってことになるのかな」
「どうだろうね。中には見えるわけでもないのに自分のやってることに除霊効果があるって本気で信じてる人もいるからね」
「何それなんか切ない……」
「まぁ何も解決してないことを連絡して無償で対応してくれるなら詐欺ってことにはならないんじゃない? そもそも連絡がつなかなったら完璧に詐欺だけど」
「それは試してないな」
「さらに付け加えると、あのおばさん以外にもかなりグレーに近い、ギリギリ霊能者って言っていいかもしれないレベルの人がいたみたいだね」
「それも団地にいた霊に聞いたの?」
「うん」
まさに障子に耳あり、だな。それどころかどこにでも耳がある。
……一体誰だろう。
黙って続きを待っていると、JK霊能者の口からは信じられない言葉が飛び出してきた。
「なんかYouTube用の動画撮りに来てた若い男の人がいたんだって?」
「うん、いたけど」
え、嘘だよね?
軽く混乱に陥りかけている私の胸中なんて知ったことじゃないとばかりに天ノ宮さんはあっさりと言った。
「その人」
まさかの大穴だった!
あの心霊系兼迷惑系兼中二病YouTuberが!?
「その人が持ってたデジカメ、厳密に言うと除霊も封印もできないけど霊が嫌がって遠ざかっていく効果はあるみたいだね。弱いからすぐ戻ってくるけど」
今時デジカメでYouTube用の動画撮ってるのって疑問に思ってはいたけど、まさかデジカメであることにそんな意味があったとは……。
まさに劣化版射影機じゃん……。
「でもあの人は報酬は要求しなかったよ」
「そこは動画で稼げるし、あるかないかもわからないくらいの除霊効果なのは自覚があったんじゃないかな。自分の微力がもしも何かの力になれるならって考えだったんだと思うよ。それを考えると、ある意味あのYouTuberが一番良心的だったのかもね」
自分の力量を弁え、一切金銭を要求することはない。
確かにあのおばさん霊能者と比べれば、実に良心的だ。
「あのおばさん霊能者、さっき三十万する木彫りの鮭を売ろうとしてたからなぁ」
「たっか。買ったの?」
「自治会長が何とか踏み止まってたけど悩んでた……」
「そっか。まぁまだ事態が解決してないと思ってたら買っちゃうかもね、木彫りの鮭。他にアテがあるなら別だけど」
「ちなみに木彫りの鮭なんて三十万に値する効果はあるの? 風水的に」
「さぁ?」
「さぁって……」
「だってわたし、そんな小細工したことないもん。風水は専門外だし」
「…………」
私は初めてお目に掛かった。
風水を小細工と言う人間を。
「広間を出る前にも言ったけど、わたしはほとんど歩くだけで並みの霊は追い祓えちゃうからね。厳密には歩きながらフェロモンを振り撒くわけだけど」
「ふ、ふぇろもん?」
私は本題に似つかわしくない単語に思わず顔をしかめたけれど、天ノ宮さんの顔には至って屈託のない笑みが浮かぶ。
「そう、
「あ、そういう……」
まぁ何となく言いたいことは察することができた。
つまるところ、熊が縄張りを示すために樹木に付ける爪痕とか、糞や尿の臭いで天敵を遠ざける動物とか、そんな感じか。……前者はともかく、我ながら後者の
まぁ確かにそれだったら、風水なんていうものはこの子にとっては小細工なんだろうな。
と、そのとき、デニムのポケットに入れてきた私のスマホが何かの通知の受信音を発した。
取り出し、確認する……と。
「あぁ、買っちゃった……」
それは自治会長が木彫りの熊を購入したという、稜子ちゃんからのメッセージだった。
しかも三十万は飽くまで木彫りの鮭の代金で、報酬はまた別で一万五千円取られたという。
あぁもう、広間を出るとき、決して早まらないように言い置いてきたのに。
まったく、これだから男ってヤツはホントにまったく……。
「買っちゃったかぁ」
要領を得ないはずの私の嘆きだったけれど、それだけですべてを察した天ノ宮さんはどこか楽しそうにそう相づちを打った。
そして提示してきたのは、まるで想定外の次善策。
「それじゃあ、まぁ、それをわたしへの報酬だと思っておけばいいよ」
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